「あらゆる物語には、サスペンスがある。」
鋭利な観察眼と執拗な心理描写、深い洞察と巧みな構成で
世界中の読者を魅了するサスペンスの巨匠が、
「書くこと」と「仕事にすること」についてのノウハウを明かす。
「私は物語のきっかけになるような日々の出来事からこの本を始めている。作家はそこから進んでいく——まず作家が、次に読者が動き出す。芸術はいつでも、おもしろいことや、数分ないし数時間を費やす価値があると思えることを語って、読者の気を惹けるかどうかの問題なのである。」(本文より)
鋭利な観察眼と執拗な心理描写、深い洞察と巧みな構成で多くの文芸ファンをも魅了するサスペンスの巨匠、パトリシア・ハイスミス。「この本はハウツー式の手引き書ではない。どうすれば成功する本、つまり読みやすい本が書けるかを説明することは不可能である」と本書冒頭で確言する著者が、自らの「小説を書くことと、それを職業にすること」についてのノウハウを明かした、文章読本・執筆論。
本書は、1966年に初版が刊行され、その後なんども版元を変えながら現在まで熱心に読み継がれてきたハイスミスの隠れた名著。長編・短編集を合わせ30タイトルほどある作品のほぼすべてが邦訳されている作家の唯一の小説指南書であり、今回が待望の初邦訳となる。
何が「小説を書くこと」を専門的職業としうるのか、なおかつ何がそれを刺激的で生き生きとしたものにするのか。同時に、絶えず失敗の可能性を秘めたものである「執筆」において、失敗から学べることとはなんなのか。ハイスミスは本書において、サスペンス小説の重要な要素をプロセスに分けて解説し、アイディアの芽、書き始め、プロットの作り方、行き詰まり、初校、改稿など、自身の小説から豊富な実例を示しながら余すところなく説明していく。自身の経験から成功や失敗についても包み隠さず語られ、そのキャリアに基づいた実践的なアドバイスは、失敗や行き詰まりを経験した作家志望者の心を必ず捉えるだろう。
ミステリに限らず、全てのジャンルの小説家志望者必読書!
多くの駆け出しの作家が、著名な作家は成功の方程式を持っていると考えている。本書はとりわけそうした考えを一掃する。執筆に成功の秘密はなく、あるのはただ個別性だけだ――それを個性と呼んでもいい。そして、一人ひとりみな異なっているのだから、周囲の人間との違いは、その個別の人間が表現するしかない。私が魂の解放と呼ぶものである。といってもそれは、神秘的なものではない。それはただ、ある種の自由――整えられた自由なのだ。(本文より)
メディア掲載
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読売新聞 2022年6月12日 評者:宮部みゆき
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日本経済新聞 2022年3月3日 評者:速水健朗
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週刊文春 2022年3月31日号 評者:酒井順子
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翻訳ミステリー大賞シンジケート「クラシック・ミステリ玉手箱」評者:ストラングル・成田さん
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『ミステリマガジン』2022年5月号 評者:三橋曉
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『ミステリマガジン』2022年7月号 評者:嵩平何
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『ジャーロ』「読書日記第35回」阿津川辰海
目次
序
新版のためのまえがき
第1章 アイディアの芽
第2章 主に経験を用いることについて
第3章 サスペンス短編小説
第4章 発展させること
第5章 プロットを立てる
第6章 第一稿
第7章 行き詰まり
第8章 第二稿
第9章 改稿
第10章 長編小説の事例──『ガラスの独房』
第11章 サスペンスについての一般的な事柄
訳者解説 坪野圭介
プロフィール
[著]
パトリシア・ハイスミス(Patricia Highsmith)
1921年テキサス州フォートワースに生まれ、ニューヨークで育つ。生涯の大半をヨーロッパで過ごした。初期長編作品『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい』が映画化され、人気作家に。『太陽がいっぱい』でフランス推理小説大賞(1957年)、『殺意の迷宮』で英国推理作家協会(CWA)賞(1964年)を受賞。鋭利な観察眼と執拗な心理描写、深い洞察に裏打ちされた巧みな構成の作品は、サスペンスのジャンルを超え、今なお多くの文芸ファンを魅了している。1995年没。
[訳]
坪野圭介(つぼの・けいすけ)
1984年東京都生まれ。和洋女子大学国際学部助教。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。専門はアメリカの文学と文化。主な訳書・共訳書にエミリー・アプター『翻訳地帯──新しい人文学の批評パラダイムに向けて』(共訳、慶應義塾大学出版会)、ベン・ブラット『数字が明かす小説の秘密──スティーヴン・キング、J・K・ローリングからナボコフまで』(DU BOOKS)、チップ・キッド『判断のデザイン』(朝日出版社)、デイヴィッド・シールズ&シェーン・サレルノ『サリンジャー』(共訳、KADOKAWA)など。