読むことの基礎と批評理論の現在が学べるキーワード集
フェミニズム、環境批評、ポストヒューマン、精神分析、ポストコロニアリズム……
多彩なトピックから文学の可能性に飛び込もう!
本書では文学理論の基礎的な知識を解説しつつ、最新の文学理論の潮流を初学者にも分かりやすく解説しています。
第1部「基礎講義編 ― 文学理論のエッセンス Fundamentals」では、文学理論の根本問題である「テクスト/読む/言葉/欲望/世界」の5つのテーマについて論じ、第2部「トピック編 ― 文学理論の現在(いま)を考えるために Topics」では、文学理論の現在進行形の諸問題についてのトピックを取り上げ、新たな思索の糸口を発見=発明することを目指しています。
文学好きの読者には「もっと深く読む」ために必要な知識を得るための本として、学生や研究者には、レポートや論文を執筆する際の手引きとして有用な一冊。
シリーズ[クリティカル・ワード]
現代社会や文化および芸術に関わるさまざまな領域を、[重要用語]から読み解き学ぶことを目指したコンパクトな入門シリーズ。
基本的かつ重要な事項や人物、思想と理論を網羅的に取り上げ、歴史的な文脈と現在的な論点を整理します。もっと深く理解し、もっと面白く学ぶために必要な基礎知識を養い、自分の力で論じ言葉にしていくためのヒントを提供します。
この本を手にとったあなたは、きっと、「文学」という漠としたことばにどこか惹かれるものを感じて―とまではいかずとも、どこか引っかかるところがあって、いま、このページを開いたのでしょう。「文学作品」と呼ばれる詩や小説、戯曲やエッセイなどを読んで、なにか得体のしれない〈大きなもの〉にふれた/ふれられた経験をしたことがきっかけ、という人も少なからずいることでしょう。その〈経験〉になんらかの〈表現〉をあたえたくて、自分でもなにか別の作品を書いてみたり、絵画や音楽といった異なる媒体をためしてみたり、はたまた親からあたえられたこの身体をさまざまに動かしてみたり(逆に、動きを止めて観じてみたり)、いろいろとあがいてみた人もあるかもしれません。そういった〈表現〉を手助けする手段のひとつとして、「理論」―〈思索〉についての〈思索〉―と呼ばれる、またひとつの漠とした領野(フィールド)があると考えてみてはいかがでしょう。
――三原芳秋(本書「はじめに」より抜粋)
目次
はじめに
第1部 基礎講義編 ― 文学理論のエッセンス Fundamentals
第1章 テクスト 郷原佳以
フィクション論
テクスト的現実
エクリチュール
脱構築
ディスクール/イストワール
言語行為論
言語の非人称性
◎もっと〈テクスト〉について知るための10冊
第2章 読む 三原芳秋
懐疑の解釈学
対位法的読解
徴候的読解
表層的読解
妄想的読解と修復的読解
◎もっと〈読む〉ことについて知るための10冊
第3章 言葉 渡邊英理
翻訳
マイナー文学、少数派(マイナー)的な政治/多数派(メジャー)的な政治
ポリフォニー・聞き書き
表象
脱植民地化と脱冷戦・グローバル化
◎もっと〈言葉〉について知るための10 冊
第4章 欲望 新田啓子
同性愛とクィア
ミソジニーと家父長制度
フェミニズム文学批評
奴隷制廃止論
性欲望・性愛・性幻想
◎ もっと〈欲望〉について知るための10冊
第5章 世界 鵜戸聡
近代文学・エートス・エグゾティスム 国語・オラリティ
検閲・流通
パラテクスト
世界・世界観・世界文学
◎ もっと〈世界〉について知るための10冊
第2部 トピック編 ― 文学理論の現在(いま)を考えるために Topics
第6章 帝国/ネーション/グローバル化と文学 橋本智弘
ネグリチュード
植民地解放理論
オリエンタリズム
サバルタン
擬態(ミミクリー)と雑種性/異種混淆性(ハイブリディティ)
19世紀のナショナリズム論
現代のナショナリズム論
ポスト・ナショナリズム
世界文学論(19世紀-)
世界文学論(現代)
ポストコロニアル・エコクリティシズム
第7章 ポストヒューマン/ニズムと文学 井沼香保里
アンチヒューマニズム
動物論
生成
アクター・ネットワーク論
日本における存在論的転回
オブジェクト指向存在論
思弁的唯物論/実在論
自然と文化
サイボーグ
第8章 環境と文学 磯部理美
人新世/環境人文学
エコクリティシズム/環境批評
動物と人間/(脱)人間中心主義
ネイチャーライティング
空間(スペース)と場所(プレイス)/場所の感覚
パストラル/ロマン主義/都市と田園
ディープ・エコロジー/ 生態(生命)地球主義(バイオリージョナリズム)
土地倫理(ランド・エシック)
ユートピア/ディストピア/エコトピア
エコフェミニズム
進化論/ダーウィニズム
原爆文学/核文学
震災と文学
第9章 精神分析と文学 森田和磨
ジグムント・フロイトの思想
ジャック・ラカンの思想
精神分析と文学批評
シュルレアリスム
フロイト理論とマルクス主義
ラカン理論とマルクス主義
前エディプス期
精神分析とフェミニズム
トラウマ理論
精神分析と日本人論
第10章 ジェンダー・セクシュアリティと文学
フェミニズム運動と文学への影響
ポスト構造主義とジェンダー系批評理論の黎明
ブラック・フェミニズムと黒人文学の軌跡
フランス系フェミニズムと現代女性文学の展開
ポストコロニアル・フェミニズムと文学理論の再構築
クィア批評(1)イヴ・K・セジウィック
クィア批評(2)ジュディス・バトラー
世界の文学(裏) 道案内 鵜戸聡
Book Guide ― 文学理論の入門書ガイド 渡邊英理
おわりにかえて
人名索引・事項索引
プロフィール
[編著]
三原芳秋
一橋大学大学院言語社会研究科教授。コーネル大学Ph.D.(英文学・文学理論)。批評誌Ex-position ,⦆40号(2018年)特集 “Literary Criticism Scene of the 1980s, Revisited” ゲスト・エディター。編訳書にゴウリ・ヴィシュワナータン『異議申し立てとしての宗教』(みすず書房、2018年)。第2章を執筆。
渡邊英理
大阪大学大学院人文学研究科准教授。東京大学博士(学術)。近現代日本語文学。著書に『中上健次論』(インスクリプト、2021年)、共著書に『戦後日本を読みかえる4 高度経済成長の時代』(臨川書店、2019年)、『翻訳とアダプテーションの倫理』(春風社、2019年)。第3章とBook Guideを執筆。
鵜戸聡
明治大学国際日本学部准教授。東京大学博士(学術)。フランス語圏アラブ゠ベルベル文学。共著書に『世界の文学、文学の世界』(松籟社、2020年)、『国民国家と文学』(作品社、2019年)など。訳書にカメル・ダーウド『もうひとつの「異邦人」』(水声社、2019年)。第5章と「世界文学(裏)道案内」を執筆。
[著]
郷原佳以
東京大学大学院総合文化研究科准教授。パリ第7大学Ph.D.(テクストとイメージの歴史と記号学)。著書に『文学のミニマル・イメージ モーリス・ブランショ論』(左右社、2011年)、訳書にエレーヌ・シクスー/ジャック・デリダ『ヴェール』(みすず書房、2014年)など。第1章を執筆。
新田啓子
立教大学文学部教授。ウィスコンシン大学マディソン校Ph.D.(アメリカ文学、文化理論)。著書に『アメリカ文学のカルトグラフィ』(研究社、2012年)、編著に『ジェンダー研究の現在』(立教大学出版会、2013年)、訳書に『ブラック・ノイズ』(みすず書房、2010年)など。第4章を執筆。
橋本智弘
青山学院大学文学部准教授。ポストコロニアル理論/文学。共著書に『バイリンガルな日本語文学』(三元社、2013年)、『ノーベル文学賞にもっとも近い作家たち』(青月社、2014年)。第6章を執筆。
井沼香保里
同志社大学グローバル地域文化学部嘱託講師。戦間期英国の心霊主義的状況を研究。論文に「コティングリー・フェアリー写真事件における「現実」の多層性」(『言語社会』12号、2018年)など。第7章を執筆。
磯部理美
一橋大学大学院言語社会研究科博士後期課程。イギリス児童文学。論文に“ Where Children Encounter the Past: Reading Time-Slip Fantasy as Literature of Place”(Correspondence ,4号、2019年)、「〈目に見えないもの〉の語り│Lucy M. Bostonの環世界を読む」(『Tinker Bell 英語圏児童文学研究』64号、2019年)。第8章を執筆。
森田和磨
一橋大学大学院言語社会研究科博士後期課程。アジア太平洋戦争以後の日米文学。論文に「石原吉郎『望郷と海』における「証言」についての一考察」(『言語社会』12号、2018年)など。第9章を執筆。
諸岡友真
立教大学大学院英米文学専攻博士後期課程。アメリカ文学。論文に「『もう一つの国』における愛の政治学」(『立教ジェンダーフォーラム年報』21号、2020年)。第10章を執筆。