ためし読み

『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』

イントロダクション:人物の心の変化をストーリーの中で構成できますか?

人物が素晴らしい変化を遂げるストーリー。それを書く秘訣があるなら、皆さんは知ってみたいと思うでしょうか。読者の心をつかんで揺さぶり、趣味の域をはるかに超えた深みのある作品が書きたいなら、答えはもちろん「イエス!」でしょう。

この本では人物がたどる変化の軌跡を「キャラクターアーク」と呼んでお話ししていきます。実はこのキャラクターアークは「あって当然」と思われがちなもの。なぜなら、アークの本質は三つの文で言い表せてしまうからです。

1 主人公がある状態で登場する。
2 主人公が物語の中で何かを学ぶ。
3 主人公が(おそらく)前よりよい状態になる。

これがキャラクターアークの基本です。確かに単純で当たり前に聞こえますね。でも、ストーリーテラーが知っておくべきことは山のようにあるのです。

キャラクターアークとストーリー構成との関係

物語を作る時、人物とプロットを分けて考える人は多いでしょう。すると、プロットの運びを重視したい局面で、人物の心情を二の次にする時も出てきます。でも、プロットと人物は一心同体。どちらか一つをおろそかにすればストーリーは危機に陥ります(また、両者を切り離して考えるだけでも危険です)。プロットだけが褒められる作品、あるいは人物像だけが褒められる作品は書けるかもしれません。しかし、総合的に素晴らしいまとまりがある作品は書けるでしょうか。

プロットの構成を考える人はたくさんいますが、登場人物とそのアークに対する意識は曖昧になりがちです。というのも、人物を素直に描いていけば心情の移り変わりは自然に表れるはずですから。「キャラクターの内面の変化や成長の推移も構成して下さい」と言われたら、物語を書くのもなんだか窮屈に感じられそうです。

確かに、そうです。内面の移り変わりまで考える必要はなさそうですよね。

実は、それは誤解なのです。「プロットと人物は一心同体」というのはプロットの「構成」と人物の「アーク」が一体だということ。ロバート・マッキーの名著『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』(越前敏弥訳、フィルムアート社)にはこうあります。

構成と登場人物のどちらが重要かという問いには意味がない。というのも、構成が登場人物を形作り、登場人物が構成を形作るからだ。このふたつは等しいものであり、どちらが重要ということはない。

すでに物語の構成術に触れたことがある方は、キャラクターアークの構成についてもご存じかもしれません(私も前著『ストラクチャーから書く小説再入門』でご紹介しています)。主要なプロットポイント(プロットの転換点)は人物のアクションとリアクションをめぐって展開します。マイケル・ヘイグの著書『Writing Screenplays That Sell(売れる脚本を書く:未邦訳)』には次のように書かれています。

物語の三つの幕は主人公のモチベーションの変化の三段階と一致する。主人公のモチベーションが変わるところを探せば、幕の切り替わりがわかる。

人物がプロットを動かし、プロットがキャラクターアークを作ります。両者は切っても切れない関係にあるのです。

人物とテーマはつながっている

さらに嬉しいことに、人物の内面の移り変わりはテーマにもダイレクトに反映されます。ある意味で、キャラクターアークとテーマは同じと言えるかもしれません。

ストーリー作りで最も大切な要素は構成、テーマ、人物です。この三つは互いに関連し合って成立します。むしろ単体では機能できません。共生するのです。

三つを合体させて考える必要があるからストーリー作りは複雑。しかし、三つをまとめて考えれば単純化できる、とも言えます。三つの要素は一体ですから、完成したプロットが優れていれば、人物もテーマも優れたものになるはず。人物の内面の移り変わりがしっかり構成できれば、プロットもテーマも安定します。

キャラクターアークには三つの基本形がある

人物設定のバラエティは無限にありますが、キャラクターアークは基本的に三種類に絞れます。その中でいくつかバリエーションがあるだけです。

ポジティブな変化のアーク(以後、ポジティブなアーク)
最も好まれ、共感を得るアークです。何かに対して不満や否定的な考えを抱く主人公が困難に出会い、自分の中のネガティブな側面を克服(その結果、敵対者も倒す)。主人公がポジティブな変化を遂げ、ストーリーが終わります。

フラットなアーク
初めから主人公のあり方がほぼ完成されているアークで、これも人気作品に多いパターンです。ヒーローは大きな成長や変化をほとんど必要としないため、アークはフラット(平坦)であり固定的。むしろヒーローに触発された脇役たちが成長し、周囲をとりまく世界が変化します。

ネガティブな変化のアーク(以後、ネガティブなアーク)
多くのバリエーションがありますが、基本的には「ポジティブなアークの逆」で、人物が転落します。ポジティブなアークでは欠点がある人物がよい方向に成長しますが、ネガティブなアークの人物は最初よりも悪い状態になって終わります。

三つの中で最も複雑なのはポジティブなアークです。これをマスターすれば残りの二つも理解しやすいですから、まずはポジティブなアークについて説明していきますね。

キャラクターアークを作るには、まず何を考えればいいか。ストーリーの構成とはいつ、どのように関係し合うのか。結局のところ、キャラクターアークはどんな働きをするか。作品の長さや内容、ジャンルに関わらず、優れたキャラクターアークを確実に作る秘訣とは何か。それをこれからお話ししていきましょう。

※掲載しているすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。

キャラクターからつくる物語創作再入門

「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ

K.M.ワイランド=著
シカ・マッケンジー=訳
発売日 : 2019年3月26日
2,200+税
A5判・並製 | 248頁 | 978-4-8459-1822-5
詳細を見る