ためし読み

『〈穴埋め式〉アウトラインから書く小説執筆ワークブック』

はじめに

アウトラインとは何でしょう? それはロードマップ? 作戦図? チェックリスト?

どれも正解―そして、それ以上の機能があります。既刊『アウトラインから書く小説再入門』で述べたとおり、アウトラインの捉え方は自由です。ストーリーのプランを複数のノートに書き溜めてもいいし、付箋にわずかなアイデアを走り書きするだけでもかまいません。アウトラインの作り方は重要ではありません。ただひとつ大切なのは、小説という大きなパズルを完成させるあなたにとって役立つか否か、ということです。

アウトラインが小説の執筆を簡単にする理由

小説は単純に見えるかもしれません。始まりがあり、真ん中があり、終わりがあります。2、3人の登場人物たちに英雄的な旅や恋愛をさせればできあがり! 確かに、それでストーリーにはなりますが、いきなり素材を混ぜ合わせて書くその人自身も、確かなレシピがないことを意識しているでしょう。基本の素材を扱うだけで精一杯なはずです。

カップ麺ならお湯を注ぐだけですが、小説は本格的なパスタのように、一から作らなくてはなりません。たまには運よく、すんなりできる時もありますが、そうした魔法のような創作には、論理的な裏付けもまた、たくさん存在するのです。

覚えておくべきことはたくさんあります。でも、初稿を書くのに熱中している時に、それらを思い出すのは至難の業。はやる気持ちで卵と小麦粉を投入し、名人のレシピを見ないで傑作を期待するなら、運や奇跡が必要です。

しかし、あらかじめアウトラインで準備をすれば、すべての素材を絶妙な加減で書き上げ、自信をもって完成させることができます。

簡潔に見えても、ストーリーは複雑。いいストーリーは、パズルのピースが全部、ぴったりと収まっているのです。頭の中でランダムに思い浮かべたものが、完璧な形で転がり出てくるわけではありません。むしろ、最初と最後がかみ合うように計画された、全体的なまとまりがあるものです。書き手がエンディングを知らなければ、それに合うオープニングの書き方もわからないでしょう。ストーリーを紡ぐ要素を知らなければ、それを支える枠組みの作り方もわかりません。

そこで、アウトラインを作ります。

アウトラインを作れば、小さなディテールを編み合わせる前に、作品の全体像がつかめます。確信をもって初稿が書けて、書き直しに費やす時間がぐんと減るでしょう。

このワークブックの使い方

2011年に原書を刊行した『アウトラインから書く小説再入門』には驚くほどの反響がありました。小説のこまかな部分に整合性をもたらすためには計画が必要だと、ほとんどの書き手が認めています。それにも拘らず、アウトラインとは数字を振ったリストだという固定概念を持ち続ける人もたくさんいます。

『アウトラインから書く小説再入門』では、あらすじを1文で表すプレミスの作成、プロットのブレインストーミング、キャラクターへのインタビュー、ストーリーの起伏を生み出すアーク作りなどの実践的な方法をご紹介しました。このワークブックにあるのは私が、自分の歴史小説や空想小説を書く時に編み出した方法ですが、どんな書き手のニーズにも無限に応用できます。

このワークブックは『アウトラインから書く小説再入門』に掲載した質問を網羅し、さらに発展させています。エクササイズの概要と共に、既存の書籍や映画のプロットやストーリー、私が作ったアウトラインを例として各章に挙げ、それに対応する『アウトラインから書く小説再入門』の頁も載せています。ワークブックに書き込む前に、教科書のようにして参照して頂ければ応用もしやすくなるでしょう。

このワークブックでは、あなたのストーリーの全体像とディテールとを行き来し、章を追うごとに構想が固まるようになっています。質問の答えがしっかり書けたら、その分だけ、小説を書く準備が整っているということ。でも、書けない部分はどんどん後回しにしていきましょう。ただし、いくつかの項目(伏線や舞台設定など)は、他のステップを書き終えるまで埋められない場合もあります。ワークブックはあくまでも考える過程です。あなたが不自由さを感じる質問や、自分のストーリーには当てはまらない質問には答えなくてかまいません。

ワークブックの空欄が足りない場合もあるでしょう。あらかじめ、ノートを別に用意すれば万全です。

アウトラインを活用すれば、実践的で的を絞った執筆ができます。今までの古い手順で落ち着いてしまうのはもったいないこと。このワークブックを使って、あなたが書きたいストーリーを深く掘り下げ、アウトラインの効果を存分に引き出して下さい。

第 1 章 プレミス

アウトラインを作ろうと思う頃には、すでに数日間から数年間、ストーリーのアイデアを温めてきたことでしょう。わからない部分が多くても、そろそろ始めていい時です。

主な登場人物たちやいくつかのシーン、おおまかな葛藤と対立が思い描けていたり、エンディングをどうするかもなんとなく想像できていたりするでしょう。

まず、キャラクターとプロットとテーマを1文か2文で伝える「プレミス」を書きましょう。主人公は誰で、何をしようとするか? それを阻む人物や物事は? 失敗すれば何を失うか? これらをはっきりさせる短文を書くのです。

それは、あなたの決意表明です。書きたいストーリーの内容だけでなく、その種類も考えましょう。それは、ぐいぐい読ませるアクションスリラー? ゆったりとした大河小説? 華麗な歴史ロマンス?

今、ここで書いたプレミスは確定的なものではありません。後で気が変わったら、ためらわずに書き換えて下さい。とりあえず、現時点でのアイデアをひとつかふたつの文に煮詰めておけば(方法はこの後ご説明します)、次にすべきことがわかります。

※掲載しているすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。

〈穴埋め式〉アウトラインから書く小説執筆ワークブック

K.M.ワイランド=著
シカ・マッケンジー=訳
発売日 : 2021年6月26日
1,800円+税
B5判・並製 | 136頁 | 978-4-8459-2100-3
詳細を見る