ためし読み

『テーマからつくる物語創作再入門 ストーリーの「まとまり」が共感を生み出す』

イントロダクション:テーマ=キャラクター=プロット

昔むかし、キャラクターはプロット〔物語の筋のこと〕に恋をしました。二人は最初から波乱万丈。燃える二人は壮絶な危機にも襲われ、互いに「もう、無理」と心が折れた日もありました。でも、二人を分かつのは不可能でした。絶交したまま一つか二つ、物語を紡いでみても、なんだかつまらない。やっぱり二人はより・・を戻します。時を超え、前世でも現世でも、また来世でも、必ず求め合うのです。

遠くから、黙って二人の縁を結びつけようとしていたのはテーマでした。人々の話題がプロット対キャラクターでもちきりだった時も、両者をつなげていたのはテーマだったのです。二人が憎み合っている時でさえ、テーマは仲を修復すべく、舞台裏で苦心して働きました。二人が共にいることに意味を与えたのです。二人がチームになるように。

どんなフィクションにも、この素晴らしい三角関係が働いています。

「鳥が先か、卵が先か」と問うように、書き手はプロットとキャラクターとを天秤にかけようとします。どちらを先に考えるべき? どちらが大切? どちらが真の名作の証?

どれも見当違いの議論です。

そもそも、正解などありません。一つはキャラクター主導で描く技法、もう一つはプロット主導で描く技法というだけで、どちらも正当です。それよりも重要な点は、「キャラクターかプロットか」という思考では、全体を俯瞰した時に見えるはずの「三位一体」を見失いがちになること。三角形の頂点にあるテーマは、おぼろげな存在のようでいて、パワフルです。

プロットとキャラクターを一生懸命に考える人は多いのに、テーマが置き去りにされがちなのは、なぜでしょう?

理由はいくつかあります。

第一に、書き手がテーマを別の枠組みとして捉えているからです。プロットとキャラクターは具体的に考えることができますが、テーマは抽象的です。また、プロットやキャラクターの作り方なら、それを学べる講座があるでしょう。それではテーマの作り方はと言えば、「まあ、それは自然に表れてくるから」と、曖昧な態度で済まされることが多いです。

「テーマとは、つかみどころがないものだ」という考えを、まるで宗教のように信仰してしまう作家たちもいます。意欲にあふれた新人が質問をすると(例:「力強いテーマがあるストーリーは、どうすれば書けますか?」)、意味がわからない答えが返ってきます(例:「テーマを書こうとしちゃいけない」)

この曖昧さは、テーマの機能や相互作用に対する理解不足の表れです。テーマ面での失敗作の中には、あまりにもテーマが前面に出ていて、読んでいて恥ずかしくなるものが多いでしょう。それを反面教師にして学べばよいのですが、そうはせずに、テーマを考えること自体を避けてしまう人がたくさんいます。

力強いテーマが書き手の潜在意識から、自然に生まれる場合も確かにあります。でも、そうした自然な表現の裏には、書き手の意図がきちんと働いています。その意図とは、ストーリーテリングの他の要素を理解して活かそうとすることです。そして他の要素とは、プロットとキャラクターのことを指します。

そこに秘訣があります。プロットとキャラクターアーク〔ストーリーを通して描かれる登場人物の変化の軌跡〕を構築するのと同じように、テーマも構築できるのです。もう、「うまくテーマが表れますように」と神頼みをする日々とはさようなら。「プロットとキャラクターはいいけど、ストーリーとしては駄作」と言われる心配もなくなります。お説教じみた文章で読者をしらけさせることもありません。

それどころか、ぼんやりとしたテーマに光を当てることで、ストーリー創作の指針にできるのです。

先ほどは、プロットとキャラクターにテーマを加えて三角関係としましたが、実際は、くるくると円のように循環すると言う方が近いでしょう。ストーリーの「三大要素」として、三者は常に関係性を刷新し続けます。

プロットとキャラクターとテーマは、ばらばらには存在していません。むしろ、ばらばらでは発展など不可能です。ストーリー全体を俯瞰すれば、これらの三大要素が一体となって共生していることがわかるでしょう。

テーマとは、「ふと主人公が口にする、色紙に書かれているような格言」以上のものです。テーマはキャラクターを作ります。テーマによって作られたキャラクターはプロットを生み出します。そのプロットから、またテーマが出現します。現れたテーマはまたキャラクターを発展させ、そのキャラクターがプロットをさらに発展させ、そのプロットは再びテーマに立ち返り……と、永遠に循環しながら育っていくのです。

正直に言うと、その循環について考えるだけでも、私のマニアックな探究心に火がつきます。テーマとは、全体像を俯瞰すると見えてくるパターン。プロットやキャラクター作りに対しても、テーマは高い次元で影響を与えたり受けたりするでしょう。

アメリカの小説家ジョン・ガードナーの古典的名著『The Art of Fiction(未)』にはこう書かれています。

テーマは(中略)ストーリーに課すものではなく、ストーリーの内側から進化するものだ―― 最初は直感的だが、やがて書き手の知的な行為になっていく。

つまり、書き手であるあなたは、三大要素のどれから考え始めても、それを使って残りの二つの要素にまとまりを生み出せる、ということです。プロットを考えている時は、そこにキャラクターとテーマの種が宿っています。キャラクターを考える時も同じです。伝えたいテーマが最初に思い浮かんだ場合でも、道徳の話のようにはなりません。パワフルなメッセージを「語る」代わりに、プロットとキャラクターを使えば「描く」力が得られるからです。

全体を俯瞰して、プロットとキャラクターとテーマの三者を眺めることに慣れてくれば、どれか一つを練っている時も、三者を分けて考えるのが逆に難しくなるでしょう。

ストーリーテラーの最終的な目的は、一枚の大きな絵のような作品を読者に提示することです。そのためには、頭の中でその絵を分解し、どんなパーツがあるかを把握することが重要でしょう。それだけでも「テーマとは曖昧なものだ」という印象は消えるはずです。ストーリーを作る大きなピースと、そうでないものとが見分けられたら、三者の相互関係がわかりやすくなります。

もちろん、そこには深くて繊細なニュアンスがあります――これからお話しすることには、プロットの構成やキャラクターアークなど、すべてが包括されているからです。では、手始めに、ストーリー全体を三つ(と半分)の層に分けてみましょう。

1a.プロットに表れるアクション

主人公(と、他のキャラクター)の能動的な動きと反応。ストーリーの中で起きる出来事であり、キャラクターが体験し、(小説の場合)読者が視覚化するアクションです。

▼例

南北戦争に従軍中のインマンは、戦場を抜け出して故郷に帰ろうとする。(チャールズ・フレイジャー作『コールドマウンテン』)
作家のジュリエットは島民たちに話しかけ、第二次世界大戦中に起きたことを聞き出そうとする。(メアリー・アン・シェイファー作『ガーンジー島の読書会』)
弁護士のシドニー・カートンは亡命貴族のチャールズ・ダーネイを救おうとする。(チャールズ・ディケンズ作『二都物語』)
主人公カラディンは奴隷として、破砕平原で延々と続く戦争で戦う。(ブランドン・サンダースン作『王たちの道』)

1b.メインコンフリクト(物語の中心となる対立や葛藤)

メインコンフリクトは「1a.プロットに表れるアクション」とも重なりますが、実現の仕方が異なる面もあるため、ここでは分けておきます。「プロットに表れるアクション」は行動や出来事ですが、メインコンフリクトは内面の動きを示すことも多いです。言い換えれば、それは主人公が解き明かすべき謎のようなもの。その言葉通り、物語の中でミステリーとして示すこともあれば、プロットでの最終目的地を目指す主人公が出会う対立や葛藤、結果で表現することもあります。

▼例

インマンは手探りで山道を進み、途中で人に見つかるたびに対処をし、故郷に戻る手立てを考える。(『コールドマウンテン』)
ジュリエットは島民から話を聞き出す方法を探しながら、読書会の創設者エリザベス・マッケンナが島から失踪した謎を追う。(『ガーンジー島の読書会』)
カートンはフランスに行き、ダーネイを救う計画を考える。(『二都物語』)
カラディンはまず奴隷として、次に兵士として、生き延びる方法を考える。(『王たちの道』)

2.キャラクターアーク

キャラクターアークは内面の葛藤の表れです(主人公のものだけとは限りません)。この内面の葛藤は「1a.プロットに表れるアクション」である対外的な衝突に影響を与えたり、影響を与えられたりして変化します。

ここまで「1a.プロットに表れるアクション」から順番に、表に現れやすい層から挙げていることに注目して下さい。順を追うほど層が深くなり、ストーリーの核心に近づいていきます。プロットで描くアクションとは、結局、キャラクターの心の奥深くにあるものを表す暗喩(メタファー)だと考えて下さい。これが理解できれば、抽象的なテーマをストーリー上に描き出すための重要な鍵の一つを手に入れたことになります。

▼例

インマンは南北戦争への疑問が拭えず、恋人エイダが待つ故郷に戻りたくて苦悩する。(『コールドマウンテン』)
ジュリエットはガーンジー島が好きになり、特に、読書会のメンバーである温和で無口なドーシーに惹かれる。(『ガーンジー島の読書会』)
ダーネイを救おうとするカートンは、ダーネイの妻ルーシーへの想いを断ち切らねばならず、苦悩する。(『二都物語』)
カラディンは奴隷となった自身の運命に対する嘆きや憎しみと、自らの天性の高潔さや指導者としての才能との間で葛藤する。(『王たちの道』)

3.テーマ

最も深い層にたどり着きました。テーマはストーリーの層の中では最も見えにくいものですが、最も重要な層でもあります。前に挙げた浅い層にあるものすべてを包括する層だからです。主人公のキャラクターアークとプロットに表れるものの根底には、テーマの「真実」と「噓」をめぐる象徴的な議論があります(この議論が内面で起きているために、キャラクターは成長の必要に迫られます)

▼例

戦争によって引き離されたインマンとエイダの苦しみと、はかない再会を通して、苦悩する意味とは何かが内面的なテーマとして描かれる。(『コールドマウンテン』)
島の人々の素朴な勇気や誠実さに惹かれ、ジュリエットは自らの人生の目的と意味に気づく。(『ガーンジー島の読書会』)
ダーネイのために自らの命を差し出すカートンは、悲しい人生を受け入れて「今までにしたどんなことより、ずっと、ずっといいこと」を成し遂げる。(『二都物語』)
悔しさや憎しみを懸命に乗り越えるカラディンに応えるように、人々は賛否両論を唱えながらも、ついに彼を支持。カラディンはリーダーとして、人々のために身を捧げる決意を固めていく。(『王たちの道』)

表面に表れやすい順序(プロット→キャラクター→テーマ)で挙げましたが、ストーリーを構築する上での重要度で順番を並び替えると、実はその逆になります。

どんなタイプのストーリーを書く場合も、三大要素(プロット、キャラクター、テーマ)のバランスが成功の鍵です。どれか一つを発想し、アイデアを練る時も、三大要素を総合的に考えながら詰めていくことが必要です。それができればテーマに光が当たり、ストーリーに深い意味や目的を持たせることができるでしょう。

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テーマからつくる物語創作再入門

ストーリーの「まとまり」が共感を生み出す

K.M.ワイランド=著
シカ・マッケンジー=訳
発売日 : 2021年12月27日
2,200円+税
A5判・並製 | 264頁 | 978-4-8459-2111-9
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