シンプルで楽しいイラストと、想像力をくすぐられるセンテンスで、本質をわかりやすく学べる〈101のアイデア〉シリーズ。2021年11月26日に刊行された『広告・宣伝を学ぶ 101のアイデア』は、広告・宣伝の基本を知る最適で最高の入門書となっています。今回はその中から、まえがき全文を公開します。中面と併せてぜひご一読ください。
まえがき
アメリカの広告産業は数千億ドル規模とはいえ、それだけでは成り立ちません。ほかのビジネスに完全に依存しているのです。広告業界の人間はよく「広告の仕事をしています」と言いますが、実際に関わっているのは、自動車、映画、スーパーマーケットほか各種小売、通信、保険、テクノロジー、教育、金融、旅行、エネルギー、医薬品、製造、ホテルや飲食店など、さまざまな業界なのです。
わたしは、そうとは思いもよらずに広告を学ぼうと決めたのでした。数学オタクだったので、自分の分析能力を金融とか化学工学とかではなく、もっとわくわくする分野で活かせる仕事に就きたかったのです。それには、自分のコンフォートゾーン〔得意分野など、ストレスなく活動できる領域〕からうんと離れて進むことが必要でした。広告を学びに来ていたほかの人たちのほうが、わたしよりこの分野に適しているように思えました。アート、ライティング、写真、心理学、情報科学といった技術や知識のある人たちだったからです。ところが結局、わたしたちは全員、実に多くのことを学ばなければなりませんでした。広告の仕事には、スキルも重点領域も多種多様な、さまざまなタイプの人間が必要なのです。
わたし自身の能力はいまやデータ分析の域を、予測していたのとはまったく違う方向へですが、はるかに超えています。わたしが身につけた知識は、ちょっと変わったランダムなものばかり。牛ミンチの解凍の仕方、高級ブティックの店員がトイレまで案内してくれる理由、ジープのヘッドライトをLEDに替えるにはイコライザーを搭載しなければならない理由、グリーンエネルギーにお金を払っていても、家庭の電気はダーティーエネルギー(非再生可能エネルギー)で発電されている理由、映画館のポップコーンのレシピなどを知っています。
こうした、広告業につきものの一貫性のなさは、広告業界人には興味深いのですが、世間から不当に非難されがちな理由かもしれません。広告業は本質がない、核がない、という人もいます。うわべだけ、イライラするかつまらないか、押しつけがましい、ウソをつく技術、という人もいます。
現実には、広告業は多くの人が思っている以上に複雑なのです。そこに投入されているスキルもさまざまなら、この業界に入る方法もさまざま、入ってからおこなう仕事もさまざまです。ウソをつく技術、という揶揄には、その逆だと言い返します。広告は本当のことを伝える技術だからです。広告キャンペーンがうまくいくのは、本質的ななんらかの真実をきちんと提示しているときです。それは、製品やサービス、消費者のニーズや性癖、日常のちょっとしたこだわりだったり、文化的なものから来る強い関心や先入観だったりします。そこに自分たちの姿がある程度示されていると、広告は共感を呼ぶのです。
本書には、広告業がどういうものか、自分にふさわしいところか、の理解につながるような項目をまとめています。あなたが一番興味を引かれる項目は、クラスメートや仕事仲間が好む項目とはおそらく異なるでしょう。6カ月後、あるいは6年後に読み返してみると、かなり違う印象を受けるかもしれません。新たな理解や経験によって、読み取るものも学び取るものも、それぞれ変わってくるからです。そうした過程で、本書があなたをコンフォートゾーンから追い出す力となり、自分の適所を見つけるための、基礎知識、総合的観点、刺激、インサイトになれば幸いです。
(ぜひ本編も併せてお楽しみ下さい)
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