ためし読み

『マスターショット2 [ダイアローグ編] 映画に生命を吹き込む会話シーンの撮影術』

はじめに

劇場用映画の映像が本格的なものに見える理由は、大きな予算を費やしているからだと信じている人は少なくない。しかし、この『マスターショット』シリーズを読めば、本格的な映像をものにするのに予算など関係ないということが理解できるだろう。力のあるシーンというものは、カメラの位置や設定、俳優の動きや演出から生まれる。その事実は特に会話シーンの撮影で顕著にあらわれるものだ。

本書『マスターショット2』で撮影テクニックを学べば、会話シーンを最大限に力強く描くことができるので、演者からベストな演技を引き出しながら、ストーリーのポイント、感情、微妙な意味合いを明確に表現できるようになるだろう。

前作『マスターショット100』は、おかげさまで出版と同時に高い評判を得て、瞬く間にベストセラーとなった。そして数え切れないほどのフィルムメイカーたちから多くのメールをもらっている。その内容は、カメラの使い方について目を開かされたというものばかりだった。あの本を読むまでは、撮影の設定にこれほど深く思考を重ねたことはなかったという。また、カメラの使い方1つが、あそこまでのレベルでシーンに影響をあたえるということに気づかなかったという意見も寄せられている。フィルムメイカーたちが自身の作品を深く追求するきっかけになったことを知り、私も喜びでいっぱいだ。

出版からわずか数か月で、主に映画学校で大きな話題となったわけだが、その事実を証明するかのように、あの本のアドバイスをもとにした学生映画作品を多く目にするようになった。また、ある賞を受賞したフィルムメイカーから『マスターショット100』が大きな助けとなったという手紙が届いている。私自身少なからず驚かされたのは、かなりの数のハリウッドの映画監督たち(その中には私が何年も前から尊敬していた人物もいた)からも、あの本が大いに役立ったという連絡が入ってきたことだ。中には、撮影現場に入るとき、もはやあの本を手放すことはできないと言ってくれた監督までいる。

『マスターショット100』は、単純にショットをそのまま真似するためのものではなく、むしろ、撮影技術という分野においてフィルムメイカーたちの目を開き、彼らのショットに最大限の効果をもたらせる手助けになったようだ。監督たちは紹介されているショットを新たにアレンジして独自のショットをものにしているわけだ。また、私のところに寄せられたメールや手紙には、それとは別のある共通性を見ることができた。どの内容にも「会話シーンを撮るベストな方法は?」というコメントが含まれていたのだ。良き会話シーンがなければ映画が成立しないということは確かだ。そこで今回の『マスターショット2』では、会話シーンを生き生きと描くために欠かせない重要テクニックを紹介することになった。

前作の『マスターショット100』でも、多くのチャプターで会話シーンを網羅しているけれど、そもそも会話だけに特化したものではない。『マスターショット100』を書き終えたあと、私は長編映画を1本監督したほか、さまざまなプロジェクトに参加しているうちに、より興味深い会話シーンを撮るための方法を追求するようになった。なににもましてストーリーのエッセンスをきちんととらえた会話シーンをものにする方法を探り出したいと思うようになったのだ。本書を書く目的だけのために、私は何百本もの映画を研究した。本書で紹介している映画は、どれも優れた会話シーンを含んだ作品であり、また同時に作品全体として見る価値のあるものばかりだ。

残念なことに、大予算で作られた有名作品の多くが、脚本に書かれた会話の潜在性を最大限に描き切っていない。シーンの出だしからカメラが昇華して優雅なマスターショットを見せつけてくれるまでは素晴らしくても、そこですべてが停滞してしまうのだ。カメラはそこで動きを止め、演者たちはその場に向かい合った状態で会話をはじめる。実に多くの会話シーンがこういう退屈なものばかりだ。会話シーンを徹底的に追及して表現するためのカメラ移動や、演者の動きや位置関係を心得ている優秀な監督はほんの一握りしか存在しない。

さて、この画像は会話シーンのきわめて標準的な映し方だ。向かい合っている演者の顔を、それぞれ同じ距離と角度からとらえた2つのショットで成り立っている。本書ではこれを「アングル/リバース・アングル」と呼ぶことにする。

時間的余裕がないとき、スタッフや演者が疲れ果てているとき、もしくは監督がアイデアにつきたときなど、結果的にこのアングル/リバース・アングルに落ち着くというケースは多い。このショットはある程度なら機能するので問題があるわけではないが、退屈で陳腐だということも否めない。他の監督とは一味違った演出をしようと努めている監督は数多くいるのに、そういう人でさえ、会話シーンとなるとなぜかこの標準的な方法に落ち着いてしまうのだ。

型にはまったこの方法論が利用される理由は様々だ。中でも、素早く簡単に設定できることや、照明にこだわりさえしなければ両方向から同時に撮影可能だということが大きい。また、会話の内容さえ興味深ければ、このシーン構成に文句をつける観客がほとんどいないことも事実だろう。会話シーンにはこれ以外の画面構成を一切使わない人気映画も数多くあるので、あえてこの分野にチャレンジすることに意味を見いだせないというフィルムメイカーもいる。

しかし、会話シーンをクリエイティブに撮影すれば、ストーリーの中に潜在する深い本質を掘り起こすことができる。(確かに見た目の良い映画はそれだけで面白みが増すものだが、それはさておき)ただ見てくれを良くするためだけにカメラや演者を動かすのではなく、そのシーンのずっと深い意味合いを引き出したり、より強いインパクトを生みだしたりするためにも、巧みなステージングを利用するべきだろう。本書で取り上げている映画を見れば、カメラの使い方を駆使してクリエイティブな形で会話シーンを描き、そこに活気あふれる生命力を吹きこんでいることが分かるだろう。

巧妙なブロッキング(演者のポジショニング)をほどこすだけでシーンに数多くの情報を持たせることができる。その瞬間この瞬間に、意味合い、感情、ドラマ性を宿らせることができるのだ。会話シーンにおいてこれほど大切なことはない。それなのに、素晴らしいマスターショットでシーンを開始しておきながら、会話になると突然陳腐な「アングル/リバース・アングル」でお茶を濁してしまう監督があまりにも多いというのは悲しむべきことだ。少なくとも本書の読者にはそんな悲劇を繰り返して欲しくない。

もちろん実践的な問題としてクリエイティブに撮るのは難しい作業だ。演者とカメラが複雑に動けば、音声担当者が困ったあげく、補足素材としてクローズアップ・ショットを撮っておくべきだと強硬に主張されるかもしれない。もちろんそうしておくことは悪いことではない。ただし、同時に自分が真に求めている映像にも果敢に挑戦しよう。細かい動きが求められるショットでは、「決められた立ち位置まで絶妙なタイミングで移動することが難しい」と演者から文句が出るかもしれない。そんなときでも、それぞれの演者に合った激励方法を見いだしながら、その動きこそが演技を最大限に引き出すためのカギなのだということを理解してもらおう。

本書で紹介するテクニックのすべては、どんな撮影機材でも実現できるものばかりだ。手持ちカメラを使って撮ることもできれば、最低限のドリー、クレーン、スタビライザー(ステディーカム)で撮ることもできる。

これらのテクニックを、あなたの映画にそのまま利用することもできるだろう。しかし、できることならあなたの作品の必要性にそって手法を組み合わせながら、独自のアイデアを生み出してみてほしい。本書『マスターショット2』を読めば、フレーミングや移動のわずかな変化が、シーンそのものの印象を大きく変え、あなたのビジョンを映画スクリーンで表現するためのパワフルな原動力になるということが理解できるはずだ。

ページサンプル

サークリング・ダイアログ CIRCLING DIALOGUE

弧を描くように移動する


緊張感というものは、表に露わになることよりも、むしろ表層の下に隠れていることの方が多い。だからこそ、登場人物たちが平常心を装っているように見えつつ、そこに緊張感があることを明確に描ける撮影方法が求められる。この『イングロリアス・バスターズ』の1シーンでは、動きのない2人の周囲をカメラが半円を描きながら、彼らが表面的には平静を保っているものの、災難が不気味に忍び寄っていることを承知している様子をとらえている。

このカメラ移動は、単なる時間の埋め合わせとか、セリフ中心のシーンにビジュアル的な面白みを加えるためだけのものだと解釈することもできるが、実はここにはそれ以上の効果が含まれている。演者の位置を固定したことで、彼らがほとんど動くことなく静かに囁くように話している様子が強調されているのだ。

また、カメラが移動することで、観客には人物の目をまっすぐ見ることのできる瞬間が訪れる。いくら隠そうとしても彼が恐れていることは、この目を見れば明らかだ。これを見せることで、もう1人の人物が彼の気持ちを感じ取っているという事実も示唆され、ごく微妙な形でストーリーを展開させることに成功している。

さらに、このカメラ移動によって、登場人物たちがお互いを注視し合っているということが強調されている。彼らが事態をどんなに軽くとらえようとしても、お互いの言葉が重く響いていることがひしひしと伝わるだろう。

カーブしたレール上のドリーにカメラを積んで撮影できれば申し分ないが、(本書で紹介する全ショットがそうであるように)もちろん手持ちカメラでも撮影可能だ。意識せずに回ってしまうと、移動の途中で人物とカメラの距離にばらつきが生まれ、全体の効果を薄めることになる。カメラ移動は人物との距離を一定に保つようにしながらスムーズに弧を描くことが求められる。

マスターショット 2 [ダイアローグ編]

映画に生命を吹き込む会話シーンの撮影術

クリストファー・ケンワーシー=著
吉田俊太郎=訳
発売日 : 2011年12月23日
2,300円+税
A5判横・並製 | 248頁 | 978-4-8459-1285-8
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マスターショット100

低予算映画を大作に変える撮影術

クリストファー・ケンワーシー=著
吉田俊太郎=訳
発売日 : 2011年5月25日
2,300円+税
A5判横・並製 | 248頁 | 978-4-8459-1165-3
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