ためし読み

『ストーリーボードで学ぶ物語の組み立て方 視線を導き、感情に焦点を当てるためのストーリーの設計図』

日本では「絵コンテ」と同義で使われることも多いストーリーボードですが、なかなか専門的な本が少ない現状があります。この度、フィルムアート社は『ストーリーボードで学ぶ物語の組み立て方 視線を導き、感情に焦点を当てるためのストーリーの設計図』を2021年8月26日に発売します。著者フランシス・グレイバスは『アラジン』『ライオン・キング』『ポカホンタス』などのディズニー作品をはじめ、長年ハリウッドのストーリーボード・アーティストとして活躍し、いまは若手育成のために教壇にも立っています。最高のアイデアを理想の形で具現化でするために必要なあらゆる知識がつまった本書。今回はその中から、第3章「基礎の基礎」冒頭部分を公開します。ぜひご一読ください!

脚本は言葉によるストーリーの設計図だ。ストーリーボードは視覚によるストーリーの設計図だ。ストーリーボードは映画にとってインスピレーションに満ちた心臓であり頭脳であり魂だ。ヒッチコックはそれを十分に心得ており、かつて「ストーリーボードが仕上がってしまえば、その映画は95%出来上がったようなもので、あとは実行するのみ」※1 という言葉を残したという噂もある。

ストーリーボードは実は誰もが目にしたことがある。新聞を開けば毎日3コマとか4コマのストーリーボード形式で、たいてい可笑しいお話が端的に描かれている。最初のコマは状況設定のコマ、2番目のコマでそれが転じ、最後に3番目のコマで結末を迎え、読者はその結末を見て笑う。そう、新聞の漫画はどれもちょっとしたストーリーボードなのだ。そういった素描によるストーリーテリングの中でも特に傑出した作品としては、たとえば「ニューヨーカー」誌の漫画欄がある。あれらの作品はいかに効率的に目的(観客を良い気分にさせること)にたどり着いているかを学べる、とても価値のある教材だ。

ストーリーボードの歴史と機能

ディズニー方式のストーリーボードづくりは、映画の作り手たちのニーズに応えるようにしながら進化した。長編映画を作るために、何百枚何千枚ものデッサンが描かれる。それらのデッサンを追うことが、悪夢のような整理・構成の作業に大いに役立っていた。シーンごとに変更に次ぐ変更がなされながら進む作業である場合には尚更だ。かつてのディズニーのアーティストは、まず個々のパネルを床に並べ、作曲家が音楽を演奏する中で、デッサンを指差しながら作業していた。そこから進化してついに大きなコルク材ボードの壁に画鋲でデッサンを留めるというアイデアに行き着いた。これによって数々のデッサンがずっと見やすくなり、変更作業もずっと容易になった。この作業は職業上の身体的危険を伴うものだった。私もストーリーボードに画鋲を貼り直す際に自分の指を刺してしまった経験が数え切れないほどある。

ディズニーのデッサン・インストラクターのドナルド・グラハムは、この方式の柔軟性について次のように語っている。

「どのデッサンもボード上で別の位置に移動させたり、取り除いたり、配置し直したりすることができます。デッサンが貼られたこのボード上は流動的な状態にあるのです。固定されたデッサン、つまり変更できないデッサンは一枚もありません。同じ一枚のデッサンでも、ボード上の位置によって、ギャグとして扱えることもあれば、別の役割を負わせることもできたりします。どのセクションも入れ替え可能なこのボードは、明らかに映画作りに新機能をもたらせました。事前編集という新機能をね。ミディアム・ショットの代わりにクロースアップを試してみたり、長いシーンの代わりに短いシーンを試してみたりすることができるわけです。これによって自動的に不必要なアニメーション作業をやらずに済むようになるので、驚くほど能率が向上します」※2

漫画家でストーリーボード・アーティストでもあるアレックス・トスは、それとは違うストーリーボード史を唱えている。先駆的なアニメーターで漫画家のウィンザー・マッケイがストーリーボードのシステムを作ったという説だ。

『恐竜ガーティ』(1914)をはじめとする映画作品を完成させるために彼がこれを用いていたはずだ、というのがトスの仮説だ。※3

トスはストーリーボードの機能について次のように説明している。

「アルフレッド・ヒッチコック、デルマー・デイヴィスは、紙にストーリーボードを描くことで、繋がりに関するほとんどすべての問題をあらかじめ解決しておく方法に心酔していた。「そこで機能しないなら、映画としても機能しない」というのは確かヒッチコックの言葉だったはずだ! 彼は自身が監督した全映画作品でストーリーボードを作り整理していた。それでも当時、彼は少数派だった。思いがけなくヒットした撮影日数10日の低予算映画であれ、特大予算で作られた超大作映画であれ、繋がりをストーリーボードで描いておくことは(タイプライターで書かれた脚本が初めて「画」と合わさる段階でもあることから)あらゆる点で役立ち、また、経験豊かで有能なプロのストーリーボード・アーティストに脚本を解釈させることができれば、その段階でその脚本は絞られ、テスト飛行して、ヒビや故障が生じてしまうのか、それとも処女飛行でいきなり見事に飛んでそのまま映画制作の格納庫に納められそうなのかを見極めることができるのだ!」※4

様々なタイプのストーリーボード

媒体によって、その美的および予算的なニーズの違いから、ストーリーボードに含まれるものの種類も独自の進化を遂げてきた。アニメーションでは各シーンの全側面がデザインされ創作されなければならない。アニメーション映画のためのストーリーボードには演技の明確な描写を提供することが求められる。実写映画の場合は役者自身が表情を提供するのでストーリーボードがキャラクターの表情を描写する必要はない。むしろ実写映画では役者に演技を探求する自由を残しておきたいものだ。だから役者がストーリーボードを追うようなことはしない。ストーリーボードは、監督のためのビジュアルガイドなのだ。

実写映画の撮影やブロッキングによってもたらされるものは、アニメーション映画ではレイアウト部門が受け持っている。実写では、役者の動きに合わせてレンズを選びカメラの位置や動きを決めなければならない。役者はそのシーンを機能させるためにも、合図に合わせてしっかりと立ち位置を守らなければならない。実写映画のシーンを描写するストーリーボードは、動きの俯瞰図やマップのようなシンプルなものでも賄うことができる。

テレビの実写作品は、ずっと回している3台のカメラの映像からひとつを選ぶ方式で編集されることが多く、その場合ストーリーボードは必要ない。そういった作品のほとんどは小さなセットで撮られている。ただし他の媒体と同じように視覚的に考えることは必須だ。テレビのアニメーション作品は、締め切りがタイトで、予算はそれ以上にタイトなため、制作方法もタイトでなければやっていけない。レイアウトが設定され、すべての繋がりの良し悪しがすでに練り上げられている雛形にキャラクターを配する形で進めなければならない。繋がりの良し悪しは、あるショットから次のショットへと継ぎ目が見えないくらいすみやかに流れているかどうかにかかっている。アニメーション映画の場合、作品を組み上げるためにはストーリー・リールが必要不可欠だ。ストーリー・リールはその作品の感情のロードマップ的な存在となる。また特殊効果でもストーリーボードが使用されている。たいていの特殊効果ショットは、実写とCGの特殊効果映像を掛け合わせたものだ。ストーリーボードはその橋の役割を果たし、実写で演じる役者がバーチャルのモンスターや不可思議な力と触れ合ったり、複雑な建物の内部を動き回ったりする映像を作る上で必要な、タイミングのピッタリ合った一致を可能にしている。

制作プロセス

ステップ1は準備だ。しかし、それ以前に、ストーリーがなければならない。ストーリーボード・アーティストは、ストーリーさえあれば、脚本からでも、大まかな梗概こうがいからでも作業をすることができる。ストーリーボードが映画の設計図だとすれば、梗概は脚本の設計図にあたる。取り組むべきストーリーを与えられたストーリーボード・アーティストが、作業を始める上でまず必要とするものは、インスピレーション源となるビジュアル画だ。それは頭脳に食べさせる食物のようなものである。ビジュアル画が頭に栄養を与えるというわけだ。では、そういった画はどこから見つけてくると思う? 見つかる場所は実に様々だ。まずは自分が必要とする画のリストを作ってみよう。キャラクターであったり、衣装であったり、建築様式であったり、景観であったり、小道具であったりといったリストになると思う。またそのリストには色や照明の計画とか構図のアイデアとかも含まれる場合もある。

次に図書館に行くか、ネットで調べてみよう。インターネットという高速道路上ではすぐに道に迷ってしまうので、十分な計画性が大切だ。ネット上ではお告げがあっても気づきにくい傾向があるため、自分が必要とするビジュアルのリストを絶対に手元から離さないようにしておこう。その道のりの中で、あなたの取り組みを向上させてくれるような、新しいアイデアを生み出す源となる、思わぬサプライズをたくさん発見させてくれるリンクをいくつも見つけ出すことができるはずだ。

雑誌の画を切り抜いたり、デジタルカメラで撮って自分なりの参考資料を作ろう。インスピレーションが必要なときに立ち戻れるような、画の数々で構成された、自分専用の参考資料ライブラリーを作っておくことが必要だ。そしてもちろん、映画をたくさん見ることも。

自分にインスピレーションを与えてくれる画を集めたら、そこから楽しい作業が始まる。自分が作る映画の世界の様相を創作するその作業を、ビジュアル・デベロップメントという。

キャラクターデザインにおいては、肉体的な見た目がその人物について大いに物語っていることを忘れないようにしよう。ここで目指すべきは、固定観念ステレオタイプの新鮮なバージョンを作り上げることだ。固定観念によって、観客は今見ているのがどんなタイプのキャラクターなのかを即時的に理解することができる。固定観念はそのように役立てることができるが、実生活では固定観念に当てはめて相手のことを決めつけてしまうと問題が生じる。映画で固定観念が問題とされているのは、予想通りでは退屈だからだ。映画『キャット・バルー』(1965)に登場する悪名高き雇われガンマンは、疲れ果てた酔っ払いとして登場することで固定観念を打ち破っている。キャット・バルー本人も女性のならず者という形で固定観念を打ち破っている。『ブレードランナー』(1982)はネオンと霧に包まれた奇抜なバージョンの未来都市を作り上げている。

映画の視覚的様相は美術監督とプロダクション・デザイナーが指揮する領域だが、その世界に最初に足を踏み入れて探求する人物がストーリーボード・アーティストであることはとても多い。

※1. Hand, D “.Memoirs.” Available at http://www.dhprod.com.
※2. Canemaker, J. Paper Dreams. Hyperion, 1999.
※3. Toth, A. Alex Toth by Design. Gold Medal Productions, 1996.
※4. 同上

(このつづきは、本編でお楽しみ下さい)

いかがでしょうか? 本章では、このあとより具体的なストーリーボードのつくり方が展開されていきます。誰もが知るおとぎ話『3匹の仔豚』を例に、観客や読者を作品の世界観に引きずり込むためのテクニックを惜しげなく披露しています。気になる方はぜひ、お買い求めいただいてチェックしてみてください!

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ストーリーボードで学ぶ物語の組み立て方

視線を導き、感情に焦点を当てるためのストーリーの設計図

フランシス・グレイバス=著
吉田俊太郎=訳
発売日 : 2021年8月26日
3,800+税
A4判・並製 | 294頁 | 978-4-8459-2019-8
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