ためし読み

『ハリウッド式映画制作の流儀 最後のコラボレーター=観客に届くまで』

画には監督や俳優だけでなく、脚本家、プロデューサー、美術監督、撮影監督、メイクアップ・アーティスト、エディター、VFXアーティスト、作曲家……など、数え切れないほどのスタッフが関わり、1つの作品を作り上げています。本シリーズ「ハリウッドの名匠たちが語る映画制作の裏側」では、彼らが日ごろ何を考え、どう働いているのかをあらゆる角度から迫っていきます。今回は、VFXアーティストとして数々の作品を手掛け、今もなお第一線で活躍するケン・ローストンのインタビューをお送りします。

特殊効果の世界



ケン・ローストンは特殊効果の分野で最も大きな業績を上げた1人です。北カリフォルニアにあるインダストリアル・ライト&マジック(ILM)社の中心的な存在として20年間尽力し、長年ソニー・ピクチャーズ・イメージワークスの社長も務めました。

彼は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『フォレスト・ガンプ/一期一会』、『キャスト・アウェイ』、『ポーラー・エクスプレス』、『スター・ウォーズ』のエピソード4と5と6、『スター・トレック』宇宙大作戦シリーズの2と3と4、『メン・イン・ブラック2』などを手がけました。また、『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』と『ロジャー・ラビット』、『コクーン』、『永遠に美しく…』、『フォレスト・ガンプ/一期一会』でアカデミー賞に5度輝いています。


僕は監督やプロデューサーと同じぐらい制作に関与します。この業界で、そこまで関わる職種はわずかです。僕はプリプロダクションから撮影、ポストプロダクションまで一貫して参加し、各段階での進行を見ます。複雑でこまかく、長時間かかる仕事が多いです。

僕らの仕事のメインは「前例のないエフェクトを作ること」。技術は日進月歩ですから、『永遠に美しく…』ではその前の年に不可能だったエフェクトが可能になりました。

Death Becomes Her (1992) Official Trailer – Meryl Streep, Goldie Hawn Movie HD

子どもの頃から僕は『キング・コング』(1933年)をはじめ、昔の恐竜映画や怪獣映画を見て育ちました。特殊効果は安っぽいものもあれば、うまくできているものもありましたよ。1930年代の『キング・コング』は当時の最新の技術を使っており、度肝を抜かれました。『十戒』にもすごいエフェクトが見られます。紅海が2つに割れるシーンは誰もが覚えているでしょう。SF映画では『地球の静止する日』や『禁断の惑星』、『メトロポリス』(1926年)、『宇宙戦争』(1953年)などが名作です。

The Ten Commandments (1956) – Trailer

僕がこの業界に入ったのは、特殊効果の先駆者レイ・ハリーハウゼンに影響を受けたからです。彼が手がけた『シンドバッド7回目の航海』や『SF巨大生物の島』、『ガリバーの大冒険』は映画としてはそれほどでもないかもしれませんが、当時としてはすごいとしか言いようのないエフェクトを使っています。

特殊効果に気づかず観ている名作映画もあるでしょう。『市民ケーン』にはおそらく100ショット以上で特殊効果が使われています。『ザナドゥ』はほぼすべてがエフェクトショットで、模型かマットペインティングのいずれかが使われています。画面の下部は大きなセットの映像で、天井部分の全体をマットペインティングにしている箇所もあります。下半分が実写で上半分がイリュージョンというわけです。

もうひとつ、有名なのは『風と共に去りぬ』で炎に包まれるアトランタの風景です。たぶんバックロットにあった『キング・コング』のセットの大きな壁を燃やし、その炎の映像を使っているのでしょう。それにミニチュアの建物やマットペインティングを合成しています。建物の1階は実写ですが、上の階のセットは不完全な形で暗く写し、後で模型やペインティングを挿入しています。

夕日に照らされるタラのショットも特殊効果です。シルエットになったスカーレットの背景はマットペインティングで、前景にミニチュアの木が置かれています。これも観客が特殊効果だと気づきにくい成功例でしょう。

Gone with the Wind (1939) Official Trailer – Clark Gable, Vivien Leigh Movie HD

特殊効果を作る

僕はまず脚本を読み、視覚効果が使えそうなシーンをマークします。それから監督と制作チームと会い、どれぐらい複雑で、どんな仕上がりになるかを脚本全体にわたって検討します。

最も単純な特殊効果は煙、火、爆発などです。もう少し複雑になるとグリーンバックやミニチュア、ペインティング、光学合成、CG、アニメーションなどになります。2、3シーンを追加で撮影して重ね、合成します。

セットと同じに見えるように作られた模型を使う時もあります。セットとミニチュア模型は合成した時に完璧にマッチするように作ります。『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』で大破させた列車は縮尺4分の1の精巧なミニチュアです。

ILMではクリーチャーや人体の模型や、エイリアンを動かすための変わった装置もたくさん制作しました。それ以外は俳優にメイクを施したり、パペットを使ったりして実写で対応し、今はコンピューター技術も導入します。

『ロジャー・ラビット』はアニメーションのキャラクターと人物の実写映像とを合成しています。アニメーションの大部分を監修する英国のリチャード・ ウィリアムズと2年間、密に連携しました。この作品のために、実写映像とアニメーション映像とを組み合わせる新しいシステムを作ったんですよ。既存の技術に新しいテクノロジーを応用して、影をつけたり色味を変えたり、ブレンドしたりする技術を発展させました。

この作品では本当にたくさんのディテールに気を配りました。俳優の目線がちゃんとアニメのキャラクターに向いているように見えるか。人物に当たる照明はアニメと実写で同じに見えるか。

Who Framed Roger Rabbit – Trailer (HD) (1988)

『コクーン』では冒頭と最後に空が割れて宇宙船が下りてくるエフェクトを作りました。雲の切れ目から白い光が差し、海にいるスナメリを照らします。

スナメリと宇宙船はミニチュアです。ラテックスを混ぜて作ったものを雲にして、水槽に浮かべて撮影しました。エイリアンも作りました。がりがりに瘦せた女優が衣装を着たような感じです。これらの映像素材をオプチカル・プリンターで合成し、ほっそりとしたルックスとスモーキーな雰囲気を出しました。こうした合成をする場合はエイリアンと俳優を別々に撮りますから、俳優は見えない相手に対してリアクションを演じています。

『フック』も同じです。青や緑のスクリーンを背景にして撮影し、合成する技術は昔からあります。ティンカーベルが飛ぶ場面はすべてその方式で撮影しました。ジュリア・ロバーツが共演者たちと一緒にセットに入ったことは一度もありません。緑をバックにして撮ったティンカーベルの素材を再度撮影し、飛ぶ要素を付け足しています。羽根はミニチュアで、彼女の動きに合わせて飛ぶ動きを撮影しています。

監督が求めるものを作るのが僕らの仕事。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ではロバート・ゼメキス監督が僕らをロケーションに連れて行き、「この道でデロリアンを空に飛ばせたい」と言いました。スティーヴン・スピルバーグ監督も『E. T.』で自転車が空に飛ぶところを求めていました。このような場合は、まず、道の風景を撮影します。それとは別に、自転車やデロリアンの模型を作り、ブルーバックの前に置いて撮影します。それから、ブラックセンターと呼ばれる黒いシルエットの映像を作成します─『E. T.』の自転車のシルエットを覚えている方もいるでしょうが、そんな感じです。そのシルエット部分に自転車やデロリアンのカラーポジフィルムを焼きつけます。

つまり、セットとシルエットとカラーオブジェクトの3つの映像を組み合わせるのです。最終的な合成にはオプチカル・プリンターを使っていましたが、今はCGを使うため、手順は大きく変わりました。

Back To The Future (1985) Theatrical Trailer – Michael J. Fox Movie HD

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2020年7月25日に発売された『ハリウッド式映画制作の流儀 最後のコラボレーター=観客に届くまで』(リンダ・シーガー=著、シカ・マッケンジー=訳)では、映画に携わる様々なスタッフがどう関わり、どのように作品がつくられていくかの過程を知ることができます。本インタビューの続きでは、ケン・ローストンが『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』でジョージ・ルーカスと交わした言葉や、当時の最新技術を使って撮られた『永遠に美しく…』のエピソードなどが収録されています。ぜひ併せてお読みください。

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ハリウッド式映画制作の流儀

最後のコラボレーター=観客に届くまで

リンダ・シーガー=著
シカ・マッケンジー=訳
発売日 : 2020年7月25日
2,200円+税
A5判・並製 | 344頁 | 978-4-8459-2001-3
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