はじめに
2013年、最悪の発見をした。
運命の数ヶ月間、わたしはお気に入りのSF映画のなかに、まったく同じ書体を次から次へと見つけはじめた。一度見えてしまったら、もう見えないわけにはいかない。どこを見ようと、あるいは何を観ようと、Eurostile Bold Extended――あらゆるタイプフェイスのなかで最もSF的なタイプフェイス――がわたしを見つめ返してくる。わたしは取り憑かれてしまった。
新たに陥ったこの依存状態をなだめるため、わたしはウェブサイト「TV Tropes」〔訳注:映像、文学、コミックなどの創作物における、代表的な表現方法や「お約束トロープ」を集めた、ユーザー参加型の百科事典的サイト〕(tvtropes.org)で、Eurostile Bold Extendedが繰り返しデザイン・テーマとして登場する件を指摘した。わたしが「タイプセット・イン・ザ・フューチャー」と名づけたこのトロープは、サイトの事典のなかに受け入れられた。
おっと、ちょっと待った。「TV Tropes」にアクセスしてはいけない・・・・ 。あなたの午後を、あなたの週末を、あなたの家を、あなたの愛する人を、あなたの正気を、全部失うことになる。「TV Tropes」は、映画ファンをまともな生活から転落させる、インターネット上で最も中毒性の高い罠だ。そしてこれはわたしの依存症を軽減してはくれなかった・・・・・・。もっとラディカルな行動が必要だとだんだんわかってきた。
わたしはドメインネームをひとつ登録し、この幅広で太字のタイプフェイスが、未来のヴィジョンを作り出すためにどのように使用されてきたのか、探究に乗り出した。その成果が、typesetinthefuture.comに投稿した、『2001年宇宙の旅』のデザインとタイポグラフィに関する5000語の論考である。調査の結果わかったのは、SF映画は『2001年』の前にも存在していたけれど、『2001年』の世界構築とディテールへの細心の配慮によって、SF映画のデザインと未来性に対するわれわれの期待が、以後永遠に変わってしまったということだ(そしてまた、もっと論考を書く必要があることもわかった)。
次に研究する映画を選ぶため、基準を2つ定めた。デザインとタイポグラフィによって説得力のある世界を構築していること。未来を舞台にしていること。『2001年』論のあと、『月に囚われた男』『エイリアン』『ブレードランナー』の分析がただちに続き、論考をひとつ書くごとに、未来的フォントの世界のさらに奥深くへとわたしは導かれていった。
この研究の予想外の副作用は、他の人間たちもこれを面白いと感じたことだった。4本の投稿記事のどれもがバズった。『2001年』論はあまりに人気を集めたので、サーバがクラッシュしたほどだ。復旧すると、サーバ運営会社から、データ転送量超過料金として1200ドルを請求された。自分は孤立しているわけではないのかもしれないと思いはじめた。
サイトの人気について、わたしは下のベン図のようなかたちで理解している。SF映画の名作に対する、およびそれらが作り出す説得力ある世界に対する愛は、あらゆる分野における優れたデザインへの愛と連携するのだとわかった(そしてまた、インターネットはあらゆるビットに至るまで、わたしと同じくらい何かに取り憑かれていることもわかった)。
これらの重要な事実に気づいたわたしは、「どのように」よりもさらに研究を深め、「なぜ」を探究せねばならないと決意した。タイポグラフィからもっと視野を広げ、プロダクション・デザイン、グラフィック、建築をもカバーする方向へと進んだ。タイポグラファーや歴史学者にインタビューし、SF映画の古典に関わった、天才的なクリエイターたちと面会した。彼らが作り出したものについてのわたしの分析と並び、彼らの考えや経験も、本書の各ページではシェアされている。その結果生まれた本書は、愛するSF映画をあなたが再見する機会となり、またこれらの映画が、いかにしてタイポグラフィとデザインによって、われわれを惹きつけてやまないヴィジョンを作り出してきたかを知る機会となるだろう。
(ぜひ本編も併せてお楽しみ下さい)
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