ためし読み

『ハリウッド式映画制作の流儀 最後のコラボレーター=観客に届くまで』脚本家はどうやってアイデアをひらめくのか

2020年7月25日に発売される『ハリウッド式映画制作の流儀 最後のコラボレーター=観客に届くまで』(リンダ・シーガー=著、シカ・マッケンジー=訳)では、映画に携わる様々なスタッフがどう関わり、どのように作品がつくられていくかの過程を知ることができます。今回はその中から、脚本家たちによるアイデアの見つけ方の一例を紹介します。

「WHAT IF(もし~だとしたら)」と考える

脚本家は多くの人に訴えるアイデアを探します。この時に、「What if…(もし~だとしたら)」という問いを考え、想像を広げます。

「もし、売れない役者が女装してオーディションに臨んだとしたら?」という問いから始まる映画がダスティン・ホフマン主演の『トッツィー』です。「もし、平凡で純情な人が魚に恋をしたら?」という問いからは『リトル・マーメイド』(1989年)や『スプラッシュ』、『シェイプ・オブ・ウォーター』などが生まれます。そして、映画は問いの答えを求めて展開します。「もし、一人ぼっちで宇宙に放り出されたら?」という問いは『ゼロ・グラビティ』や『オデッセイ』(2015年)、『インターステラー』や『ロスト・イン・スペース』などの発想を生むでしょう。

でも、アイデアだけでは足りません。脚本を名作にするには独創的な表現も必要です。

『パンズ・ラビリンス』や『シェイプ・オブ・ウォーター』などのファンタジーやホラーに分類される映画の脚本と監督を手がけるギレルモ・デル・トロは、自らの考えや思いが表現を生むと考えます。その「声」のようなものが、ストーリーに独自性を与えるとも述べています。

「自分の声」を探すには、自分の本心を見つめ、正直になりきること。でも、作家スティーヴン・キングの言葉を借りれば「すべての歌はすでに歌い尽くされている」。だから、もうやり尽くされているんだ、と認めればいい。そうすれば、その歴史を受け継ぎながら、自分たちで新しいものを生み出そうとしていける。それしかできないんだよ。すごく古い昔話を新しい声で語ることしか。僕たちの仕事は無からリアリティを生み出すこと。真実を求めて世界で一番大きな嘘をつくんだ。※1

独創的な「声」は実体験から、また、入念なリサーチからも生まれます。「自分が知っていることを書け」と脚本術の本などでよく言われます。その方が調べものも少なくて済むでしょう。しかし、「自分が知っていること」だけで満足せず、さらに探求しなければなりません。優れた脚本家は題材を掘り下げ、真摯に向き合い、書きながら自分でも新たな気づきを得ます。それが大勢の人々にも気づきを与え、新たな視野を与えます。

ラリー・ゲルバートは映画(『トッツィー』でアカデミー脚本賞候補)やテレビドラマ(『マッシュ』)、舞台劇(『シティ・オブ・エンジェルズ』『ローマで起った奇妙な出来事』)など、多岐にわたって優れた脚本を書き、こう語っています。

アイデアは自分の中からも、外からもやってくる。観察からも得られるし、自分が言いたいことでもいい。メッセージ性はなくていいが、ストーリー性は必要だ。人と体験を分かち合い、共感や感動を得てもらうには、ストーリーとして伝える必要がある。

「アイデアの大小ではなく、温度が大切」とも彼は述べています。「ただ書きたいだけものでなく、絶対に書くべきだと思えるものがいい」

多くのアイデアを煮詰めて1つにまとめる場合もあれば、ちょっとした思いつきが壮大に広がる場合もあるでしょう。脚本家で映画監督のローレンス・カスダンは「自分にとって興味があること、熱中できること、しつこく頭から離れないことや激しくこだわってしまうことからアイデアを考える」と言っています。彼は『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』や『白いドレスの女』(1981年)、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』などを手がけましたが、一つのアイデアを得るのでさえ大変だと明かしています。

僕はいろいろ思いつくタイプじゃないんだ。そうだったらいいなと思うよ。たいていは2つか3つの候補の中から一つが特に気になり始め、その1つに絞っていろいろ考えるようになる。脚本を書き始めると、ありとあらゆることに目移りしてしまうけど、途中で執筆を放り出しはしない。

もうひとり、映画脚本家の王道を歩んだアルヴィン・サージェントの談話をご紹介しましょう。彼は2019年に92歳で生涯を閉じました。1960年代から彼の脚本は映画化され始め、『ジュリア』(1977年)と『普通の人々』でアカデミー脚色賞を獲得。近年では『スパイダーマン2』や『スパイダーマン3』、また『アメイジング・スパイダーマン』をジェームズ・ヴァンダービルトやスティーブ・クローヴスと共同執筆しています。筆者は著書に推薦文を頂いたご縁で、2015年頃からメールのやりとりをするようになりました。初めてロサンゼルスでお会いした時は、本当に素敵な人で驚きました。朝食をご一緒しながら会話が盛り上がり、3時間も話し込んだものです。その次に筆者がまたロサンゼルスでお会いした時も同じです。本書の第3版を出すのでシアトルのお宅に伺いたいと伝えたところ、高齢のために少々難しそうだとのことでした。その代わり、次のようなメールを頂きました。

チャンスを生かしなさい。なぜなら「用心は泥棒」、みすみす好機を奪われるだけだからね。疑ってばかりじゃ何も作れず、発見もできない。そりゃ、疑問に思うこともあるだろう。だが、絶対に、絶対に、その疑問にクエスチョンマークを付けるな! 疑問を本物の疑問にしないことだ。だって、答えはないんだから。映画館の観客も答えが見つからないまま家路につくのが一番いい。のほほんとさせてちゃいけない。悩ませると言っても、観客自身が大変な目に遭うわけじゃないさ。映画の登場人物を大変な目に遭わせなさい。そして、人物がもがく姿を描きなさい。

では、彼はどうやって書くのでしょうか?

毎日書く。自分を開放する。自由に連想する。毎日、1時間は1人で過ごす。目を閉じて書く。真っ暗な中で書く。何を書くかは考えない。タイプライターに紙をセットして、服を脱いで、スタート! 行き先は決めず……行き先を気にせず……純粋に、潜在意識に任せるんだ。何ページもね。羞恥心が吹っ飛んでしまうまで続けるのさ、抵抗する気持ちに打ち勝って。そうやって書いたものを翌朝に読んでみると、びっくりするよ。ほとんど、わけがわからない。だが、ちょっとした真実の種のようなものがあるはずだ。まさか自分で生み出したとは思えないかもしれないが、まぎれもなく自分のものだ。純金のようなものさ。けっして抵抗できない、ピュアな自分から生まれたものなんだ。※2

※1 Hugh Hart, “Guillermo del Toro Shares 14 Creative Insights from His Spectacular Cabinet of Curiosities Sketch Book,” Fast Company, “Master Class,” October 29, 2013.
※2 Scott Myers, “Writing and the Creative Life: ‘That pure part of you’” Medium, June 8, 2018, https://gointothestory.blcklst.com/writing-and-the-creative-life-that-pure-part-of-you-183196f40286 (accessed July 1, 2020).

(他の発想法などは、ぜひ本編でお楽しみ下さい)
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ハリウッド式映画制作の流儀

最後のコラボレーター=観客に届くまで

リンダ・シーガー=著
シカ・マッケンジー=訳
発売日 : 2020年7月25日
2,200円+税
A5判・並製 | 344頁 | 978-4-8459-2001-3
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