科学は、レイシズムを肯定しない
人種に関わる正しい知識から、
レイシストに「NO」を突きつけよう
アジア人は生まれつき数学が得意、黒人は身体能力が高い、ユダヤ人は金儲けがうまい……
人間の進化と多様性をめぐる議論が活発化している現代において、いまだに世の中には「誉め言葉の皮をかぶった」偏見であふれています。
そして、そうした一見科学的に見える偏見は人種に関するステレオタイプを強化し、人種に優劣を見出す、人種差別の温床にもなっています。レイシストは家系図や遺伝子検査をもとに自らの純血さを誇ってみたり、知能のに優れた人種があるというデータから自らの優位性を高めたり、特定の病気と人種を結びつけたりすることで他の人種は劣ったものだとみなしているのです。
しかし、それは科学的に正しい考え方ではありません。
レイシストは間違ったデータを利用し、疑似科学を用い、差別は科学的に肯定されるとでたらめを言っているのです。
本書では、固定観念や思い込みによって間違いがちな4つの分野(肌の色、純血性、スポーツ、知能)について、科学的な立場から差別や偏見を否定します。
遺伝学が個々の人間の違いについて解明できていること、断定できないことをそれぞれ明らかにすることで、時代遅れの人種に関する観念を力強く解体していくのです。
無邪気なステレオタイプから、より悪意に満ちた言説まで、正しい科学と歴史的な知識に裏付けられた「レイシストの論理をぶち破る」ための方法を、丁寧に解説した1冊です。
私たちは自分のアイデンティティーを理解するためのシンプルなストーリーに飢えている。この欲望とは裏腹に、現実の人間の変異や進化や歴史は厄介で、ひどく複雑だ。とはいえ、それらは私たちの遺伝子に刻まれている。人種という概念について、人間のDNAから何がわかり何がわからないのか、それを詳しく分析してきちんと明示するのが本書の目的だ。(「はじめに」より)
メディア掲載
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週刊東洋経済 2022年7月30日号で短評が掲載されました!
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週刊文春 2022年7月28日号で書評が掲載されました!(吉川浩満さん)
目次
はじめに
ペーパーバック版に寄せて
本書の表現について
第1章 「色分け」に潜むリスク
「色」で分けられる人びと
「人種」という発明品
遺伝学の誕生
遺伝学は人種をどう見ているのか
第2章 あなたの祖先は私の祖先
祖先はあいまいなもの
私たちは祖先を共有している
アフリカの途方もない複雑さ
イギリスにおける人種
不確かなルーツ
遺伝子に「国」は刻まれない
レイシストは遺伝学を悪用する
第3章 黒人アスリートは強い?
身体能力は人種の問題なのか
奴隷制が生み出した偏見
「強い」遺伝子はあるのか
文化というファクター
複雑さを受け入れる
根深く無自覚な偏見
第4章 知能は遺伝か
人種差別主義者、ジェームズ・ワトソン
IQは変わる
それでも知能は遺伝する?
ユダヤ人は賢いのか
文化を見誤ってはならない
終章 結論とまとめ
謝辞
訳者あとがき
参考文献
プロフィール
[著]
アダム・ラザフォード(Adam Rutherford)
進化遺伝学者。サイエンス・ライター。医学を学ぶため、チャールズ・ダーウィンが『種の起原』を初めて発表したことでも知られるロンドン大学ユニバーシティ・カレッジに通い、遺伝学と出会う。小児の遺伝性失明について研究し、同大学で博士号を取得。イギリス人の父とインド人の母との間に生まれたことから、「遺伝と人種」の問題などにも関心を持ち、以後は科学誌『ネイチャー』の編集者を10年務めるなど、メディアを通じて最先端の遺伝学を広く伝えている。『ガーディアン』紙の常連寄稿者であり、BBCラジオでは司会者も務める。また科学ドキュメンタリーの製作者や、啓蒙書(『生命創造―起源と未来』)の著者としても知られる。邦訳書に『ゲノムが語る人類全史』(文藝春秋、2017)、『生命創造 起源と未来』(ディスカヴァー・トゥエンティワン 、2014)。
[訳]
小林由香利(こばやし・ゆかり)
翻訳家。東京外国語大学英米語学科卒業。 訳書に、P・W・シンガー&エマーソン・T・ブルッキング『「いいね!」戦争 兵器化するソーシャルメディア』、エドワード・O・ウィルソン『ヒトの社会の起源は動物たちが知っている』(NHK出版)、スコット・カーニ―『サバイバルボディー 人類の失われた身体能力を取り戻す』(白水社)、トマス・レヴェンソン『幻の惑星ヴァルカン アインシュタインはいかにして惑星を破壊したのか』、『愛しのオクトパス 海の賢者が誘う意識と生命の神秘の世界』(亜紀書房)などがある。