分野と国境を越えていく、
「グローカル」なものづくりの未来。
個人製造業時代の幕開けを告げる「FabLab(ファブラボ)」ムーブメント。「Make」という文化的運動、「メイカーズ革命」としての産業的運動と絡みあいながら、3Dプリンタ等の新しい機材の話題性とともに、たちまち広く浸透してきました。
空前の「ものづくり」ブームのなか、「ものづくりとつながり(=FAB)」で生まれる新しい社会と世界の可能性を提示するために、実際に日本各地でのファブラボ開設や、研究リサーチ等の実践と活動を行なう執筆者陣が、それぞれの立場からの実感に紐づいた「プロジェクト」と「ストーリー」を紡ぎ、問題提起を試みたのが本書です。
私たちの生活を変えようとしている「ものづくりの新時代」のマインドである「FAB」の概念とは一体何か、そしてその可能性はどこにあるのか? 「地域社会」「グローバル+ローカル」「循環社会」「職業」「経済」「産業」「教育」「芸術」といった多様な視点と異質な要素の混淆から、今こそ考えるべき「つくりながら生きる」ことの本来の姿を提示します。
「パーソナルなデジタル・ファブリケーション」の先を行く、「ソーシャルファブリケーション(社会的なものづくり)」を提示し、ファブラボが「社会運動」として持続していくために何が必要か、「FAB」に何が可能かという新しい価値を提案する一冊です。
ファブラボ・プロジェクトには、すでに各国の10年分の経験が蓄積されている。MITから始まったアイデアとはいえ、はっきりとした中心のない、草の根的な広まり方をしながら、2013年現在、50ヵ国以上200ヵ所以上が存在する。「パーソナル・ファブリケーション」はより広く社会の関心を集め、さまざまなかたちで進展している。
私個人も、こうしたファブラボの世界的展開の渦に飛び込んではや5年が過ぎようとしているが、活動のなかで常に印象的に感じてきたことがあった。それは、「パーソナル・コンピュータという複合物をつくるために、さまざまな部品を統合する必要がある」のとまさに同じような意味で、ファブラボという複合的な場や組織をつくりあげるためにも、「さまざまに異なる〝人〟が協働する必要がある」という事実である。つくるものが物質的な「もの」ではなく不可視の「組織」となっても、そこに求められたのは異質な要素の総合であったのだ。個人が、異質な要素を(再)統合してものをつくることをパーソナル・ファブリケーションと呼ぶならば、異質な個人が集まってプロジェクトを行なうことはソーシャル・ファブリケーションである。
──はじめに(田中浩也)より
目次
はじめに 田中浩也
1. FABが地域をつなぐ――ファブラボ鎌倉の取り組みから 渡辺ゆうか
2. FABで国境を越える――旅するメイカーとグローカルなものづくり 田中浩也
3. FABが循環を変える――ソーシャル・ファブリケーション時代における野生のライフサイクル思考 津田和俊
4. FABが職業を変える――デザイナーからメタ・デザイナーへ 水野大二郎+太田知也
5. FABが経済を変える――生産と消費の新しいシステム 岩嵜博論
6. FABが産業を変える――超多品種少量生産という未来の製造 すすたわり
7. FABが教育を変える――工業高校が取り組む「機械系ファブラボ」の可能性 門田和雄
8. FABが芸術を変える――芸術がFABを変える 松井茂
〈座談会〉FABでどこまで遠くへいけるか ――分野や国境を越えていく個をつくるために
久保田晃弘×城一裕×田中浩也×門田和雄
おわりに 今をつくりだすために 城一裕
FABバカロレア 久保田晃弘
プロフィール
[著]
田中浩也 (たなか・ひろや)
1975年生まれ。京都大学総合人間科学部卒業、東京大学工学系研究科修了。博士(工学)。2005年より慶應義塾大学SFC環境情報学部専任講師、2008年より同・准教授。2010年にはマサチューセッツ工科大学客員研究員。設計支援、創造性支援の研究を軸に、異質な要素をつなぐツールやプラットフォームの開発や実践を続ける。2011年にファブラボ鎌倉を設立した後、2012年には慶應大学SFC研究所ソーシャルファブリケーションラボを立ち上げ、その代表となる。現在は第9回世界ファブラボ会議実行委員長を務めている。著書に『FabLife──デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」』(2012年)、監訳書に『Fab──パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ』(2012年)『オープンデザイン──参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」』(2013年)(以上、オライリー・ジャパン)など。
渡辺ゆうか (わたなべ・ゆうか)
1978年生まれ。ファブラボ鎌倉代表/慶應義塾大学SFC研究所訪問研究員。多摩美術大学美術学部環境デザイン学科修了。在学中、越後妻有アートトリエンナーレ2003に拡張版東京藝術大学曽我部ゼミメンバーとして参加以降、建築、地域、ヒト、モノ、コトをひとつの流れとして捉えるようになる。大学卒業後、都市計画事務所、デザイン事務所勤務。2010年、FabLabの活動に参加。2011年、ファブラボ鎌倉を田中浩也とともに立ち上げる。活動をより活性化させるため2012年1月にFabLab Kamakura, LLCを設立。現在に至る。共著に『実践Fabプロジェクトノート──3Dプリンターやレーザー加工機を使ったデジタルファブリケーションのアイデア40』(グラフィック社、2013年)がある。
津田和俊 (つだ・かずとし)
1981年、岡山県新庄村生まれ。2001年、津山工業高等専門学校電子制御工学科卒業。2008年、千葉大学大学院自然科学研究科多様性科学専攻修了。博士(工学)。2011年から大阪大学工学部/大学院工学研究科創造工学センター助教。その他、サステナブルデザイン国際会議実行委員、国連大学鳥瞰型環境学サマースクール修了生幹事等。モノの流れや循環に着目しながら、自然環境と人の関係性について考察している。2010年5月の発足当初から「ファブラボジャパン」ネットワークに参加。2013年、大阪市に拠点「ファブラボ北加賀屋」を共同開設。
水野大二郎 (みずの・だいじろう)
1979年東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部専任講師、京都大学デザイン学ユニット特任講師。2008年Royal College of Art博士課程後期修了、芸術博士(ファッションデザイン)。共著に『X-Design』(慶應義塾出版会、2013年)、『リアル・アノニマスデザイン──ネットワーク時代の建築・デザイン・メディア』(学芸出版社、2013年)、編著に『vanitas』(vanitas編集部、2013年)がある。
太田知也 (おおた・ともや)
1992年生まれ。慶応義塾大学環境情報学部、水野大二郎研究室所属。2012年、ものづくりの批評誌『Rhetorica』を創刊し、編集、執筆、デザインに携わる。
岩嵜博論 (いわさき・ひろのり)
1976年生まれ。普段は広告会社のコンサルティング部門にてストラテジックプラニングディレクターとして勤務。専門はエスノグラフィックリサーチ、新製品・サービス開発、ビジネスデザイン、ユーザー中心イノベーション、プロセスファシリテーション。近年はソーシャルファブリケーションがもたらす生活者主導のものづくりについての研究にも注力している。第9回世界ファブラボ代表者会議実行委員。慶應義塾大学大学院修士課程、イリノイ工科大学Institute of Design修士課程修了。共著に『アイデアキャンプ──創造する時代の働き方』(NTT出版、2011年)。
すすたわり
1975年東京生まれ。2005年筑波大学大学院博士課程システム情報工学研究科コンピュータ・サイエンス専攻修了。博士(工学)。2005年度下期未踏ソフトウェア創造事業スーパークリエータ。学位取得後、2012年3月まで同大学研究員。2009年9月より工学院大学情報通信工学科非常勤講師兼任。2010年5月よりFPGA-CAFE/ FabLab Tsukubaを運営。2012年4月に株式会社SUSUBOXを設立。現在、同社代表取締役。著書として『FPGA入門──回路図とHDLによるディジタル回路設計』(秀和システム、2012年)。
門田和雄 (かどた・かずお)
1968年生まれ。東京工業大学附属科学技術高等学校教諭。東京学芸大学教育学研究科技術教育専攻修士課程、東京工業大学大学院総合理工学研究科メカノマイクロ工学専攻博士課程修了。博士(工学)。機械技術教育の実践と研究を活動の柱として、幅広くものづくりや執筆に取り組んでいる。FabLab Japan Networkの一員としてFabLabの活動に参加、FabLab関内の立ち上げにも関わる。主な著書に、〈今日からモノ知りシリーズ〉『トコトンやさしいねじの本』(2010年)『トコトンやさしい制御の本』(2011年)『トコトンやさしい歯車の本』(2013年)(以上、日刊工業新聞社)がある。
松井茂 (まつい・しげる)
1975年生まれ。詩人。東京藝術大学芸術情報センター助教。武蔵大学人文学部日本文化学科卒。編集プロダクション勤務を経て、東京藝術大学大学院映像研究科特任講師。藤幡正樹が研究代表をつとめる「デジタルメディアを基盤とした21世紀の芸術創造」(CREST研究)に従事。2012年より現職。近年は、テレビジョンと現代美術の影響関係について国内外で研究、発表、上映をしている。編著に『虚像の時代──東野芳明美術批評選』(河出書房新社、2013年)、『日本の電子音楽 続 インタビュー編』(engine books、2013年)。長嶌寛幸とレクチャー形式のライブ・エレクトロニクス・ユニット「シニギワ」としても活動。
城一裕 (じょう・かずひろ)
1977年福島生まれ。情報科学藝術大学院大学[IAMAS]講師。403forbiddenメンバー。九州芸術工科大学音響設計学科卒・同大学院修了。東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程満期退学。日本アイ・ビー・エムソフトウェア開発研究所、東京大学先端科学技術研究センター、英国ニューカッスル大学Culture Lab、東京藝術大学芸術情報センターを経て、2012年4月より現職。現在の主なプロジェクトには、ありえたかもしれない今をつくりだす「車輪の再発明」、参加型の音楽の実践である「The SINE WAVE ORCHESTRA」、生成音楽の古典的な名作を再演する「生成音楽ワークショップ」、予め吹き込むべき音響のないレコードを創りだす「cutting record」などがある。主な論考に「いつか音楽と呼ばれるもの 試論」SITE ZERO No.2(メディア・デザイン研究所、2008年)、「The music one participates in」Performing Technology(共著、Cambridge Scholars Publishing、2010)など。
久保田晃弘 (くぼた・あきひろ)
1960年生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース教授。JAXA宇宙科学研究所学際科学研究系客員教授。FabLab渋谷メンバー。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。衛星芸術、バイオアート、デジタル・ファブリケーション、自作楽器によるサウンド・パフォーマンスなど、さまざまな領域を横断・結合するハイブリッドな創作の世界を開拓中。主な著書に『消えゆくコンピュータ』(岩波書店、1999年)『ポスト・テクノ(ロジー)ミュージック』(共著、大村書店、2001年)、訳書に『FORM+CODE──デザイン/アート/建築における、かたちとコード』(2011年)、『ビジュアル・コンプレキシティ─情報パターンのマッピング』(監訳、2012年)『ジェネラティブ・アート──Processingによる実践ガイド』(監訳、2012年)(以上、ビー・エヌ・エヌ新社)、『Handmade Electronic Music──手作り電子回路から生まれる音と音楽』(監訳、オライリー・ジャパン、2013年)などがある。