ためし読み

『「クリエイティブ」の練習帳 発想力をとことん鍛える100の難問』

イントロダクション

生きていますか?

「5年どころか、10年や20年経っても、うまくやっていくのに必要な技能や能力といったら何ですか?」

世界有数の芸術大学セントラル・セント・マーティンズのために、「100のデザイン・プロジェクト」という講座を開発するという依頼を受けたとき、私が「学生はこんなことを聞きたがるだろう」と予想したのが、上の質問だった。時代が移っても、ある世代が丸ごと古びないでいるための備えとはどんなものか。その答えを見つけたかった。

私たちは流動的かつ国際的でなければならない。一つの分野に留まらず、複数の分野にまたがることが求められる世界に対して、私たちは備えなければならない。専門という概念はぼやけ、重複していく。そこは地図のない巨大な渦。かつて変化というのは2から3世代の間に起きるものだった。グーテンベルグの活版印刷技術を西洋文明が吸収し終わるまでには何世紀もの時間を要した。現在、変化は瞬時に起きる。コンピュータ、インターネットその他のテクノロジーが、心配になるほどの頻度で世界の秩序を変えていく。新しい製品やサービスを創出するクリエイティブな頭の持ち主が、経済を回すのが今という時代なのだ。

そのような未来でうまくやっていこうと思うなら、気づかなければならないことがある。この時代に流通する貨幣は、お金ではない。データでも、注意力でも、時間でもない。アイデアなのだ。

あなたはアイデアに囲まれて生きている。映画、書籍、音楽、建物、ファッション、そしてありとあらゆる種類のビジネス。文化の中に存在するいかなるものでも、最初は誰かの脳内に生まれた一つのアイデアだったのだ。アイデアは革命を起こせる。アイデアは社会が向かう方向を変えることができる。そして世の中を変えるようなアイデアは、世の中を変えそうもない普通の場所で生まれる。世界を変えそうもない普通の誰かが、寝室や、車庫、事務所、教室、カフェといった場所にいたときに、突然湧いて出る。製造業の時代には、一つ技術を身につければ一生安泰だった。製造業後の今、一つの技術は身につけた途端に古くなる。重要な物事に関わるために必要なのは何か。自分の人生を、そして自分を取り巻く世界を自ら導いていくために必要なのは何か。もはやそれは熟練した技術ではない。その代わり、あなたはアイデアの人にならなければならない。アイデアの人、それは適応力があり、物事を決めつけず、問題解決に長けた、コミュニケーションの達人。発明家。芸術家。そしてエンターテイナーなのだ。

読者のあなたがアイデアの人になるために必要な跳躍を手助けするのが、本書の目的だ。オリンピック・アスリートは身体を鍛える。クリエイティブな人も同様に鍛えなければならない。ただし身体ではなく、想像力を。アスリートが走り込み、ウェイトを持ち上げ、ストレッチするように、本書の練習問題の数々はあなたの頭を鍛えて、あなたをアイデア生成マシンに仕立て上げる。概念を生み出す力を磨き、クリエイティブな潜在能力を高める。あなたがどのような人生を歩んできたか、今どのような職種に就いているかは、問題ではない。世間が承認したものや、伝統的な考え方から一歩踏み出す勇気をあなたが持てるように、本書は設計されている。

(中略)

本書にあるような練習問題に取り組んで一番いい結果を出したのは、「正解」を探す人ではなく、一番普通ではない、一番びっくりさせるような、そして一番面白い結果を求めた人たちだ。代替案をたくさん出して、一番効率のよい答えを選ぶ。しばしば、バカげてみえるアイデアが、予想を裏切るような力強い結果を導き出すもの。デザインの技術や描画の才能は不問。重要なのはアイデアを伝えることであり、線を何本か引けばきちんと相手に伝えることはできる。新規な解決法、そして人を驚かせるようなソリューションを考えよう。型どおりで予想どおりのものは避けよう。失敗しよう。大量生産品、手作り、装飾的、機能的、素朴、大規模、ハイテク、ローテク。柔軟な心であらゆる可能性を探ろう。

デザインのコンセプトを考案するということは、究極的には意味を探るということだ。もっと効率よくコミュニケーションをとるために何ができるのか? この物体の本質は何なのか? それは使う人の感覚をどう成形するのか? 私たちのコミュニケーションには限界があるのか? より良い都市を作るには何をすればいいのか? 世界とはこういうものだとあなたが思えば、世界はそういうものになる。こういうものだと思った自分に、私たちはなってしまう。現代の文化を探索せよと読者の皆さんに挑戦するのが本書なのだ。それはあなた自身を探索せよという挑戦でもある。

発想力をとことん鍛える難問

チャレンジしてみよう!

地獄のハムスター

自分が遺伝子工学の技術者だと想像してみよう。生命のデザイナーだ。バイオテクノロジーを使ってある生物のDNAを別の生物に移す。すると何ができたか。倍の速さで成長する鮭。ミミズの遺伝子を組み込まれて肉の脂身を減らした羊。鳥のようにさえずるマウス。クラゲの遺伝子を埋め込まれて暗闇で緑に光るネズミ。心臓移植のために人間の心臓を持たされたブタ。

ハムスターはふわふわしているだけで人畜無害。他の生き物の遺伝子を結合して、史上初の過激なハムスターを創ってみよう。

「遺伝子を操作がきるようになったということは、新しい種に進化するために必要な時間が劇的に減るということかもしれない。」ディー・ホック(クレジットカード会社社長)

Q:過激なハムスターを創造してください

原子力ゴミ箱を作ろう

建築家が100年以上もつ建物を設計することは滅多にないが、放射性廃棄物保管容器はメンテナンスの必要があってはならず、1万年の間開けることも許されない。人類がかつて作ったいかなるものよりも頑丈でなければならないので、おそらくそれは人類の遺産となるだろう。長い間に私たちが使う言語やシンボルが変わっても容器は壊れない。だから容器を格納する建屋の外見からして、未来の人たちに「極めて危険、立ち入り禁止」と伝えられなければならない。

「核の連鎖反応の発見が人類に破滅をもたらすというなら、マッチの発見も同じことです。だからこそ、悪用されないように全力で守らなければ。」アルバート・アインシュタイン(理論物理学者)

Q:放射性廃棄物保管施設をデザインしましょう

子どもの頃の玩具を大事にしているか?

お気に入りのプラスチック製の玩具やぬいぐるみのクマが玩具ではなく本物だと言い張る子どもには、誰でもお目にかかったことがあるはずだ。それは子どもらしい混同などではない。玩具は心の中で本物になるのだ。それは人が獲得し得る最も親密な関係なのだ。古くなった玩具は捨てるのではなく、尊敬の念を込めて土に埋めてやろう。古代の墓には、死者を模した彫像が一緒に埋められた。その彫像に装飾が施され、故人がいかに偉大でその死が悼まれるのかが書き込まれた。あなたのお気に入りの玩具のために墓をデザインして、それがいかにあなたにとって唯一無二のものだったか伝えよう。

「君は玩具なんだよ! 本物のバズ・ライトイヤーなんかじゃないってば!」ウッディ(オモチャのカウボーイ)

 

Q:玩具の墓をデザインしてください

(このつづきは、本編でお楽しみ下さい)
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「クリエイティブ」の練習帳

発想力をとことん鍛える100の難問

ロッド・ジャドキンス=著
島内哲朗=訳
発売日 : 2019年9月26日
1,800+税
四六判・並製 | 240頁 | 978-4-8459-1901-7
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