ためし読み

『アウトラインから書く小説再入門 なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?』

Chapter.1 アウトラインは必要か?

作家は二つのカテゴリーに大別できます。アウトライン派と非アウトライン派、あるいは執筆前 にプロットを作る「プロッター」と、作らない「PANTSER(パンツァー)」。パンツァーとは「計画を立てず、勘を頼りに作業する=SEAT OF PANTS」というイディオムからきています。二つの方法をめぐり、熱いバトルがよく起きます。あなたもこんな会話に聞き覚えはありませんか?

アウトライン派のオリー
「アウトラインがないと書けないよ。行き先までのロードマップがある方が楽に書ける。先の展開も決めずにまともなストーリーが書けるわけがない。行き詰まったり、サブプロットがグダグダになったりして、結局は時間の無駄!」

パンツァーのポリー
「アウトラインに何週間も、何ケ月も費やすなんて時間も根気もないなあ。そんなに長い間原稿を書かなかったら気が変になる。それに、前もって筋がわかってしまったら、原稿を書くまでに飽きちゃう」

どちらも一理あります。では、どちらが真実? よく考えると、驚くべきことに気づきます。

両者が言っていることは、どちらも真実なのです。

あらゆる創作活動と同様、文章術にも絶対的に正しい方法はほぼありません。そんなものがもしあっても、型にはまった凡庸な作品ができるだけ。物語を書くプロセスにも、同じことが当てはまります。トランプのシャッフルのしかたが人それぞれであるように、創作の進め方も作家によって少しずつ違います。私たちの作品にーつずつ個性がある(と願いたいですね)ように、作家の性格やライフスタイル、作業の進め方もさまざまです。

文章術を磨くため、ハウツー本や作家インタビューを読む人も多いでしょう。しかし二人の作家がよいと言ったノウハウが、万人によいとは限りません。私たちはそのことを見落としがちです。

人は「ルール」によりかかるのが大好きです。週に5日、毎日1ページ書けば1年間で1冊分になり、2年以内に出版できる。そんな言葉でやる気を出そうとするけれど、人生はそんなふうにいきません。日課を固定しない方がもっと書けるかもしれないし、プレッシャーを軽くして柔軟にする方があなたに向いているかもしれません。

作家はみな、自分にとって最善のメソッドを見つけるべきです。マーガレット・アトウッドの方法や、スティーブン・キングの方法をむやみに模倣しても意味がありません。いろいろな本を読み、他の作家たちの方法も学んだ上で、あなたにぴったりのメソッドを見つけて下さい。

私の方法は年々変化しています。5年前の方法が今も効果的とは限りませんし、今から5年後どうなるかもわかりません。物語を一つ書き終えるたびに自分が少しよくわかり、よりよいアプローチがわかります。私はいつも直感の声に耳を傾け、作業のしかたを常に改善しています。効果的でない方法に無理やり従っていないか気をつけています。

どうすれば向上できるか、知っているのはあなた自身に他なりません。どんな大御所も所詮は他人。まねをする必要はありません。あなたに合うメソッドでいきましょう。アウトラインを作るかどうかも結局は人それぞれで、性格に向き不向きがあるかもしれません。アウトラインが苦手な人たちがいるのも事実です。発想の邪魔になるとか、本を書く気が失せるとか。そんな理由で「アウトラインを構築してみたけど私には合わなかった」という人たちがいる一方、「試してみたらすごく効率が上がった。まとまりのある文章がどんどん書けるようになった」という人たちもいます。

私は後者にあたります。私はアイデアのメモ帳をプロット作りに生かしてきましたが、きちんと アウトラインを書くようになったのは6冊目の小説『Behold the Dawn(暁を見よ)』からです。この時は3ケ月間がけて、アイデアを下書きしたり、各シーンの計画を書いたりしました。

さて、その成果は?

それまでで一番納得のいく作品が書けました。また、創作がたやすく、ウキウキする体験に変わったのです。生まれて初めて、物語がするすると流れるように書けました。時間をかけてアウラインを作ったおかげだと思います。

それまでの方法を反省し、私はすっかりアウトライン派に変身! とはいきませんでした。

次の小説『Dreamlander(ドリームランダー)』で私は教訓を忘れていきなり執筆に乗り出し、 痛い目に遭ったのです。一年かけてリサーチしたので、もう準備はうんざり。アウトラインを書く気分にはどうしてもなれず、原稿を書き始めてしまいました。それはまるで、ロードマップなしで荒野を走るようなもの。先に進むほど道は険しくなり、気がつけば私は途方に暮れていました。

50ページ目あたりまで書いたものの、文章はグダグダ。登場人物やプレミス「物語の骨子、あるいはそれを短文で表したもの」は気に入っていたのに、とんでもない惨状です。しばらく怒ったり嘆いたりしてから観念し、振り出しに戻ってアウトラインを作りました。

二ケ月半後、グダグダの50ページを整理する指針ができ、結末へのルートがはっきりしました。絶対なんて言えませんが、それでも絶対、今後私はアウトラインなしで原稿を書かないでしょう。長編小説の完成稿なら、字数は10万を超えます。そこまでの量の文章を額に汗して書き直すより、数十ページのアウトライン段階で修正する方がずっと楽です。

私がアウトラインを書くのは、面倒なことが嫌いだからです。書き直すのは大嫌い。後からプロットの欠陥が発覚すれば、原稿を仕上げた時の爽快感など吹き飛んでしまいます。みじめな気持ちで伏線やプロットのひねりを後づけするよりは、初稿を書く前にロードマップを作る方がいいです。全体を傭敵すれば、各シーンで書く内容も把握できますから。

アウトラインはスランプの対処法にもなります。マップを見れば打開策が見えるので、時間を無駄にしません。パソコンのカーソルを見つめるだけで何も書けない、という症状ともお別れです。

アウトラインは付筆に短文を書く程度のものから、ノート何冊にもわたるものまでさまざまです。決まりごとや形式はありません。私のアウトラインはノート1、2冊程度です。シーンを箇条書きにすれば充分な人もいれば、ノート5冊は必要な人もいるでしょう。量や形式でなく、アウトラインの意義を知り、あなたなりの活用法を見出すことが大事です。

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アウトラインから書く小説再入門

なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?

K・M・ワイランド=著
シカ・マッケンジー=訳
発売日 : 2013年7月24日
2,000円+税
四六判・並製 | 232頁 | 978-4-8459-1310-7
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