作家はユニークな力を発揮します。読者をある世界へと誘(いざな)い、自分とは異なる体験をさせる能力です。他者の人生を体験させる機会を与えることは素敵な贈り物になりますが、自らの人生における洞察を加えてそれを提供することというのは、より素晴らしいことです。
優れたフィクションとは、読者が共感できるような、信頼のできるキャラクター造形に深く関わっています。そうした人物とは、苦労し、疑念を抱き、人生の浮き沈みを経験しながらも、そこから「必ずより良いものになるはずだ」という信念とともに前を向くような人々のことです。物語において、キャラクターは成長と変化の旅に出ることになりますが、それらは多くの点で読者自身を反映しています。人生とは容易なものではありません。キャラクターたちが逆境や何かに挑戦するとき、あるいは内なる葛藤に向き合っているときは、それ自体が大きな共感を読者にもたらすばかりでなく、人生における忍耐や寛容、あるいは何かを諦めるということについて、読者に教訓を提示しています。
リアルな人間であるように感じられる人物を構築することは、彼らが本当は誰なのか、行動における動機は何なのかを理解するために、その背景を探究することから始まります。現実の世界における私たちと同じく、良くも悪くも過去の経験というものが主人公の人物像を形作ることになるでしょう。痛ましい心の傷を生む出来事は、キャラクターに道を踏み外させ、その人間関係を傷つけさせ、そして人生の充実感と幸福から彼らを遠ざけるのです。
トラウマはさまざまな形と大きさをもって現れ、個人が世界と自分自身をどのように見つめるのかについて、それを劇的に変容させます。キャラクターの壊れた過去について理解し武装することで、作家は、キャラクターが自身の未だ消えぬ傷に直面し、破壊的かつ感情的な自己防衛を解体し、自己の価値を破壊する内なる不信を撃退するような、個人的かつ重要な目標を構築することによって、力強いキャラクターアークを構築することができるのです。
本書『トラウマ類語辞典』は、100を超える現実に起こりうる感情の傷を見つめ、何百時間もかけて、心理的トラウマに基づく人間の行動やその後遺症について研究を行いました。心理学者によって吟味されたそれらの情報は、さまざまな種類の心の傷がキャラクターの性格を変えたり、彼らに恐怖を植え付けたり、それらが彼らにとってある種の否定的な行動や態度につながることを示すための、無数の方法を作家に提供してくれます。 そこにはまたその傷が最終的に克服されるよう、物語におけるイベントの取り扱いに関する多くのアイデアも含まれています。
変化というのは簡単なことではありません。それはキャラクターも現実の人間も同じ。内面の変容過程を書くことはチャレンジングなことですが、主人公が自身の過去に直面し、強い人物となり、そしてキャラクターが物語におけるゴールへと到達するために必要な精神的な道具を手にして力を得るまでの長い道のりを示すことを、ブレイン・ストーミングとしての本書はより容易なものとしてくれるでしょう。
本書が読者の皆さんの創作活動において、価値あるツールとなることを願っています。 世界にはもっともっと素晴らしい物語が必要なのだ。本書が、読者の皆さんが自分自身の手がける創作物に、自分だけの強みを手にすることの助けになれば、光栄です。
ハッピー・ライティング!
アンジェラ・アッカーマン&ベッカ・パグリッシ
(Angela Ackerman & Becca Puglisi)
(訳=フィルムアート社)
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