ためし読み

『アクション作品創作バイブル 魅せるためのキャラクター・設定・サブジャンル』

本書について

 アクションというジャンルで展開されるのは、生と死という、人間の終わりなき奮闘に関する最上の隠喩である。そこでは、自己犠牲の精神を持つヒーローを自己中心的な悪役と対峙させ、悪の企てをくじいて不運な被害者を救い出す戦いがストーリー全体にわたって繰りひろげられる。ヒーロー、悪役、被害者の三者は、それぞれが勝利への意志、破壊への衝動、生存への願望というだれもが持つ三つの相反する欲求を象徴する。

 われわれが本書を執筆したのは、アクション作品の作り手であるあなたに向けて、この魅力あふれるジャンルにおける探求の道標を示し、気高い伝統を受け継いだ傑作を生み出すきっかけを与えるためだ。

イントロダクション

 第1部では、アクション作品の中核を扱う。第1章で、あらゆる物語を対象とした二十一世紀のストーリー分類の考え方を、基本ジャンル(内容による分類)と形式ジャンル(表現形式による分類)に分けて概説する。第2章から第5章で、基本ジャンルの主要な構成要素―中核の価値要素、中核の登場人物、中核の出来事、中核の感情について確認し、これら四つの基本要素がどのようにアクション作品を息づかせるかを見ていく。

 第2部では、アクション作品の登場人物を扱う。第6章と第7章で、アクション作品の内なるエネルギーを生み出す三つの役柄であるヒーロー、悪役、被害者を中心に解説する。

 第3部では、アクション作品の設計を扱う。第8章から第16章で、契機事件(inciting incident)からクライマックスに至るまで、アクション作品の構造について確認する。

 第4部では、アクション作品のサブジャンルを扱う。第17章から第22章で、アクション作品の四つのサブジャンルと、それぞれに四つずつあるサブジャンル内サブジャンルについて解説し、またアクションのジャンルで最も尊重される形式であるハイ・アドベンチャーについても詳述する。第4部の最後は、独創性の必要を説いて締めくくっている。

具体例についての注

本書の解説で具体例としてあげた作品は、どれも公開時もしくは刊行時に人気を博したものだが、それ以上に重視したのは、ジャンルのさまざまな原則をわかりやすく正確に表すことである。以下のなかに観ていないものがあれば、鑑賞することを勧める。

『ダイ・ハード』(1988)
『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011)
『ターミネーター』(1984)&『ターミネーター2』(1991)
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作(1985、1989、1990)
『メン・イン・ブラック』(1997)&『メン・イン・ブラック2』(2002)&『メン・イン・ブラック3』(2012)
『スター・ウォーズ』シリーズ(1977~)
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)
『ダークナイト』(2008)
『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)
『マトリックス』(1999)
『LOOPER/ルーパー』(2012)
『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)

はじめに──アクション作品への愛

 何万年ものあいだ、遊牧生活を営んでいたわれわれの祖先は、言い合い、取っ組み合い、殺し合いという危険な体験の数々を、火明かりのなかのダンスで讃えてきた。ことばが発達するにつれて、そうした身体表現による行為の数々は、吟遊詩人たち(ホメロスが最も名高い)によって何十万語もの長さを持つ韻文に作りなおされ、記憶され、そのまま朗唱されるようになった。何十年、何百年ののち、そうした長大な口頭伝承を写字生たちが書きことばへ移し替え、それらは古代ギリシャの『オデュッセイア』や『イリアス』、古代インドの『マハーバーラタ』、古代メソポタミアの『ギルガメシュ叙事詩』などの傑作として結実した。

 ホメロス以降の三千年間にこのジャンルを支えたのは学識あるエリート層で、詩と散文の両方を用いたイギリスの『ベオウルフ』、アイスランドの『ニャールのサガ』、ドイツの『ニーベルンゲンの歌』、フランスの『ローランの歌』、アラブの『バイバルス物語』などの作品がある。やがて、識字能力と映像作品がともに社会のあらゆる階層に浸透し、アクション作品は現在の地位―世界で最も人気のあるストーリーテリングのジャンルに位置づけられるようになった。

 アクション作品への愛が芽生えるのは、遊びが冒険になるときだ。這い這いがよちよち歩きに変わり、やがて部屋から部屋へと駆けまわる体験を積むなかで、われわれの想像力は階段の昇降を砦への攻撃や怪物からの逃走へ変えていく。居間の絨毯が戦場と化し、玩具がヒーローや悪役に変化する。われわれは想像の世界で罪なき者を救い、悪党に罰を与え、善と悪との永遠の戦いを直感的に演じる。

 歳を重ねるとともにアクション作品への愛は成熟し、より革新性のあるものを求める気持ちが強まる。毎年毎年、すぐれたアクション作家たちはわれわれのその望みをかなえるだけでなく、まぶしいほどの独創性で世界を表現している。それどころか、最高の作家たちの手にかかれば、このジャンルの約束事は旧友の生まれ変わりのように、新鮮でありながらなじみ深く感じられるだろう。

 アクション作品はその人気ゆえに、いまや創作するのが最も困難なストーリーテリングのジャンルとなり、独創性を発揮するのがきわめてむずかしい。前世紀だけ見ても、同じような作品が何万、いや何十万とページ上やスクリーン上やゲームの画面上に出現してきた。見渡すかぎり、陳腐なクリシェばかりだ。犯罪やホラーなど、作品数の多いジャンルは、すでに膨大な数のアクション作品で飽和状態にある。

 どうすれば現代の作家は、これまで散々観たり読んだりしてきた物語とはまったく異なるアクション作品のシーンを、未来のファンのために生み出せるのだろうか。どうすれば古くからつづくクリシェとの闘いに勝つことができるのか。単なるよい作品ではなく、極上の作品を生み出すにはどうすればいいのか。本書は難題に光をあて、作家がうまく独創性を発揮できるよう導いていく。



※掲載しているすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。

アクション作品創作バイブル

魅せるためのキャラクター・設定・サブジャンル

ロバート・マッキー/バシム・エル゠ワキル=著
越前敏弥=訳
発売日 : 2025年2月26日
3,000円+税
A5判・並製 | 336頁 | 978-4-8459-2403-5
詳細を見る