はじめに
情熱を持てる題材について書きましょう、といつも私は言っています。小説家を目指すみなさんへのこの言葉は、私自身が指南書を書く時にも当てはまります。そのうちの1冊である『ストラクチャーから書く小説再入門――個性は「型」にはめればより生きる』(拙訳、フィルムアート社、2014年)をもとに、このワークブックを作りました。ストラクチャー、つまり構成とは私にとって、「情熱」という言葉では表しきれないほど心が燃え立つ題材です。
書き手としての旅路の中で、ストーリーの構成というコンセプトは、私に大きな発見や気づきをくれました。今もなお、構成に対するワクワクした気持ちを書き尽くすことはできません。
素晴らしいストーリーにはみな、共通する要素があります。それがわかった瞬間に、視界を覆う霧が晴れることでしょう。もちろん、あなたも、ストーリーを思い描き続けてきたはずです。ある程度は理解もできています。それが、構成に着眼するやいなや、すっかり新しい次元でストーリーを眺められるようになるのです。それはまるでエックス線撮影の画像を見るかのよう。かつて肌や髪など、いわばストーリーの表面だけを見ていたのが、今度は骨格まで見えるのですから。
ほとんどの書き手と同じように、私も初稿をまとめるのに苦心してきました。アウトラインを入念に作っても、なぜかうまくいかない作品もたまにあり、どうしたものかと考え続けました。そうやって、ただ考え、探し続けるしかない、と多くの人々が思い込んでいます。
でも、解決策は他にあります。
■なぜ構成を立てると執筆がうまく、楽に運ぶのか
創作とは空想の自然な流れと直感に従って行うものだと思われがちです。その流れを意識的に操作しようとするなんてとんでもない、と。私も多くの書き手と同じように、苦労しながらただ書き続けていました。そうして出来上がったストーリーは、ある程度まではうまくいっていましたが、納得がいくものではありませんでした。
その当時、私は、創作とは自分が創造したいものを、穴を掘って見つけ出すようなものだと思っていました。何が掘り起こせるかは見当もつきません。何もわからないまま、ただシャベルですくい続けるだけです。いつか穴の底にたどり着けば、すべてがはっきりするだろう、と信じて掘り続けるのみでした。
それと同じようにして、多くの人々が創作に挑んでいます。ストーリーには何と何とが必要かは、すでによく知られています。冒頭で強烈なフック(つかみ)を仕掛け、キャラクターに鮮やかなアーク(変化の軌跡)をたどらせ、サスペンスを高めておいて、ストーリーの結末へ。そこで穴掘り作業は終わり、すべてが突然、あるべきところに着地するはずだ、と頭では理解できています。
しかし、それでもうまくまとまらなかったストーリーが、誰しも1つはあるのではないでしょうか。何もかもきちんとできている(と、自分では思っている)のに、ストーリーの流れがなんとなく不自然。でも、理由がわからない。なんともはがゆい気分です。「不可欠」と言われる要素は全部揃っています。なのに、なぜか、うまくいかない。それらの要素がまとまりを欠いている。
そういう時には構成を見て下さい。
構成とは何なのか、私が初めて1つひとつ順を追って説明されるのを聞いた時、頭の中で電球がパッと灯ったような気がしました。文字通り、構成は私の人生を変えたのです。
前記の既刊書では、3幕構成の基本をわかりやすく分解し、フックや第1幕、プロットポイント1、第2幕の前半、ミッドポイント、第2幕の後半、プロットポイント2、第3幕、クライマックス、解決など、重要な要素を1つずつ解説しています。さらに、シーンの中のこまかい構成の仕組みについてなど、ストーリーの組み立ての小さな部品についても取り上げています。
■ 本書の使い方
このワークブックでは、構成の大切な要素を1つずつ眺め、問いについて考えながら焦点を絞り、ステップを追って構成のすべてがわかるようになっています。あなたがアウトラインを作って執筆するタイプなら、初稿の執筆前に本書を活用し、構成もしっかりと立てて下さい(既刊書籍『アウトラインから書く小説再入門――なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?』(拙訳、フィルムアート社、2013年)と『〈穴埋め式〉アウトラインから書く小説執筆ワークブック』(同上、2021年)のメソッドも、本書と共通しています)。また、原稿がすでに完成している場合でも、本書と照らし合わせて構成の完成度を確認し、改善した方がよいポイントを見つけることができます。
本書の各項目では、まず概念(コンセプト)の説明があり、次に小説や映画の実例を挙げています。もとにした書籍『ストラクチャーから書く小説再入門』での解説が見つけやすいように、該当の頁番号も記載しています。同書に原理とその活かし方をわかりやすく記していますので、先に読んでから本ワークブックに取り組むことをお勧めします。
本書は徐々にストーリーの全体像からディテールへと思考を進め、また全体像に戻る構成になっています。それぞれの問いに対するあなたの答えが具体的になればなるほど、執筆や推敲の準備も整っていくでしょう。でも、途中で質問を飛ばしたくなったら、ためらわずに飛ばして先に進んで下さい。他のステップをすべて完了させてからでなければ埋められないセクション(「伏線」など)も、いくつかあります。
答えを書き込む際に、頁にある空欄では足りないかもしれません。思いついたことをすぐに書き留められるよう、あらかじめノートを別に用意しておいて下さいね。
構成の美点は、そのシンプルさです。ブロックを整然と積み重ねることによって、ストーリーが構築できます。その積み重ねの構造が見えた時、突然、ストーリーには何が必要かがわかるでしょう。もう悩まなくても大丈夫。あなたの知識とパワーを使い、創作ができるようになります。
ストーリーに振り回されることなく、しっかりと手綱をとっていきましょう。
中面紹介
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