「第5章 脚本を読み込むためのコンセプト」
この章には、やや複雑な内容が含まれています。意味がつかめるまで、何度か読み返す必要があるかもしれません。12歳以下の生徒には伝えていない内容もあります。
サブテキスト
台本に書かれている言葉は、いわば「氷山の一角」です。あなたが力を注ぐべきものは、水面よりも下に隠れている、キャラクターの内面を作ることです。俳優の仕事はキャラクターとして舞台の上で何かを体験し、キャラクター自身の目的を果たそうと行動することです。それがもっとも大切な根本であり、台本に書かれている言葉は二次的なものだと捉えてください。
実際の生活にも同じことが当てはまります。人は口で何かを言いながら、心のなかで別のことを思っている場合があるでしょう。ひどい知らせを聞かされた後で、誰かに「元気?」と尋ねられて「うん、元気」と答えることだってあります。口で言っていることとは別に、隠れている本心があるのです。その隠れた本心は、演技では「サブテキスト」と呼ばれます。たとえば「帰らないで、いてくださいよ」と相手に言いながら、「帰ってもらいたいな」というメッセージを伝えようとしていたりします。言葉に反映されていない考えや気持ちや要望が、サブテキストなのです。
キャラクターの内面と目的を理解するまで、サブテキストを理解することはできません。
キャラクターの内面
キャラクターの内面は、あなたが演じるキャラクターの体験であると言えます。そのキャラクター本人にとっての現実だとも言えるでしょう。キャラクターの内面を探るには、何を考え、どのように感じ、何を体験しているかを正確に絞り込みましょう。たとえば、「私はチェスの試合に勝つときに大きな喜びを感じるので、できればどんなことをしてでも勝ちたい。私にもっとチェスの才能があったらいいのに。もっと頑張らなくちゃだめだ。悲しいな」というような感じです。または、「とにかくここから出たいよ。クラスの人たちがイヤでたまらない。腹が立つ。息が詰まりそうだし、胃がムカつく。でも教室にいないと、大事な話を聞き逃してしまう」というように。
キャラクターの内面を理解し、自分と観客にとってリアルに感じられるように表現するのが俳優の仕事です。「私が演じるキャラクターは、どんなことを体験しているのだろう?」「キャラクターに何が起きているのだろう?」「キャラクターは現実をどう捉えているのだろう?」これらの問いについて考え、キャラクターの内面を探ってください。このときに、キャラクターの名前を主語にするのではなく、「私」や「僕」といった一人称で考えると役に立ちます。つまり、「僕はいま、何を体験しているのだろう?」というような問い方です。
キャラクターの目的
人はいつも、何かを求めています。それは「食べ物がほしい」や「住む場所がほしい」など、基本的な衣食住に関する欲求かもしれません。あるいは、「人に受け入れてもらいたい」や「魂の自由がほしい」など、少し複雑な望みかもしれません。「私は何がほしいのだろう?」「私に必要なものはなんだろう?」「ほしいと思っているのに、まだ手に入れていないものはなんだろう?」「ほかのキャラクターの行動のなかで、私が「イヤだな」と感じることはあるだろうか?」「ほかのキャラクターにしてもらいたいと思っているのに、してもらえないことはあるだろうか?」
これらの問いはみな、あなたの目的を知るために役立ちます。「目的」と「必要としているもの(NEED)」と「ほしいもの(WANT)」という用語が、演技の世界では頻繁に使われます。
いくつものシーンが連なる舞台劇や映画のなかで、あなたのキャラクターは物語全体における最終的なゴールや目的を持っています。また、シーンという単位でも、そのなかで果たしたい、はっきりとしたゴールや目的を持っています。そして、シーン単位と物語全体とで、キャラクターのゴールや目的には一貫性や関連性があります。
あなたが出演する舞台劇や映画(短編でも長編でも、長さは問いません)がシーンや幕に分かれた構成になっていなくても、あなたのキャラクターは全体を通して目指す目的を持っています。物語の流れのなかの、どこでキャラクターの目的が切り変わるかを探しましょう。たとえば、あなたのキャラクターは母親と会話をし、母親は退場。次に、妹が登場して会話をするとします。この場合、母親と妹のそれぞれに対して、キャラクターは異なる目的を持って接するはずです。
キャラクターの目的は、積極的ではっきりしていなくてはなりません。「ピザが食べたい」「学校で、新しい友達のグループに入れてもらいたい」というように、はっきりとした望みを設定してください。
キャラクターの目的を深めて演じる方法は、ぜひ本書でご確認ください!
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