問37 どの媒体に持ち込めばいいか迷っています。
どうやって判断すればいいですか?
大事な原稿が描き上がったあと、どうしますか? マンガの世界でプロになるためにはどうすればいいのでしょうか? 第7部ではプロになるための取り組みや、プロになってからの悩みについてお答えしていきたいと思います。
マンガの世界でプロになるための第一歩として、昔から最も有名なのが持ち込みという手段だと思います。文字通り原稿を編集部に持ち込んで直接見てもらうということです。その持ち込みですが、最初は好きな媒体に持ち込んでください。読者として好きな媒体か、憧れのマンガ家さんがいる、そういうところが一番がんばれるからです。
最初に持ち込んだところが担当とも媒体のカラーとも相性抜群で、読者からも才能を認められて速攻で大活躍!という人は、27年編集者をやっていますが、ほとんど見たことがありません。ほかのどんなプロの世界でも同じですが、新人がいきなり名だたるプロの先輩たちをぶち抜いて大活躍できるなんてことはごく稀で、ほとんどの人がプロとしての力をコツコツと身につけていくことが必要になります。
コツコツがんばるには、やり甲斐が必要です。だからまずは好きなところでプロになることを目指したほうがいいと思います。
次に誰に読んでほしいかを考えてください。マンガはさまざまな媒体から発表されていますが、おおむね、年齢層、性別、ジャンルや嗜好、マンガを好きな度合い、などで分かれています。例えば20代の女性に向けて描きたいという場合でも、20代の女性を読者に抱えている少年マンガ、少女マンガ、女性マンガ、青年マンガ、TL、BL、百合、4コマやショート、ミステリーやホラー、日常エッセイ、お仕事マンガ、SF、など多種多様な媒体があり、しかもそれぞれのジャンルに複数の媒体があって、さらにはライトな読者が多い媒体とコアな読者が多い媒体とがあったりもします。自分はどんな読者が集まっているところで描きたいか考えてみることも大切です。考えてみるためにも、持ち込む前に一度いろいろな媒体のマンガを読んでみてください。
なぜ最初は好きなところをすすめるかほかにも理由があります。自分も読者のひとりだったのならば、どんな人が読んでいるのか想像がしやすいからです。まったく想像のつかない誰かに向けて描くのはとても難しいことです。ですから、誰に読んでほしいか考えるときは、どんな人が読んでいるのか想像しやすいことを指針にしてみてください。
それでも決められないという方は、複数の媒体に持ち込んでみるのが有効です。1日にいくつかの編集部をはしごすることは、多くの人がやっているので何も問題ありません。それが気まずければコミティアやコミックシティ、京都国際マンガ・アニメフェア(京まふ)などの出張編集部を利用するのがおすすめです。最近は多くの媒体が出張編集部に参加していますので、1日で効率よくたくさんの編集部に持ち込みをすることができます。
持ち込みが苦手という方は、「DAYS NEO」をはじめとした、投稿者と編集者のマッチングサービスを利用することもできます。作品をアップしておけば、さまざまな媒体の編集者が作品を見て感想をつけ、投稿者のほうからよい感想をつけた媒体や編集者を選ぶこともできます。
近年は「東京ネームタンク」さんのように、媒体に縛られない相談先もありますから、よかったら利用してみてください。今はいろいろと選択肢が増えていますね。
念のためですが、持ち込みという道を通らず、作品の投稿を繰り返すという道を通ってデビューすることももちろん可能です。
この流れで、媒体のカラーとマンガ家さんの長所や個性の噛みあわせについても触れておきます。
マンガを描く皆さんにとって、持ち込みはプロデビューへの第一歩であり、持ち込みの場で長所を見つけてもらい、個性を認められたい、と望んでいることと思います。
では持ち込みを見る編集者の側はどうか。多くの編集者がどういう人を望んでいるかというと、自分の所属する媒体で活躍してくれる可能性がある人です。もちろん誰しもマンガ家さんの力になりたい、育てたいとは思っているはずですが、基本的にその対象は、自分の所属する媒体で描いている人、描く可能性の高い人になります。できれば「しょせん会社員だからね」と思わないでください。編集者は皆、所属する媒体を信頼してくれている読者をそれぞれ背負っていて、その人たちへ自分たちが本当にいいと思える作品を届ける責任があるのです。
持ち込みに行ったけれども「長所がわからないです」とか「うちとは個性があわないですね」と言われて、ものすごく落ち込んでしまう人が少なからずいますが、落ち込む必要はありません。あくまでもその編集者が思う、自分の所属する媒体においてすぐ活躍できそうかどうか、という個人的基準にはまらなかっただけで、マンガ家としての才能や素質がどうこうという話ではないのです。
では、長所はどう見つければいいのか。僕は、長所は見つけるものではないと思っています。もし見つけられるとしたら、それは3作以上連載している人だけです。まだほとんど描いた経験がなく、作品数が少ない人たちに、どんな読者にも通用する長所を見出すのなんて無理です。編集者はすでに描かれたものを通してしか判断できないからです。
判断できないのならばどうするのか。僕は長所は決めるものだと思っています。何に決めるか。それは自分が好きでどうしても描きたいものです。誰しも自分がいいと思っているものを長所だと思われたいはずだからです。苦手だったり、描きたくないものだったりを長所と言われたって困るはずです。だから長所は自分の好きなもの、描きたいものに決めましょう。
決めたら、それが長所になるまでがんばるんです。最初は皆、自信がないのでいろいろ描きすぎてしまいます。さまざまな要素が詰まっていると、読むほうは、何が長所かわからなくなるんです。長所を決めることで、それが一番目立つようにしましょう。そして、何度も描きましょう。長所だと決めたものを1作だけで取り替える必要などありません。誰からも長所だと言われるまで何度でも描いていいのです。
ただし、長所を決めるときはできるだけ具体的なものにしてください。できればなんらかの感情表現がいいです。赤面や泣き顔、怒りや冷たさの表現など。あるいはかわいい、カッコいいなど、とにかくパッと見てわかりやすいものがいいです。抽象的なものを長所に決めても、なかなか伝わりにくく、自分でも描いていてうまくなっているかどうかがわかりにくいからです。長所は自分で決め、それが人に伝わるようになり、次第に自分でも本当に長所だと信じられるようになることが大事なのです。
《まとめ》
まずは自分の好きな媒体に持ち込みましょう。憧れの媒体で描くことはやり甲斐につながります。また、読者がイメージしやすく、誰に向けて描くべきか明確にわかるはずです。
本書の推薦コメントをいただきました!
「これは手元にあると心強い…!マンガを描く人の味方になってくれる本です。実際私も今悩んでいた事が解決できました。鈴木さんが担当時代に語ってくれたマンガ話がとても貴重で勉強になったのですが、それがこの本に凝縮されています。オススメです!」
あなしんさん
「マンガ制作の本は絵やコマ割りを学ぶものが多く、話作りやその他の悩みに答えてくれるものは少ないと思います。マンガ制作にとても大切な多角度から見れる目が増えると思います。世の中にステキなマンガが増えたら嬉しいです。」
森下suuさん
「『うんうん!』と大きく頷き同意する部分や、『なるほど、こういう風な視点で物語を作るサポートをしているんだな』という発見が詰まっています。読めばきっと一段階レベルアップしたマンガが描ける、そんな本だと思います!」
やまもり三香さん
「すべての創作活動をする人に読んでほしい。マンガを描く悩みに真摯に応えてくれる本です。デビュー前の方から歴戦のプロの先生まで、編集しーげるさんの極意がここにあります!」
ろびこさん
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