第四章:キャラクター
『トッツィー』が大ヒットを飛ばしたのは、ダスティン・ホフマン演じるメイン・キャラクターが女装したからである。正解だと思いますか? 答えはノーだ。あのキャラクターを可笑しくしているもの、そしてストーリー全体を機能させているものは、さまざまなキャラクターたちからなるウェブ(網目)であり、このウェブが主人公である彼を定義し、おかしな存在であることを可能にしているのだ。女装した見掛け倒しのダスティン・ホフマンの表面下にあるものに目を向けてみると、このストーリーに登場するそれぞれのキャラクターが、この主人公の中核にある道徳的問題点(男性による女性の接し方)を、それぞれのバージョンで体現していることが分かってくる。
すっかり間違えた方法でキャラクターを扱っているライターは驚くほど多い。主人公の弱点をすべてリストアップすることから始め、その人物のストーリーを語り、その上で、最終的にこの人物を変えようと試みている。しかしどんなに頑張って試みたところで、この方法は機能しない。
私たちはそれとは違うプロセスで進んでいこうと思う。この方がずっと役立つと身をもって感じられるはずだ。このプロセスは次の数ステップで成り立っている。
1:最初に主人公に集中して取り組むのではなく、蜘蛛の巣のように連結するキャラクター・ウェブを成り立たせているキャラクター全員に目を向けるところから始める。ストーリー・ファンクション(ストーリーにおける役割)と元型に従いながら、それぞれのキャラクターを他のキャラクターと比較して、全キャラクターを分類してゆく。
2:次いで、テーマや対立関係をベースに、各キャラクターに特色をあたえてゆく。
3:その上でようやく主人公に集中し、主人公を一歩ずつ「構築」して、観客が心から気づかえるような、深みと複雑さを持った人物像を作り上げる。
4:ライバルを詳細に作り上げる。ライバルは主人公に次いで重要なキャラクターであり、さまざまな意味で、主人公を定義するためのカギとなるものだ。
5:最後に、ストーリー全体を通しての葛藤・対立を構築するため、キャラクター作りの手法全体をいま一度おさらいする。
キャラクター・ウェブ
キャラクターを作り上げるときに犯しがちな最大のミスは、主人公とその他すべてのキャラクターを別々に考えてしまうことだ。そうすると主人公は孤立し、他者たちと分離した状態になる。その結果、主人公の人間像が弱くなるだけでなく、それ以外のキャラクターに至っては、主人公以上に弱い、型どおりのライバルや主人公を鏡映しにしただけの人物像ができあがってしまう。
この大きなミスを犯すと、ハイ・コンセプトのプレミスが更に強調されてしまうだけに、執筆時にさらに悪化してゆくことになる。ハイ・コンセプトのプレミスを持つストーリーは、主人公だけが唯一の大切な人物のように見えるものだ。しかし皮肉なことに、主人公だけに強烈なスポットライトを浴びせてしまうと、主人公自体を明確に定義することができず、むしろ単調なマーケティング用のツールのようにしか見えなくなるのだ。
素晴らしいキャラクターを生み出したいのなら、ストーリーに登場するキャラクター全員がキャラクター・ウェブを形成しているように考え、それぞれのキャラクターが他のキャラクターを定義するのに役立っているという発想から入ろう。別の言い方をするなら、キャラクターというものは、本人以外の人物から定義されるものである、ということだ。
☑主人公を初めとするキャラクター全員を作り上げるための最重要ステップは、お互いを結びつけて比較することである。
書き手は、各キャラクターと主人公を比較するたびに、主人公について新たな形で定義することが強いられることになるだろう。また、二次的キャラクターについても1人の人間として扱えるようになり、主人公と同じくらい複雑で価値ある存在として見ることができるようになる。
すべてのキャラクターは、主に次の四つの形で、お互いと結びつき、定義し合っている。ストーリー・ファンクション、元型、テーマ、対立だ。
ストーリー・ファンクション(ストーリーへの役割)を基礎にしたキャラクター・ウェブ
すべてのキャラクターが、設定原則(チャプター2 プレミス参照)に内在するストーリーの意図に貢献するものでなければならない。各キャラクターは、ストーリーの意図を満たすため役立つよう設定されたそれぞれの役割や機能を持っているのだ。舞台演出家のピーター・ブルックが役者たちに向けて語ったある言葉は、キャラクター創作時のライターにも当てはまる助言だと思うので、以下に抜粋しておくことにする。
「(ブレヒトは)すべての役者は戯曲の前進に貢献しなければならないと言っています……。(役者が)自分自身のことを作品全体との関係性を軸に捉えられるようになると、行き過ぎた役作り(取るに足りないディテール作り)がいかに作品への妨げとなるか、そして行き過ぎた役作りによって不必要な特徴を持ちすぎることで、役者本人への妨げとなり、役者自身の見た目や魅力までも損ないかねないという事実が分かってくるはずです」。(*1)
観客は主人公がどのようにして変わってゆくのかということに最も強い興味を持っているとは言え、主人公を含んだすべてのキャラクターがひとつのチームとしてそれぞれの役割を果たさなければ、主人公の変化を見せることは不可能なのだ。
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