はじめに
突然ですが、みなさんは現代アートについてどのようなイメージをお持ちですか? 何が描いてあるかわからない抽象画や難解なコンセプトの作品、そして専門用語が飛び交う解説文などから、敷居の高いイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。
確かに現代アートには、美術史や社会情勢とのつながりを読み取って初めてその意味が理解できるものも少なくありません。その一方で、子どもたちに人気のある作品も数多くあります。最近では作品の中に入ることができたり、電子テクノロジーなどを通じて鑑賞者の行動を作品にリアルタイムで反映する参加型の作品も増えました。直感的に作品を体感できるという特徴が子どもたちの心を掴むのでしょう。
このように、現代アートは高度な知的ゲームであるとともに、今までにない形で私たちの五感を楽しませてくれるエンターテインメントでもあります。こうした現代アートのめくるめく世界を、イラストや漫画を使ってもっと身近に、もっと楽しく伝えることはできないだろうか? そんな思いから、この本の執筆は始まりました。
本書は主に1950年代以降の動向にスポットをあてています。
前半では、戦後から現在に至るまで活躍している作家を中心として40名を選出し、代表作品の紹介や重要な動向について解説しています。また作品だけではなく作家の肖像や特徴的な発言を組み合わせることで、作品の読解により深みを与えることをねらいとしました。
後半では、現代アートを知る上で必須となる38のキーワードを解説します。様々な動向や表現手法、美術をめぐる制度について、各々の概要や関連作品などを知ることができます。
さらに付録として4つのコラムを設けました。それぞれ20世紀美術史の概観や、現代アートの手引きとなる本の紹介、そしてアートをめぐるお金の話をトピックとして取りあげています。コラムを参照することで、よりマクロな視点から作家やキーワードを捉える手がかりとしてください。
本書に掲載している作品のイメージは、全て筆者の理解に基づくイラストレーションです(ただしトレースやコピーは一切していません)。本物の作品が持つ輝くばかりのパワーにはもちろん及びませんし、実物の写真がないことで物足りなさを感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし昨今のアートでは、たとえばパフォーマンスや映像、鑑賞者の参加が求められる作品など、一枚の記録写真からでは理解することの難しいスタイルが生み出されています。そこで本書ではこうした多様なスタイルの作品を、イラストならではの特性を活かして多面的に見せたり、図解したりすることで解説しています。また筆者オリジナルの二人のキャラクターに登場してもらい、作品を疑似的に体験してもらうことで、読者の方々により深く作品を理解していただけるよう工夫しています。
本書は現代アートをあまり見たことがない方から、知ってはいるけれども難しくて分からないと思ってしまった方、さらには新しい角度から現代アートを見直したい方まで、幅広い層に向けられたものです。イラストを見て興味をひかれましたら、ぜひ本物に触れる機会を持っていただけますと、筆者としてこのうえなく嬉しく思います。
最後に、ガイド役となってくれる二人のキャラクターを紹介しましょう。四角い頭でズボンをはいているのがキュブくん、丸い頭でリボンをつけているのがドットちゃんです。二人の年齢は、10代半ばくらいでしょうか。それぞれ現代アートの世界に興味を持ち、将来の夢に向かって勉強を始めたばかりです。
キュブくんは一流アーティストになるという大きな夢のもと、作品制作の参考にするため、いろいろな作品を見て回ることに夢中です。
ドットちゃんの目標は、展覧会を企画するキュレーターとなって、様々な作品の魅力を世に伝えることです。
作品を見て驚いたり感動したり、時には作品の一部となるこの二人と一緒に、めくるめく現代アートの世界を味わってください。