ためし読み

『アニメーターが教える線画デザインの教科書』

0–01 「絵がうまい」ってどういうことだろう?

»絵がうまくならない理由

絵をうまく描きたい!と人は思うものです。でも、なかなか絵はうまくなりません。なぜでしょう? それには理由があります。図1を見てください。これは自分が高校生の頃に描いたものです。

図1 リクノが高校生だった頃の描き方

①とりあえず輪郭を描きます。この輪郭で可愛いか可愛くないかが決まると思っていました。
②輪郭ができたら目を描きます。
③髪や口を描いていきます。
④顔が出来上がったので次は首でしょう。ここらへんかな。
⑤首ができたから、ついでに体を描いてみます。
⑥手って難しいですよね。なので背中側で組ませましょう。
⑦できた! けどなんかテレビで見る感じにはならないな……そうだ、模様や影の細かさが足りないんだな……どんどん描き込んでいこう。おっ? なんかそれらしくなってきたぞ。オレうまいじゃん、プロっぽくね? これ消すのもったいないなー、切り取って保存しておこう(⑧)!

……この方法では全然うまくならないんですね。基本的に自分の中の情報のみで描いていますから、何回描いても同じ絵になってしまいます。「顔や手など、描けないもの、描きたくないものをたくさん描こうとしていない」、「資料を見るなどして、新しい情報を自分の中に入れようとしていない」、そうした理由が絵をうまく描けない原因なのです。

»絵のうまさは情報量の多さで決まる

うまい絵とは、情報量の多さを意味します。情報量を増やすには、「絵についてどこまで知っているか?」が鍵になってきます。図1の絵は情報量が圧倒的に少ないんですね。だからうまい絵にはならないのです。言葉ではピンとこないと思うのでAの絵を見てください。

今の自分が、図1の⑦を描くと、Aの絵になります。線の多さでは図1の⑦とあまり変わらないように思えますが、立体的情報量──骨格、パース、レンズ、しわ、影──が異なります。ラフに描いていますが、情報量はAの方が多いのです。 図1を描いた頃より今の方が「絵について知っている量」が多いということですね。

では、その情報量というのを分解してみます。

B まず土台づくり

この段階で骨格のデッサンなどが決まってしまいますので、この土台作りが大変重要! これが崩れると、その後は図1の絵のように、どんなに細かく描いても変な絵になります。

C パースを組み込む

これによって立体感を出します。Cの絵のラインは2本の線で立体の方向性を示しています。これに沿って服を描くと説得力が出ます。腕輪の模様や包帯の巻き方などの描き方でも表現できます。

D、E、F 個々のパーツのディテールを覚える



土台ができたらそこに目や口などを貼り付けていけばよいのですが、余裕があればそのパーツにも個々にいろいろと細かい決まりがあるのでそれも覚えましょう。

»個々のパーツの情報量をコントロールする

では次に、どのように「個々のパーツ」を配置するか、またそれらの情報量をどう理解しておくべきかを整理しましょう。

土台にパーツを貼り付ける


できあがった土台にパーツを貼り付けるのですが、その貼り付け方にもコツがあり、⑨のように平面的に貼ると、どんなに個々のパーツがよくてもぺたっとした絵になります。⑩のように、奥の目は若干小さく、口も回り込むように、髪も丸い頭にかぶせたみたいに貼り付けるようにしましょう。

貼り付けるパーツにも立体感、情報量

個々のパーツにも方向性や立体性を持たせて貼り付けられるようになると、より絵がよくなります。 ⑪のように、横に向いた目、横に向いた口、さらに余裕があればその状態の、影、歯、舌、目ならまぶたの立体感、目の構造、まつげ、眉毛の形などを覚えるとよいでしょう。

⑫は大げさに描きましたが、横を向いたときはすべてのパーツも横を向くように描くとよいでしょう(あおった構図の目とか鼻とかを覚える)。


⑬のように立体的にできた土台が簡単に描けるようになってきたら、そこに着せる服の情報を覚えましょう(⑭)。しわや影などの質感、髪の毛のハイライトや影も、立体感を向上させます。

まとめ
土台づくりを覚える → 個々のパーツを覚える

初心者は、おそらく土台づくりをすっ飛ばして、好きな個々のパーツを先に覚えてしまうのだと思います。その覚えているパーツは将来的に土台に貼り付けるときに大事ですから忘れずに。そして、そのパーツを生かすためにも、まずは安定感のある土台をつくれるようにするとよいでしょう。

0–02 「絵が固い」ってどういうことだろう?

»絵をやわらかくするために

よく、学校や現場で「絵が固いね」、「ポーズが固いね」などという表現が使われることがあります。それぞれニュアンスの言葉ですが、何かのパラメーターが足りない事実を示しています。が、それ以上はおそらく先生も先輩も教えてくれないでしょう。プロは基本的に絵の教え方は勉強していませんし、文章で伝えるのは難しいものです。ここでは「絵が固い」ことの意味を考えてみましょう。

線の多さ=情報量の多さではない

①の絵はどうすればもっとやわらかい絵になるのでしょうか? 何が足りないか考えてみましょう。まず情報量が不足しています。一見すると線が多いように感じますが、線の多さの情報量ではなく、立体的情報量が足りないのです。

個々のパーツの方向性を意識する
①の絵は、パーツの方向がすべて同じです。顔、胴、腰、胸、腹、これらが同じ方向で並んでいます。そのため、線は多くても「固い」印象を見る側に与えてしまうのです。すべてのパーツの長さのバランスが描ける余裕がでてきたら、それを今度は方向をすべて変えて描いてみましょう。それも、右、左、正面、という2次元的な方向ではなくて、「胴体は斜め正面左下」といような、立体的な方向を表現するように意識してみましょう。

立体的情報量を増やす

余裕ができれば、Aの絵のようにそれぞれのパーツの連動の意味、骨格も考えながら描いてみましょう。お尻は右下手前に向かっているのに首は左上手前の方に出してみたり、顔は右下正面に傾けたり……。もうすでに難しい!と思われるかもしれません。が、大丈夫。まずはゆっくり読んで理解しようとすることが大事です。

では、次項でここまでのポイントをまとめてみましょう。

まとめ
①各パーツの長さの比率を確認する。
②それなりのデッサンをする。
③それぞれのパーツの方向を3次元空間に配置(土台づくり)。
④ここで骨格バランス、運動、重心を考える(土台をコネコネ)。
⑤アイレベルを決め、パース背景の下準備キャラと背景の連動調節。
⑥服、しわ、髪、影、表情を描き込む。これも3次元空間に当て込む。
⑦背景色は後付けで作成。

情報の設計図が情報量を左右する

Bの絵を見てください。前項の①の絵より、情報量がかなり増えています。この情報量の多さこそ、「固い絵」と「やわらかい絵」をわけるポイントです。パースやアイレベルは後から設定しましょう。先に決めてしまうとそれに縛られてしまいますし、やはり絵はキャラありきなので、キャラ優先でレイアウトを決めるのがよいでしょう。
描けるようになると上記「まとめ」の工程を無意識のうちにできるようになります。うまい人というのは、上の工程を無意識にやれる人です。
自分はやはり一発では描けないので、前項Aの絵のようなラフを描きます。ラフは情報の設計図、これから描いていく方向性を決める計画図のようなものです。それに紙を重ねて清書します。この段階でさらに画面をつめます。つまり、自分の場合は上記の工程を2回に分けて行っているわけです。場合によってはかなり下書きを描く必要性が出てきます。

絵師の上達は「足し算」
前項①の絵と比べると、ストーリー性、キャラ性、ポーズの重心や体の柔らかさ、服の質感、カメラの位置、背景、影、もろもろの情報量が増えているのがわかると思います。左右の目を顔に乗せることができるようになってきたら、今度は目も左右に曲げてみるとか、いろいろな要素を追加できます。ちなみに自分がBの絵にもう一枚紙を足して清書するとしたら、髪の毛の先端の処理、指の爪とその影、まつげ、鼻の穴、唇の影、耳、質感などを詰めていきます。
絵の上達は足し算に似ています。最初の工程ができるようになれば、次の工程、さらにその次へ、という感じです。最初の方の工程が簡単にできるようにならなければ、次の工程に挑戦している余裕が生まれないので、なかなか上達はしづらいです。繰り返しになりますが、うまい絵とは情報量の多さです。線の多さではありません。それは、突き詰めれば絵について、描くことについて、どれだけ知っているかの勝負でもあります。本書を通じて、たくさんのことを覚え、知り、体験していきましょう!

(この続きは本編でお楽しみ下さい)
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アニメーターが教える線画デザインの教科書

リクノ=著
発売日 : 2015年6月3日
2,600円+税
B5判・並製 | 384頁 | 978-4-8459-1557-6
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アニメーターが教える線画デザインの教科書2

キャラクター創造編

リクノ=著
発売日 : 2016年2月27日
1,900円+税
B5判・並製 | 208頁 | 978-4-8459-1581-1
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