ためし読み

『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』

Chapter1 どんな映画なの?

誰にだってこんな経験がある……。

土曜の晩。

友達と映画でも見に行かないかってことになり……。

新聞の映画欄を見て公開中の映画を誰かが紹介し、その説明を聞いてどれを観るかみんなで決めるという状況。もし君が本気で脚本家になりたいんだったら、これは大切な教訓を学ぶ願ってもないチャンスだ。

しかも君が映画の紹介をして、みんなを納得させる側だったら、それはラッキーだ。だって自分の映画を〈売りこむ〉経験をしたのだから――プロと同じように。そしておそらくこんな問題にぶつかっただろう――これまたプロと同じように。「この映画はジョージ・クルーニーが主演だし、この映画はジョージ・クルーニーが主演だし、SFXもすごい。しかも、あの有名な映画評論家のロジャー・エバート&リチャード・ロイパーのお薦めなんだ」って力説したら……

でも、どんな映画なの?

って質問が返ってきた。う~ん。この質問に答えられなかったら、どうしたらいいのだろう? ポスターやタイトルを見ただけで、どんな映画かわからなかったら、いったいどう説明したらいいのか? 仕方がないから、映画の本質とはかけ離れたことを話すしかなくなる。どこかで聞きかじったことや「ピープル」誌に書いてあったこと。「レイト・ナイト・ウィズ・デイヴィッド・レターマン」[アメリカCBSで放映されている深夜のトーク・ショー番組]で有名人が話していた曖昧なストーリー。そんないい加減な説明をしていると、友達はやがて言いだすだろう。映画監督が何よりも恐れているあのひと言を。「で、他にどんな映画やってるの?」って。 ああ。それもこれもあの単純な質問――「どんな映画なの?」――に答えられなかったせいだ。

「どんな映画なの?」こそ、勝負を握る鍵なのだ。「どんな映画なの?」こそが映画のすべてを語る。「どんな映画なの?」にうまく答えられるかどうかにすべてはかかっているのだ。

さあ、ここで次のシーンにカットだ。

屋内/ハリウッド/月曜日の朝
新しい週の始まり。先週末の興行収入の結果が出ている。「ヴァラエティ」誌[米国エンターテインメント産業の業界誌、演劇や映画の批評を主に掲載]には、散々たる結果になった映画がさらし首のように並べられている。また逆に、予想外のヒットを飛ばした映画の監督たちは、ひっきりなしにかかる電話に大忙しだ。「ほらみろ。売れると思った! 言っただろう!」そして今週もまた、いつもと同じことが繰り返されるのだ。

〇プロデューサーや脚本家は、映画会社の重役室で自分の〈素晴らしいアイデア〉を必死に売り込む。

〇エージェントは、担当する脚本家が書いた脚本のなかから、週末に読んで気に入った作品を電話で説明する。

〇映画会社の重役は、この夏公開する映画のポスターについて宣伝部の連中と話し合う。

ハリウッドのいたるところで、誰もが――売る側も買う側も――必死にあの質問に答えようとしているのだ。土曜の晩、君が友達に聞かれたのと同じ質問――「どんな映画なの?」に。

もし答えられなかったら……それで終わりなのだ。

冷たいじゃないか! と思うかもしれない。でもハリウッドというところは、〈ストーリー〉だって、映画監督の芸術性だって気になんかしていない。本当だ。君は新聞の映画欄からどの映画を見ようか悩んだだけだが、現実には競争相手は映画だけじゃない。観客の注意を引くための戦いは熾烈なのだ。

そう、選択肢はテレビ、ラジオ、インターネット、それに音楽だってある。ケーブルテレビになればチャンネル数は300もあるし、雑誌だってスポーツだってある。だから現実問題として、週末に見る映画を決めるのにかける時間なんて、かなりの映画ファンでもせいぜい30秒くらい。たいして映画好きでもなければ、言わずと知れたことだ。これほど多くの選択肢が存在するなかで、どうしたら観客の注意を引けるのか?

とにかく選択肢が多すぎる!

だから映画会社は、観客がなるべく楽に選択できるようにする。ヒット作の続編やリメイクが作られるのが多いのはそういう理由なのだ。これらは〈一回売ってあるフランチャイズ映画〉と呼ばれている。おそらく今後もこの手の作品が増えてくるはずだ。

一回売ってあるフランチャイズ映画とは、相当数の観客にすでに〈売ったことのある作品〉で、観客はあらかじめ内容を知っているので、〈どんな映画なの?〉という説明を省略できる。たとえば最近では、『スタスキー&ハッチ』(04、テレビ番組がオリジナル)、『ハルク』(03、コミック誌がオリジナル)、『バイオハザード』(02、テレビゲームがオリジナル)などがあり、それぞれ映画化される前からすでに一定のファンがついている。またヒット作の続編も相変わらず多く製作されている。『シュレック2』(04)、『スパイダーマン2』(04)、『ミッション・インポッシブル3』(06)、『オーシャンズ12』(04)等々。これはハリウッドに才能のある脚本家がいなくなったということじゃない。土曜の晩に映画を観に来る観客は別に新しい作品など求めていない、と映画会社の重役たちが思っているからだ。何の予備知識もない作品か、一応見当のつく作品かを選んで観るとしたら、どちらに10ドル払うか? まあ普通、観客は危険な賭けはしないだろう?

っていうのが重役たちの言い分だ。たしかに一理あるかもしれない。「どんな映画なの?」と聞かれて答えられないような危なっかしい作品に、リスクを冒してまで10ドル払うわけがない。

私たちのように競売用の脚本を書く脚本家スペック・スクリーンライター[あらかじめ映画会社と契約を結ばずに脚本を執筆する脚本家のこと。できあがった脚本は競売などで売買され、かなりの高額で競り落とされることもある]にとって問題なのは、〈一回売ってあるフランチャイズ映画〉がないことだ。私たちにあるのは、一台のパソコンと夢だけ。じゃあどうやったら『アラビアのロレンス』(62)のように質が高く、しかも『スパイキッズ3-D:ゲームオーバー』(03)のように売れる脚本が書けるんだろう? 大丈夫、方法はある。それにはまず、このことを試してほしい。とりあえず今書いている脚本のことはすべて忘れてくれ。想像力を駆り立てるカッコいいシーンや音楽、もしかしたら出演してくれそうな映画スター、そういったものを全部忘れてほしい。

そして一行の文を書くことに集中してほしい。わずか一行だ。

「どんな映画なの?」の質問に、もしも一行ですばやく、簡潔に、独創的に答えられたら、相手は必ず関心を持つ。しかも脚本を書き始める前にその一行が書ければ、脚本のストーリー自体もよくなってくるのである。

最高のログライン

私はこれまで数多くの脚本家と話をしてきたが、プロでも素人でも、脚本を売りたいと言ってきたときには、ストーリーを聞く前にまずこの質問をする。「一行で言うワンラインとどんな映画?」。不思議なことに、脚本家というのは脚本を書き終えた後でこれを考えることが多い。お気に入りのシーンにほれ込んだり、『2001年宇宙の旅』(68)のモチーフを取り入れるのに夢中になったり、ディテールにこだわりすぎたりして、単純だが肝心なことを忘れてしまう。つまり、どんな映画なのかひと言で説明できないのである。10分以内でストーリーの核心部を説明できないのだ。

いやあ、まずいよ、それは!

そうなると、私はもう話を聞きたくなくなる。

なぜなら、それは脚本家が本気で考え抜いていない証拠だからだ。優秀な脚本家だったら、映画に携わる関係者すべてを頭に入れて考えるのが当然だ。エージェント、プロデューサー、映画会社の重役、そして観客に至るまで、すべてを考慮に入れなきゃいけない。あらゆる所に自分で出向いて脚本を売るなんて、現実的には不可能な話だ。だったら自分がいない場所でも、赤の他人をワクワクさせて、脚本を読んでもらうにはどうしたらいいか? それが脚本家の最初にすべき仕事なのだ。脚本の内容を一行で簡潔に説明できないなら、ごめん、そういつまでも話は聞いていられない(私の関心はもう次の脚本へ移ってしまうだろう)。一行で読者の心をつかめないような脚本家のストーリーなんて、聞くまでもないからだ。

この一行は、ハリウッドでログライン(もしくはワンライン)と呼ばれている。ログラインの出来の良し悪しを判断するのは簡単だ。たとえば、実際に売れたログラインを読んだとき、「何で俺はこれを思いつかなかったんだろう!? 何で俺はこれを思いつかなかったんだろう!? うーん、やるなあ」と思うもの……これは良いログラインだ。最近売れたログラインのなかから、嫉妬すら感じたものをいくつか紹介しよう(www.hollywoodlitsales.com)。どれも私の得意ジャンルであるファミリー向けコメディーだが、これらにはジャンルを超えて学べることがたくさんある。しかもどれも10万ドル~100万ドルの値がついた脚本である。

新婚ホヤホヤのカップルが、離婚した親(計四人)のもとでクリスマスを過ごすことに……。
――『フォー・クリスマス』(08・未・DVDのみ)入社したての新入社員が週末に会社の研修に行くが、なぜか命を狙われる。
――『TheRetreat』超安全志向の教師が理想の美女と結婚することになるが、その前に将来の義理の兄(警官)と最悪の相乗りをする羽目になる!!
――『RideAlong』
[注]〈最悪の〉という言葉がつくものは、基本的にコメディーである。

これらのログラインにはすべて共通項がある。「どんな映画なの?」という質問に明確に答えているだけでなく、確実に売れる要素の4つが含まれているのだ。

いったい4つの要素とは何なのか? では一緒に見てみることにしよう…最高のログラインとは何かを!!

(略)

皮肉
皮肉が存在し、気持ちが動かされるか――どうしても痒くて掻かずにはいられないような、感情をゆすぶられる劇的な状況はあるか。

イメージの広がり
ログラインを聞いたときに、心のなかにパッと魅力的なイメージが浮かぶだろうか。映画の時間の長さをはじめ、映画全体がなんとなく想像できるだろうか?

観客層と製作費
脚本のバイヤーが利益を予想できるよう、作品の雰囲気、ターゲット層、製作費などが示されているか?

パンチの効いたタイトル
ログラインのパンチを強めるには、絶妙なタイトルが必要だ。「どんな映画なの?」が明確に、効果的に表れているタイトルがなくてはならない。 これらが、いわゆる〈ハイ・コンセプト〉映画――観客に広くアピールする映画――を構成する要素である。現実には、ハイ・コンセプトはますます重要になってきているのだ。なぜなら最近の映画は、国内だけでなく海外でも売らなきゃいけないからだ。国内の興行収入が全体の60%を占めていた昔に比べ、いまやその割合は40%である。つまり国内だけでなく海外でも理解され、売れる作品が必要とされている――市場の半分以上が国外なのだから。だからハイ・コンセプトという言葉自体は時代遅れになっていたとしても、現実にハリウッドが求めているのはハイ・コンセプトな作品なのである。ここをよく理解して、ハイ・コンセプトなアイデアを簡潔に魅力的に表現する方法を身につけよう。

最後に、君のアイデアは観客にとって本当に魅力的なのだろうか? それにはパソコンの前から離れて、他人に話して反応を試そう。反応によって修正すべきところは修正する。他人から得られる意見や情報がどれだけ貴重か……肝に銘じておいたほうがいい。

 

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SAVE THE CATの法則

本当に売れる脚本術

ブレイク・スナイダー=著
菊池淳子=訳
発売日 : 2010年10月22日
2,200円+税
A5判・並製 | 264頁 | 978-4-8459-1056-4
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