11月に刊行された『スクリーンのなかの障害 わかりあうことが隠すもの』は、「共生言説」や「当事者キャスティング」といった現在的なトピックを扱うだけでなく、「映画は障害をどのように描いてきたのか」という問いをめぐって、サイレント映画から近年の話題作までを通史的にたどる内容になっています。
そこで、著者の塙幸枝さんに、映画と障害の関係を考える上で観ておきたい劇映画を9作品、紹介いただきました。いずれも本書で取り上げた作品で、本のなかでは「障害を描いた作品に、似たような物語のパターンが多いのはなぜか?」「障害者の役は障害当事者しか演じてはいけないのか?」といった問いにも触れていますので、ぜひ鑑賞のヒントにしてみてください。
※いずれも配信サービスで視聴できる作品です(2024年1月14日時点)。作品名をクリックすると配信サービスのページへ遷移します。
1.『フリークス』(1932年製作、トッド・ブラウニング監督)
作品にはじっさいのフリークスたちが登場しますが、見世物小屋におけるそれと同様、フリークスたちの身体は人々の興味を惹きつけるものであったといえます。障害という概念が誕生する以前の社会、すなわち、障害が平気で見世物とされていた社会では、障害者が恐怖をかきたてる存在としてまなざされてきたことがわかります。障害表象を通時的な次元から捉えるための入口となる一作です。
2.『エレファント・マン』(1980年製作、デヴィッド・リンチ監督)
「見世物」から「患者」に転じる主人公メリックの姿をつうじて、スクリーンのなかの障害者が「保護される存在」へと移行してきた過程を読みとることができます。医療は障害者を守る盾にもなりますが、それは同時に、障害者を「無力な存在」へと囲い込む可能性をもつこともみえてきます。
3.『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年製作、ロバート・ゼメキス監督)
知的障害ゆえに「無力な存在」とみなされていた主人公フォレストは、その特性を運動能力や反復作業能力として発揮することで「特別な存在」へと転じていきます。このように障害をある種の「能力」として描く作品は数多く存在しますが、その「能力」があくまで社会的な有用性に準じたものであることには注意が必要です。
4.『ワンダー 君は太陽』(2017年製作、スティーブン・チョボウスキー監督)
多くの映画が障害を「障害者個人に帰属する問題」として描いてきたなかで、この作品では障害が「社会的に生じる問題」として捉えられています。主人公オギーの外見に向けられた「醜い」という異質性が、周囲の人々の視線によって生み出されたものであることに気づかされる過程は、社会の「ふつう」を問う態度にもつうじます。
5.『リンガー!替え玉★選手権』(2005年製作、バリー・W・ブラウスタイン監督)
コメディや笑いの視点から障害というテーマを描くことで、既存の障害者イメージに揺さぶりをかける特異な作品です。スペシャル・オリンピックスを舞台に、健常者社会とは異なるルールのありかたが照らされることで、「メインストリームとは何か」ということを考え直すきっかけが与えられています。
6.『岬の兄妹』(2018年製作、片山慎三監督)
貧困や性といった問題とも連関しながら、障害がさまざまな社会構造のなかで浮上するものであることに目を向けた作品といえます。多くの障害映画が「わかりあい」や「つうじあい」のストーリーを好んできたのに対して、この作品では「コミュニケーションの困難さ」や「差別/被差別の不確定性」が焦点とされており、映画をつうじて障害を「理解する」ことの意味を考えさせられます。
7.『コーダ あいのうた』(2021年製作、シアン・ヘダー監督)
コーダである主人公ルビーの葛藤をつうじて、ろう者と聴者の不均衡な関係を明るみに出す作品です。ろう者の俳優をキャスティングした点でも、従来の障害表象のありかたを見直すきっかけになります。作品の根底に流れる共生への意識に、映画と障害の現在的な関係をはかる手がかりを見出すこともできます。
8.『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』(2019年製作、ダリウス・マーダー監督)
アイデンティティという観点を交えながら、中途失聴になった主人公ルーベンの心情を丁寧に描いています。とくに「聞こえること/聞こえにくいこと/聞こえないこと」をめぐる聴覚の再現にはさまざまな工夫が凝らされており、ストーリー展開だけでなく、映像や音響の演出という点から障害を考えるためにも有用な視点が含まれています。
9.『ケイコ 目を澄ませて』(2022年製作、三宅唱監督)
障害という要素だけを過度に前景化するわけではなく、主人公ケイコの姿を淡々と描くことによって、障害に対する表面的な共感や理解とは別の受けとめをもたらしています。聴覚障害を扱う作品でありながら、「聞こえないこと」を安易に疑似体験させる演出が回避されている点からも、観客がスクリーンのなかの障害と向き合う態度が問われているように感じます。
※『スクリーンのなかの障害』では他にも様々な作品を論じています。ぜひ、本書とあわせてお楽しみください。
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スクリーンのなかの障害
わかりあうことが隠すもの
塙幸枝
映画はどのように障害を描いてきたのか――
歴史、物語のパターン、再現による同一化、当事者性⋯⋯
様々な角度から映画と障害のつながりを解きほぐす。
三宅唱、田中みゆき推薦。
「スクリーンのなかで障害がいかに描かれてきたのか、また、より今日的な映画作品のなかで障害がいかに描かれるようになったのか」を論じる本書では、「共生言説」や「当事者キャスティング」といった現在的なトピックを扱うだけでなく、サイレント時代から現代まで「映画における障害者イメージの変遷」をたどり、「スクリーンのなかの障害」の歴史が通時的につづられる。そして、その「障害者イメージの変遷」の土台となる「社会における障害観の変化」がどのように起こったのかを「障害学」の基礎とともに提示していく。