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プロが選ぶオススメの演技指南書3冊 演技コーチ・鍬田かおる選


舞台に立ったことがある方なら、誰しも「演技が上手くなりたい」と思いますよね。そのためには、演技コーチから直接指導を受ける以外にも、指南書を読むことで、ひとりでもできるエクササイズを行ったり、演技の心構えを確認したりすることができます。書店に行けば、さまざまな著者による指南書が並んでいますが、どれを読めばよいのか分からないという方も多いのではないでしょうか。そこで本ページでは、プロの演技コーチの方に「オススメの演技指南書」を3冊選んでいただきました。
選者は演技コーチの鍬田かおるさんです。鍬田さんは演劇歴40年以上で、数多くの方の演技指導をされてきました。さまざまな指南書を読んでこられた鍬田さんに、その中でも特にオススメする演技指南書を教えていただきました。


「この役をどうやって演じよう」――そんなマジメな質問が「クサい演技」のモト!

「演技であることも忘れて、本人が喜んだり泣いたり笑ったりしているかのように」すっかり引き込まれてしまった時と、「なんかワザとらしい」とつい斜めに構えてしまった時の演技の違い。「この役をどうやって演じたらいいんだろう?」「もし自分だったら……と考えてみたけど行き詰まる」「『気持ちが足りない』と言われるがどうしたらいいのかわからない」のような切実なお悩みを解決する糸口になる3冊を、ご紹介します。

 

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[役を生きる]演技レッスン
リスペクト・フォー・アクティング
ウタ・ハーゲン=著
フィルムアート社

想像の世界を、具体的に、作品のために、どう扱っていけばよいのか丁寧に指南してくれる名著。
「俳優の演技には、誰もが茶々を入れたがる」と昨今の風潮も辛辣に斬り捨てる。まさしく「本質に着眼する」ための入口です。私の演技指導の恩師の一人がアシスタントを勤めていたこともあり、一つ一つの言葉が響くウタ・ハーゲン先生の叱咤激励の数々は「いつ、どんなふうに感情を出そうか」とついシミュレーションしてしまう方や、気持ちや情緒に頼って演じているつもりの方が目を覚まして、本物の感覚体験につなげていくのにうってつけです。イントロダクションからうわべの小手先や残念な傾向について痛快な言葉が続きますが、耳が痛くても1行1行刺さっていって欲しい。
プロの準備とよくある間違いがたくさん実例として挙げられているのもウタ・ハーゲンという指導者がいかに具体的であるか、実際の体験に根ざしているかの証。なんとなくではダメだということが、これでもかとわかります。
そしてパート2のエクササイズはまさにバイブル。私の恩師もこれをさらに掘り下げて指導し、多様な俳優の可能性を引き出しています。誤った都市伝説もたくさん指摘されているので、認識を新たにすること間違いなし。私自身もこの演技論を日本で深めるため、戯曲読解やシーンの鉄則を活かす演技クラスで実践しています。
セリフの言い方のハウツーではなく、行動という事実から入っていくから、効果があって、気持ちも動き、さらに影響力が大きくなっていく。自分の可能性を広げていくこと、他者に興味を持って、一緒に作品を創造していく喜び、そのためのヒントが詰まっています。感覚体験を自分で引き起こしていくための具体的な章がうれしい、演じ手であることの喜びを思い出せる――まさに「リスペクト」に満ちた名著です。

ためし読み
イントロダクション


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感情を引き出す小説の技巧
読者と登場人物を結びつける執筆術
ドナルド・マース=著
フィルムアート社

俳優や歌手や演出家も、演技力や表現力アップに応用していける、心を動かす感情への演習問題が傑作揃い!
イギリスの演劇学校で繰り返し指摘される台本の読解力、分析力の重要性、そして複雑でおもしろおかしくもある人間理解へのたゆまぬ努力の一つに、現場の仕事に直結しているからと映画脚本や舞台の上演台本を読んで満足するのではなく、日ごろから小説も定期的にたくさん読むという文化があります。感情が変化し続けること、相反する感情が対になっていること、矛盾する感情が同時にうごめいている可能性、これらを小説を通じて十分に体験していくことができたら、俳優や歌手にとっても自信と飛躍につながるのではないでしょうか。
そして、さらに突き抜けたい実演家たちに必ず読んで欲しいのが、「サブテキスト」についての章です。言葉によって語られていない感情――これを私は心の叫びであったり、腹の底の密かな欲求や願望と表現することもあるのですが、言葉にされない部分の感情であるサブテキストを自分事で体感するには、どうしても物語と感情について学ぶことが欠かせないのです。
感覚の疑似体験及び感情体験を引き起こしていくための方法と手段をここで学ぶことで、人間には何が必要なのか、何が感情に働きかけるのかを自分や役に当てはめて考えていくことができます。

ためし読み
第1章 感情を引き出す技巧


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俳優・創作者のための動作表現類語辞典
マリーナ・カルダロン/マギー・ロイド=ウィリアムズ=著
フィルムアート社

すごく優しくて温かみのある朗らかな人、おっちょこちょいだけど、実は情け深い人……こんなふうに役の人物を捉えていても、なかなか劇の場面で、演技中の行動には結びつきません。ついこういった形容詞や副詞でわかったような気になってしまう方にお勧めなのがこの辞典です。
俳優の仕事は相手に影響を与えること、そして相手や周囲からの影響を受けて、次の行動をして進んでいくことです。いくら日常生活で、所作や態度について研究していても、手持ちの行動=動詞の数が少なかったり、語彙が少なければ、行き詰まります。劇というものが変化でできている以上、行動=動きについてわからなければ、熱心であっても、残念ながら路頭に迷ってしまうというわけです。私自身、以前イギリス人の演出家から、どうして日本の俳優は形容詞で描写するのか、なぜ日本人の俳優は事あるごとに様子を説明してくるのかと質問されて困ったことがあります。
何をする人なのかがわかれば、何と呼ばれているかという「名詞」にも行きつけます。この動詞と名詞から具体的な演技が始まります。演技を考えるとき、役の行動を検証する際に、どんどんこの辞典を引いて、ピンとくるものや意外な組み合わせの妙が生まれそうな動きを選んでいけば、突破口になること間違いなしです。

ためし読み
イントロダクション


鍬田かおる(くわた・かおる)

演劇歴40年以上、延べ1800人以上をみてきた演技コーチ。幼少より演技、ダンス、音楽のトレーニングを受け、桐朋学園芸術短期大学演劇科卒業後、渡英。ロンドン大学ゴールドスミス校舞台芸術科を卒業後、ロンドンのSTAT認定アレクサンダー・テクニークコースを卒業し指導資格を得る。ミュージカル劇団で指導の後、再びロンドンへ。Royal Central School of Speech and Dramaの修士課程初のムーヴメント科第1期生唯一のアジア人で、ムーヴメント指導、演出、教育学、演技指導を修め、古典劇やヴォイスコースや他の演劇学校でも指導経験を重ね卒業し、桐朋学園芸術短期大学演劇科で史上最年少の講師となる他、新国立劇場演劇研修所/同オペラ研修所、劇団青年座研究所等でも20代から講師を務める。
現在、尚美学園大学舞台表現学科講師、English Language Film School Japan 講師。世界最古のアレクサンダー・テクニーク指導者認定機関イギリス・アレクサンダーテクニーク教師協会(STAT)会員、日本演出者協会会員。
世界最大の専門家団体Intimacy Directors &Coordinators認定のインティマシー・ディレクター資格も取得。訳書にF.M.アレクサンダー『自分のつかい方』がある。
https://kaorukuwata.com/

 

フィルムアート社から刊行された演技指南書をこちらにまとめています。
他にもさまざまな書籍がありますのでぜひご一読ください。