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プロが選ぶオススメの物語創作指南書3冊 作家・大滝瓶太選


小説投稿サイトや動画配信プラットフォームが整備され、誰もが自分の物語を発表できる時代。わたしたちは、誰もが「作者」になることができる時代を生きています。しかし、わたしたちの身の回りには、すでに膨大な数の物語(小説、マンガ、映画、ゲーム、アニメなど)が存在しています。どうすれば、人を惹きつける物語を書くことができるのでしょうか。その悩みを解消すべく、これまで数多くの物語創作指南書が刊行されてきました。書店行けば、さまざまな切り口の、そしてさまざまな難易度の指南書が並んでいます。あまりにもその数が多いので、どれを読めばよいのか分からないという方も多いのではないでしょうか。そこで本連載では、さまざまなジャンルで活躍するプロの作家の方々に、各自の視点から「オススメの物語創作指南書」を3冊選んでいただきます。

今回は作家の大滝瓶太さん(@BOhtaki)です。大滝さんはSNSでも創作論について積極的に発言し、過去には「小説がうまくなるにはどうしたら良いか? 小説の書き方がよくわかる本のオススメ5選」という記事を執筆されています。数多くの創作指南書を読破している大滝さんに、その中でも特にオススメする物語創作指南書を発表してもらいました。


「読者」を意識する3つの創作指南書

小説に読者がいるといよいよ認めざるを得なくなったのはここ最近のことだ。

それまでのことは「ルールに縛られたくない」とか「小説の中にいない人間へ配慮しなければならない道理がわからない」とかの反骨精神や生理的嫌悪があったのわけだが、いちばんは「 “表現する”と“伝える”をきちんと考えたかった」というのがしっくりくる。

言語芸術である小説は、言語ほんらいの機能である“伝える”がとりわけ重要になっている。しかしそれは同時に“伝える”ことが大前提におかれたとき、“表現する”ことは“伝える”に従属する構造をとる。つまり言語表現は「“伝える”という目的のための手段」という立ち位置になってしまい、ぼくはそれが嫌だった。

この両者の主従関係を断ち切り、表現を表現として独立に扱えないものだろうか――その試行錯誤を10数年続けた結果、Twitterでスピリチュアルな創作論を声高に叫ぶ怪しい作家になった。要するにトガっていたわけだ。実際、創作指南書のたぐいにはずっと否定的だったし、白状すれば表層的な方法論をありがたがる書き手を本気でバカにしていた。

しかしいまになってそれを改めなければならないと思うようになった。というのも、先の “表現する”と“伝える”の話になるのだが、ぼくはこれまで “表現する”に偏重しすぎていて“伝える”ことが疎かになっていた。当然ながら小説が言語芸術である以上、この両者の片方だけを考えればいいというわけじゃない。そこでこれからしばらくは「読者」を考えてみようと思った。

今回挙げた3冊はいずれも「読者」が強く想定されている。

読者に憐れみを
ヴォネガットが教える「書くことについて」
カート・ヴォネガット&スザンヌ・マッコーネル=著|金原瑞人・石田文子=訳
フィルムアート社

カート・ヴォネガットは優れた書き手であると同時に熱心な文芸創作教師でもあった。本書はそんなヴォネガットの教え子が、彼との交流や彼の遺した文章を引用しながら、ヴォネガットについて「書くこと」とはどういうものだったのかを、ヴォネガット作品を模倣したような構成・文体で書かれている。

この本を読むとヴォネガットは自分のために小説を書いていただけでなく、強い職業意識を持っていたことがわかる。そしてちょくちょくと実用的なアドバイスも出てくるのだが、「どうやって小説を書くか」よりも「どのようにして小説が生まれてくるか」に学ぶべきものは多い。特に書こうと思いつつ22年も『スローターハウス5』を書けなかったというエピソードは特に本質的で、技術的な問題だけでなく「物語との距離」もまた創作に大きな影響を与えていることを実感させてくれる。

また、ヴォネガットは「人生に反応して小説を書くタイプ」だったゆえ、読み手の来歴によっても印象が変わる点でも特殊な本だ。10年ごとに読み返すことになるだろう。

ためし読み
はじめに
第25章 プロット


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本格ミステリ鑑賞術
福井健太=著
東京創元社

小説のなかでもとりわけ読者を強く意識したジャンルは「本格ミステリ」だろう。謎を中心に据えて作者と読者が対峙する競技性の高いフィクションだ。本書は「本格ミステリ」というジャンルのゲームルールや作家がとる基本戦術の分析を先行作品を多く引用しながらつぶさに行なっており、より深くこのジャンルを鑑賞したい読者や実作者に向けて書かれている。ただし、多くの作品の引用を含むため、ネタバレとまっさらな初心者には向かないことには注意が必要だ。

ちなみに「ミステリは自分には書けそうにない」というひとをプロアマ問わず割と多く見てきたのだが、その理由でも特に多かったのが「トリック的なものを思いつける気がしない」だ。トリックはたしかに魅力ではあるものの、それは本格ミステリの魅力の表れかたのひとつにすぎないと本書を読めばわかる。


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恐怖の構造
平山夢明=著
幻冬舎

誰かの手によって書かれる小説がどういう志向を持っているにしても、「娯楽」であるという事実はきっと否定できないだろう。ヴォネガットの言葉を借りれば「読者の時間を無駄にしてはいけない」となるのだが、そのためには読者を最初のページから最後のページまで引っ張っていく力が作品に求められる。この牽引力のなかでも特に強力なのが「謎」と「恐怖」だ。

本書は人気作家・平山夢明が自身のキャリアのなかで培ってきた「恐怖とはどういう現象で、なぜ求められるのか」という問いを平易かつユーモラスな語り口で解説している。著者の地元のヤバいおっさんの話などがおもしろすぎて、気がついたら全部読んでしまっていた。

そしてこんな感じで思わず笑ってしまうのが実は特筆すべきことだとも思う。本書に限らず、平山夢明の仕事は常に恐怖と笑いが切り離せないかたちで顔を出すのだが、本書では実際に笑いと恐怖の関係についても言及がある。またそれだけではなく、恐怖と不安など、「恐怖」という感情が他の感情とどんな関係性を持つかも検討されており、目では見えない動きについての観察が高い解像度で提示されている。


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