ピックアップ

ストーリーの構成を学びたい人におすすめの指南書3冊

物語ストーリーを形づくる要素はひとつではありません。

例えば『工学的ストーリー創作入門(ラリー・ブルックス=著)は、ストーリーの「6つのコア要素」として、[コンセプト・人物・テーマ・構成・シーンの展開・文体]を挙げています。

また『ストーリーの解剖学(ジョン・トゥルービー=著)には、次のように書かれています。

ストーリーはすべからく数多くの部位や下位組織で成り立っており、 それらがお互いにつながり合い、 頼り合っている。 人間の身体が、 神経系、 循環系、 骨格などといった部位や下位組織で成り立っているのと同様に、 ストーリーは、 キャラクター、 プロット、 発見、 ストーリー・ワールド、 道徳論議(テーマ)、 シンボル・ウェブ、 シーン・ウィーヴ、 ダイアローグといった下位組織で成り立っている。
(第一章「ストーリー・スペース、 ストーリー・タイム」より)

「キャラクター」や「セリフ」、「テーマ」などストーリーを構成する要素はさまざまですが、多くの創作指南書が特にページを割いて解説しているのが「ストーリーの構成」です。物語には必ず「はじまり」と「終わり」があります。「どのような順序でストーリーを語るのか」、そして「ストーリーをどのようにはじめ、どのように終わらせるのか」は、物語創作者にとって非常に大事な知識といえます。

日本では古くより「序破急」や「起承転結」など、物語の構成に関するノウハウが蓄積されていますが、ここではハリウッドの映画脚本メソッドとして発達した「三幕構成」を学ぶことができる創作指南書3冊を紹介します。

「三幕構成」の源流にはアリストテレスの『詩学』があるといわれています。『「感情」から書く脚本術(カール・イグレシアス=著)には次のように書かれています。

この三幕構成というものは、誰かが長い間思索を巡らした末に考案して、今日から三幕構成に従うようにと宣言したというものではない。人間が話を作って語り始めた昔から、ずっとあったのだ。そして、それは科学者が自然の法則を発見したのと似た要領で、アリストテレスによって2400年ほど前に発見された。アリストテレスは、ただ芝居を観察しただけだ。感情的に満足感の高い、ゆえに人気の高い芝居が持っている共通の法則性に気づき、『詩学』にまとめたにすぎないのだ。
(CHAPTER 6「構成:のめりこませるための設計」より)

「そもそも三幕構成とは何か?」という基本知識からその応用・発展形まで、ストーリーの構成を学ぶための基本書3冊を紹介します。


素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック
シド・フィールドの脚本術2
シド・フィールド=著

「三幕構成」理論を体系化した人物として知られるシド・フィールドは、著書の中で「脚本のパラダイム(脚本の見取り図)」について解説しています。

テーブルを例にとって考えてみよう。そもそもテーブルとは何か? 四本の脚の上に、天板が乗っているもの。その種類はさまざまで、長いテーブル、高いテーブル、低いもの、幅の狭いもの、四角いものもあれば丸いものもある。材質も木材、ガラス、プラスチックなど多種多様だ。だが、「四本の脚の上に天板の乗ったもの」というパラダイムは変わらない。これがテーブルの本質であり、骨組みなのである。


テーブルには「四本の脚の上に天板の乗ったもの」という「形」があります。同じように「ストーリー」にも基本となる「形」があるとシド・フィールドは説きます。

そもそもストーリーとは何なのか。そしてすべてのストーリーに共通することは何か。それは発端・中盤・結末が存在することだ。脚本はドラマを作る媒体であるから、発端は第一幕、中盤は第二幕、結末は第三幕にあたる。


三幕構成理論によれば、仮に120分の映画の場合、ストーリーは次のような「形」になります(下図参照)

第一幕:発端=状況設定(25%=30分)
第二幕:中盤=対立・葛藤(50%=60分)
第三幕:結末=解決(25%=30分)

シド・フィールドは、ストーリーは三幕(発端・中盤・結末)で構成される、というだけではなく、それぞれの幕の役割や全体に占める分量、そして幕と幕をつなぐ要素(プロットポイント)の存在を明らかにしました。

シド・フィールドの著作はこれまで3冊が邦訳されていますが、おすすめしたいのが2冊目に相当するこの『素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック』です。本書で1巻目の内容をしっかりとおさらいしてくれているので、いきなり2巻目を読んでもまったく問題ありません。

2巻目をおすすめする最大の理由は「三幕構成」理論にとって非常に重要な「ミッド・ポイント」という概念について詳細な解説があるからです(1巻目はわずかに言及している程度)

脚本を分析すればするほど、第二幕の真ん中で前半と後半をつなぐ重要な事件が起こることに気がついた。それがミッドポイントである。ミッドポイントは、脚本の60ページあたりで起こる事件、出来事、エピソードであり、第二幕を前半と後半に分けながらも、両者で起きるアクションの橋渡しをするプロットポイントなのである。


「三幕構成」理論をベースにした創作指南書は国内外で数多く出版されていますが、それらはすべてシド・フィールドの理論を下敷きにしています。基本中の基本書なので、構成について学びたいとという人は必読です。

ためし読み
第1章 すべては白紙から始まる
ミッドポイント


ストラクチャーから書く小説再入門
個性は「型」にはめればより生きる
K.M.ワイランド=著

本書は書名の通りストーリーの「ストラクチャー(=構成)」に特化した指南書で、他の多くの指南書と同様、先に挙げたシド・フィールドの「三幕構成」をベースにしてしています。

シド・フィールドの著作は映画脚本について書かれていますが、本書は小説の創作指南書です(著者のK.M.ワイランド自身も小説家)。「三幕構成」は映画やアニメにしか使えないのではないかと思われている方はぜひ本書を読んでみてください。

本書のおすすめポイントは何といってもシンプルであるということ。ストーリーの構成を解説した本は山のように存在し、中には非常に難解なものもあります。

専門家の中には、まことに複雑な理論を主張する人もいます。ジョン・トゥルービーは名著『ストーリーの解剖学』で22個もの要素を挙げています。一方、映画脚本術のバイブルとして名高いシド・フィールド著『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』は物語を三つに分ける「三幕構成」(脚本家はもとより、小説家にも役立つ本です)。どちらの主張も基本は同じ。


本書は物語を「10個の要素」に分解しています。

この本では両者の中間をとって、10個の要素を挙げることにしました。ストーリーを10ステップに分解し、書き手も読者も最大限の効果が得られる構成術を提案します。また、シーンや文の作り方もご紹介します。


10個の要素は下記の通りです。当然シド・フィールドの理論を下敷きにしているので、シドの「三幕構成の見取り図(パラダイム)」と重ねることができます(下図)

本書では、この10個の要素それぞれについて、小説の事例を使って丁寧に解説してくれています。

読みやすいボリュームでありながら、「ストラクチャー(=構成)」に特化している指南書だけあって多くのことを学ぶことができる一冊です。

ためし読み
イントロダクション:なぜ、構成は大切なのか?

関連記事
『ストラクチャーから書く小説再入門』の3つの要点


SAVE THE CATの法則
本当に売れる脚本術
ブレイク・スナイダー=著

『SAVE THE CATの法則』は、フィルムアート社刊行の創作指南書の中でもダントツの売上を誇る一冊です。邦訳刊行から10年以上が経過していますが、年々売上が伸びています。

本書は「キャラクター」や「ログライン」、「ジャンル」、「観客を惹きつけるためのテクニック」などストーリーに関するさまざまなトピックを扱っている指南書です(詳しくはこちらの記事を参照のこと)

「構成」に特化した本というわけではないのですが、
本書で紹介されている「物語構成用のテンプレート」である「ブレイク・スナイダー・ビート・シート(=BS2)は、世界のストーリーテリング業界に非常に大きな影響を与えました。

私が構成というものを知ったのは、かなり後になってからだった。しかもそうとう困った状況になってやっと、その存在を知ったのだ。まだ脚本家として駆けだしの頃、私は書いた脚本を売るために次から次へとミーティングに出かけていった。映画会社のお偉方相手に自分のアイデアを売り込むのだが、コンセプトや〈クールな〉シーンの説明がひと通り終わると、それ以上何を話せばいいのかいつも言葉に詰まった。今でも忘れないが、初めて脚本を依頼されたとき、映画会社の重役に〈ターニング・ポイント〉はどうなってる? と聞かれた。いったいこの優しげなおじさんは何のことを言っているんだろう? 正直、まったくわからなかった。まだシド・フィールドの名前すら知らなかった頃の話だ(もちろん今では、シド・フィールドが映画の構成分析の生みの親だと思っている)。それから彼の著作『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』(フィルムアート社刊)を読み、脚本家に本当に役に立つものはこれだ!と感じたのである。

それって、三幕構成のこと? そう、そのとおりだ。

でも、三幕構成だけじゃ充分じゃなかった。だだっ広い海で泳ぐのと同じで、幕と幕の間が広すぎて、途中で迷ってパニックに陥り溺れてしまうのだ。だから迷子にならないよう、途中で目印になるような島が必要だった。


ここでもシド・フィールドに関する言及があります。『SAVE THE CATの法則』の著者ブレイク・スナイダーによると、三幕構成は「幕と幕の間が広すぎて」(特に全体の50%を占める「第二幕」)、何をどう書けばよいのか分からなくなってしまう、という欠点があります。

そこで、ブレイク・スナイダーが考えたのが、物語全体を「3」ではなく「15」に分解するという方法です(下図)。シド・フィールドの「三幕構成の見取り図」と比較すると、違いがより明確になります。

ストーリー全体の「どこに」「何を」「どのくらいの分量」描けばよいのか、という創作者の悩みに完璧に答えてくれるこの「ブレイク・スナイダー・ビート・シート(=BS2)」は、世界で最も有名な物語構成用のテンプレートと呼ばれています。

「三幕構成」理論の発展形の本として、ぜひ読んでほしい一冊です。

ためし読み
Chapter1 どんな映画なの?
Chapter4 さあ、分解だ!

関連記事
『SAVE THE CATの法則』はいったいどんな本なのか?
『SAVE THE CATの法則』の3つの要点


フィルムアート社から刊行された「物語やキャラクター創作に役立つ書籍」を下記ページにまとめています。映画だけでなくゲーム・小説・マンガなどのジャンルにも応用可能です。脚本の書き方、小説の書き方に悩んでいる方はぜひご一読ください。