小説投稿サイトや動画配信プラットフォームが整備され、誰もが自分の物語を発表できる時代。わたしたちは、誰もが「作者」になることができる時代を生きています。しかし、わたしたちの身の回りには、すでに膨大な数の物語(小説、マンガ、映画、ゲーム、アニメなど)が存在しています。どうすれば、人を惹きつける物語を書くことができるのでしょうか。その悩みを解消すべく、これまで数多くの物語創作指南書が刊行されてきました。書店行けば、さまざまな切り口の、そしてさまざまな難易度の指南書が並んでいます。あまりにもその数が多いので、どれを読めばよいのか分からないという方も多いのではないでしょうか。そこで本連載では、さまざまなジャンルで活躍するプロの作家の方々に、各自の視点から「オススメの物語創作指南書」を3冊選んでいただきます。
今回は、かねてよりフィルムアート社の創作指南書を愛読し、そのノウハウを実作に活かして執筆をされている小説家の八谷紬さんに選書していただきました。八谷さんには、過去に「小説家、八谷紬『ストーリー』を語る」「座談会:プロの作家はどのように推敲しているのか? 浅海ユウ×櫻いいよ×八谷紬×望月麻衣」などの記事でもお世話になりました。創作指南書「沼」にハマってしまったという八谷さんが厳選してオススメする3冊とは――。
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「私を創作術の沼に引きずり込んだ一冊」
新しい主人公の作り方
アーキタイプとシンボルで生み出す脚本術
キム・ハドソン=著
ずっと「ヒーローの旅」ではない物語があるはずだと思っていました。主人公が世界を救うために旅立ち、仲間と試練を乗り越え、悪に立ち向かう物語以外もパターンとしてあるはずだと。
そんな折、探して探して見つけたのがこの一冊です。どうしても読みたくて(当時は出版社品切れでした…)書店に電話をし、他店取寄をお願いし、手元にやってきた『新しい主人公の作り方 アーキタイプとシンボルで生み出す脚本術』。
そこには私の求めていたものがとても丁寧に書かれていました。これこそが私の求めていたもの! ありがとう! 本当にそんな気持ちでいっぱいで、何度も読みノートを取って理解しよう、自分の血肉にしようと必死でした。
この書籍では「女性性の物語」について分析してあります。「男性性の物語」が「ヒーローの旅」ならば「女性性の物語」は「ヴァージンの旅」です。セクシュアリティは関係なく、どのように一人の人間として自分を知るかの過程の違いです。
私が求めていた「ヴァージンの旅」は周囲に依存していた主人公が、内面で離れていき、自分の夢を叶えるもの。自分の意見など言えなかった主人公が、最後には自己主張できるようになる――そんな自己実現の旅です。それを言語化しまとめてくれている、それだけでもう心の底から感謝しかありません。
本書には「ヒーローの旅」「アンチ・ヴァージンの旅」についても書かれています。それらを比較して読むのも面白く、勉強になります。またかなり柔軟性の高いもので、両者取り入れることも、切り替えることも、要素の順番を入れ替えることも可能だそうです。
この一冊と出会えたことにより、私は様々な脚本術、創作論の本を読むようになりました。探し求めていたものが間違いじゃなかったと言ってもらえたあのときが、私の創作人生での大きなターニングポイント。今では立派な趣味です。
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「創作論の柔軟さ、豊富さに気づかせてくれた一冊」
キャラクターからつくる物語創作再入門
「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ
K.M.ワイランド=著
創作論と呼ばれるものを学んでいると「本当にそうだろうか」と思うことが時折あります。今回は「キャラクターは物語上で変化するもの」という点でした。
言わんとすることはわかります。キャラクターは困難に立ち向かい、対立し、葛藤し、自分の考えを改め変化していく――そういう物語、大好きです。キャラクター、主人公は何か「嘘を信じている」。それは嘘だけど主人公にとっては真実です。ただ本当に大切なことは別にある。物語の後半、主人公は自分にとっては都合のいい嘘を信じ続けるか、たとえ困難が待ち受けても真実を掴み取るか。その葛藤に私たちは感動を覚える。納得です。有名な小説や映画が思い浮かびます。
ですが、本当にそれだけなのでしょうか。主人公はもう悟っている、もしくはとても強い人で、周囲に立ち向かえるだけの力があるパターンもあるのではないでしょうか。
そんな疑問を解決してくれたのがこちらです。「新しい主人公の作り方」に続き、こちらも私の求めていたものが書かれていた一冊。
本書では主人公が辿る変化の軌跡を「キャラクターアーク」とし、それには「ポジティブ」「フラット」「ネガティブ」の3つの基本形があると書かれています。
フラット! それこそ私が知りたかったパターンです。それどころかネガティブという想像していなかったものまで出てきました。これもまた、勉強の醍醐味です。
基本であり一番人気、かつ複雑なのがポジティブなアーク。これは「良い方向に変化するもの」、つまり最初に考えていたパターンです。それに対しフラットでは変化するのは周囲、ネガティブは良かったものが転落していく…悲劇パターンです。言われてみれば、そういう物語もたくさんあります。
そのうえこちらは三幕構成においてどんな要素を組み入れ物語を作るか、細かい要素がたくさん書かれています。プロットが立てられない…!といったときにも、ヒントになる一冊です。私は本書の第一章「ポジティブなアーク」に書かれている人物の設定要素を毎回参考にしています。
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「私の読んだ中でおそらくもっともシステマチックな一冊」
工学的ストーリー創作入門
売れる物語を書くために必要な6つの要素
ラリー・ブルックス=著
最近、三幕構成という単語をよく聞くようになった気がします。以前は起承転結もしくは序破急が多かったのではないでしょうか。ただ私は起承転結でプロットを作れたことはありませんでした(理屈はわかるのですが、承のターンは何したらいいかさっぱりで)。
私が初めて三幕構成を知ったのは上記にも挙げた『新しい主人公の作り方』で、その次にすぐ『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』を読みました。これもとても読みやすく、わかりやすい良いテキストで今でも何度も読み返しています。
しかし映画(映像作品)なら想像しやすい教えを、小説にどう活かすべきなのか。と思っていたときに出会ったのがこちらだったと思います。
本書は三幕構成については語っていません。ここに書かれていたのは「四部構成」です。物語をきっかり4つにわけ、各パートで何をすべきかをページ指定の勢いで指示しています。(実際は物語の何%のあたり、といった感じです)
三幕構成は第二幕が長いです。その長い第二幕を半分にして――という考えなので、まあ言ってしまえば三幕構成と大差はないのですが…個人的には四部で考えるというのがすごくわかりやすかったのです。
というのも、私は章分けが苦手です。感覚でやっていた頃(いわゆるパンツァーですね)はなんとなくできていたものの、きちんとプロットを作るようになってからはさっぱり。書いていればやがて終わる雰囲気がわかっても、プロット上では自信が持てません。
そんなときにこちらと出会い、一気に楽になりました。とりあえず四部構成をそのまま四章にしてしまえばいいのです。なぜなら各部の終わりは必ず転換点があり、次の章へのクリフハンガーになってくれる。便利! ただそれだけですが、プロットを建てるのは俄然楽になりました。
そこから他にも色々学び、今では本書と他書籍の合せ技でプロットのパターンを作って活用しています。ちなみに本書は物語を書くための6つの要素を紹介しているのですが、コンセプトにおいても非常に勉強になった一冊です。仕事で編集者さんにアイデアを出すときに役に立っております。実用的です。
ためし読み
イントロダクション
フィルムアート社から刊行された「物語やキャラクター創作に役立つ書籍」を下記ページにまとめています。映画だけでなくゲーム・小説・マンガなどのジャンルにも応用可能です。脚本の書き方、小説の書き方に悩んでいる方はぜひご一読ください。