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小説を書き終えたことのない人、面倒くさがりの人へ創作術のロングセラー『アウトラインから書く小説再入門 なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?』を解説!

フィルムアート社がこれまでに刊行してきた数ある創作術本の中でも、ハリウッド式の脚本メソッドを基にした下記の3冊は、物語創作者必読の基本図書として世界的なベストセラーとなっています。

『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』

『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』

『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』

今回は、あえてこの「基本図書」ではない創作術本をご紹介いたします。

K.M.ワイランド著の『アウトラインから書く小説再入門 なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?』は2013年の邦訳以来、コンスタントに売れ続けている隠れたベストセラーなのです。

ただ『アウトラインから書く小説再入門 なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?』は、上記の3冊に比べるとイマイチ馴染みがないというのも事実だと思います。

というわけで、今回は本書の内容をじっくりとご紹介したいと思っています。
少し長くなりますが、お付き合いください。

「アウトライン」とは?
・アウトライン=物語創作という長い道のりのゴールまでたどり着くための「地図」のようなもの。
・アウトラインを書くと、行き当たりばったりの創作が地に足がついたものに変わり、確実に物語を仕上げられるようになる。
・面倒なことや書き直すのが大嫌いという人にオススメ。


アウトラインは必要か?

作家は二つのカテゴリーに大別できます。

①アウトライン派(執筆前にプロットを作る「プロッター」)
②非アウトライン派(プロットを作らない「PANTSER[パンツァー]」
※パンツァー…「計画を立てず、勘を頼りに作業する=SEAT OF PANTS」というイディオムに由来

いうまでもなく、本書は①のアウトライン派です。著者の言葉を引用してみましょう(こちらに冒頭部分のためし読みもあります)。

私がアウトラインを書くのは、面倒なことが嫌いだからです。書き直すのは大嫌い。後からプロットの欠陥が発覚すれば、原稿を仕上げた時の爽快感など吹き飛んでしまいます。みじめな気持ちで伏線やプロットのひねりを後づけするよりは、初稿を書く前にロードマップを作る方がいいです。全体を俯瞰すれば、各シーンで書く内容も把握できますから。

とはいえ、初めて小説を書こうという人や非アウトライン派(パンツァー派)の人は、こんな疑問を抱いているのではないでしょうか。

アウトラインについての、よくある4つの疑問

  1. アウトラインはきちんとした書式で書かなくてはならないのではないか?
  2. アウトラインがあると発想が限られてしまうのではないか?
  3. アウトラインは書きながら発見する楽しみを奪うのではないか?
  4. アウトラインを作ると時間が余分にかかるのではないか?

これらはすべて「誤解」です。
たとえば「アウトラインがあると発想が限られてしまうのではないか?」という疑問に対して、本書ではこのような説明がなされています。

よいアウトラインは創作を邪魔せず、後押ししてくれるもの。作家はアウトラインの奴隷ではなく、使い手です。終盤近くまで書き進んだ時にいい案を思いついたら、創作の女神と一緒に新たな岸辺へ飛んで行きましょう。その岸辺が元のマップに存在しなくても、です。

アウトラインは発想や大胆な試み、ひらめきを促します。
つまりアウトラインは、自由な発想を妨げるものではなく、アウトラインを書くことで(あるいは見ることで)、そこから新しい発想が生まれるというのです。

では、なぜアウトラインを作るとよいのでしょうか。

アウトラインで得られる7つの成果

  1. 物語にバランスとまとまりが生まれる
  2. 執筆の行き詰まりが防げる
  3. 伏線が張れる
  4. ペースを調整しながら書けるようになる
  5. 主観が計画的に選べる
  6. 登場人物の内面描写に一貫性が生まれる
  7. 書き手であるあなたのモチベーションと確信が高まる

アウトラインを作ることのメリットを十分に理解したところで、次にいきましょう。

アウトラインを作る前に

「アウトラインを作る」といっても、どのような道具(ツール)を使えばいいのかわかりません。
本書では、初稿執筆とはまったく違う道具を使う方法をオススメしています。
つまり「ノートと筆記用具」です。

パソコンだとアイデアが形になる前から編集、修正したい誘惑に駆られます。ペンとノートというシンプルな道具に立ち返ると、驚くほどのびのびとした発想が生まれます。

著者は、大学ノートを使っているようです。
罫線が多いのでたくさんの情報が書ける&行が斜めになるのを防げるというのがその理由です。
筆記用具は鉛筆でなく、ペンを使っています。消しゴムで消せると、メモを書き直す癖が出てしまうからです。
表紙には細字のマーカーで年度、本のタイトル、何冊目のノートかを書いておきます。

もちろん「ノートと筆記用具」が絶対ということではないので、Wordなどのソフト使うこともできます。
ここらへんはお好みで選択してください。

一文で物語を表す「プレミス」のまとめ方

ノートとペンの用意はできたでしょうか。
アウトラインを作る前にまだやらなければならないことがあります。

それは「プレミス」作り。
プレミスとは「プロットとテーマを伝える一つの文」です。

最初に挙げた「基本図書」のひとつ、ブレイク・スナイダー著の『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』でも執筆の前には、「ログライン」の執筆が必須であると書かれています(「『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』はいったいどんな本なのか?」を参照)。

正確には「プレミス」と「ログライン」は別物ですが、「物語の内容を簡潔に表現したもの」をつくるという意味では同じ作業です。

あなたはどんなストーリーを書こうとしていますか?
プレミスを書けば、これから創作しようとしている物語の内容が明確になります。

本書では、例としてこんなプレミスが紹介されています。

もし孤児が見知らぬ富豪から巨額の遺産を贈られたら? (チャールズ・ディケンズ『大いなる遺産』)

プレミスの作り方がわからないという人に本書がオススメしているのは「もし〜したら(What if )」という問いからスタートする方法です。上のプレミスの例もそのような形になっていますね。
「もし〜したら?」という問いには創作を生むパワーがあります。

アウトライン用のノートを開いて、最初のページに思いつく限りの「もし……としたら?」を書いていきましょう。

「もしも」のリストができたら、それぞれに対して「予測されること」を書きます。
平均的な読者がこのストーリーを読んで予測しそうなことを、考えつく限り書き並べます。
その予測を反転させれば「予想外の展開」となるはずです。

最初の段階でプレミスを書いておくとどのようなメリットがあるのでしょうか。

今、プレミスを書いておきたい6つの理由

  1. 物語として成立するかがわかる
  2. 人物、葛藤、プロットが固まる
  3. 作品のエッセンスが把握できる
  4. 次に考えるべきことがわかる
  5. 大筋を即座に説明できるようになる
  6. 企画を売り込む準備ができる

人物や舞台設定、テーマやプロットはみな、プレミスから派生します。プレミスが強固でなければ、他の要素がいかに強くても作品自体は傾いてしまいます。

全体の下書き(ゼネラル・スケッチ)
1:点と点をつなげる

プレミスを書き終えたら、ようやくアウトラインの作成にとりかかります。

著者はこの作業を「全体の下書き(ゼネラル・スケッチ)」と呼んでいます。アウトラインで最も重要なステージです。

「全体の下書き(ゼネラル・スケッチ)」とは、アウトラインの大枠作りのことです。
これまでに出たアイデアを書き出してプロットの空白を見つけ、ストーリーのアークを点検します。
ディテールはまだこの時点では書きません。

では、その方法とは?

とりあえず、今すぐに思い浮かぶシーンを挙げてみよう。

まずは、ひたすらシーンの出来事を箇条書きにする作業を行います。

未定の部分をどうするかは後回しにして、ストーリーに関して思いつくことを、とにかく全部書きます。まだ固まっていない部分は、「この後は未定」「ここはかなり適当」といったメモを書き(貼り)、ひたすらノートに書きます。

ここでの目的は、アウトラインの大枠を作ること。つまり点(=箇条書き)をひたすら書く作業です。
その点と点の間がプロットの隙間ということになります。

その次に、この点をつなぐ作業をします。箇条書きの際にメモを張った、未定の部分・曖昧な部分をどのようにして埋めるのか、アイデアを出していきます。

この作業で行き詰まったら質問形式で考えましょう。疑問符を打つだけで、驚くほど発想が広がります。

だんだんアウトラインが形になり始めてきましたね。

全体の下書き(ゼネラル・スケッチ)
2:基本要素を見つける

動機、欲望、ゴール、葛藤、テーマ

ここで注目する5要素は、プロット構築に気をとられて見過ごされがち。しかし、何ヶ月もかけてアウトラインを作り、初稿を書き始めてから探すのでは遅すぎます。私も執筆中、不足に気づいたことがありますが、あの時ほど落胆したことはありません。早いうちに、すべての要素が揃っているか確認しましょう。

動機の設定はとても大事です。動機は必ずゴールと結び付くので、障害や葛藤も見つけやすくなります。

また、動機は欲望に火をつけます。欲望ゆえに人物は前進します。

フィクションを突き詰めていくと、その中核にあるのは主人公の欲望です。欲望がエネルギーを生み、主人公は1ページ、また1ページと障害を乗り越えます。ストーリーとは葛藤であるとよく言われますが、人物が何かを求め、何かにぶつからない限り葛藤は起きません。読者を惹きつけて離さない大作を書くには、それだけ強烈に何かを求める人物が必要です。

また欲望=登場人物が求めるものは、作品のアークと密接に結びついています。
ほしいものを手に入れようとして人物が成長、変化するからです。

人物がたどる変化の軌跡のことを「キャラクターアーク」をいいます。

キャラクターアークとストーリー構成については、本書の著者K.M. ワイランドの『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』に詳しいので、ぜひこちらも参考にして下さい(ためし読みはこちら)。

キャラクターからつくる物語創作再入門
「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ

K.M.ワイランド=著

キャラクターアークを理解すれば、物語の中でキャラクター(登場人物)が躍動する!!

本書は、人物がたどる変化の軌跡=「キャラクターアーク」に注目し、キャラクターアークの基本形な三つの型について詳しく言及しながら、登場人物とストーリー構成がいつどのように関係し合うのかを説明しています。
物語創作をするうえで「人物」と「プロット」を分けて考えるのは大変危険です。どちらか一つをおろそかにすればストーリーは危機に陥ります。なぜなら人物がプロットを動かし、プロットがキャラクターアークを作るからです。両者は切っても切れない関係にあるのです。「プロットと人物は一心同体」というのはプロットの「構成」と人物の「アーク」が一体だということを意味します。言い換えれば、人物の内面の移り変わり(=アーク)がしっかり構成できれば、プロットもテーマもしっかりと安定したものになるということです。
キャラクターと物語の関係性を徹底的に掘り下げた、これまでになかった実践的創作術。

ためし読み
イントロダクション:人物の心の変化をストーリーの中で構成できますか?

関連記事
『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』の3つの要点

次に「対立と葛藤」について。
多くの創作術本に「物語には対立と葛藤が必要」と書かれています。

では、どうすれば対立や葛藤が作れるのでしょうか? 本書の答えは明快です。

答えは簡単。人物の動機、欲望、ゴールを設定し、人物とゴールとの間に障害物を置くだけです。

最善かつ簡単な方法として、登場人物同士を衝突させ葛藤を作るという方法を筆頭に、本書には「対立/葛藤」をつくるためのテクニックがいくつか紹介されています。

5要素の最後のピース「テーマ」について。

テーマというのは厄介な概念です。意図的に作ろうとすると、なんだかイソップ寓話のようになってしまいます。しかし、テーマなきストーリーはただの空想譚。悪く転べば根も葉もない与太話になるでしょう。素晴らしい物語には、やはりテーマが必要です。

テーマをどのように表現すれば、よいのでしょうか。
テーマは登場人物に表れる、と本書は説きます。

人物がストーリーを通じて学ぶこと(あるいは学べないこと)、人物の表現やリアクションからテーマが浮き上がってくるはずです。テーマを強く打ち出すには、人物を強く前進させることです。
本書には、テーマを見つけるための5つの質問事項が掲載されていますので、ぜひお役立てください。

動機、欲望、ゴール、葛藤、テーマの5要素は初稿を書き始める前に必ず設定しておく必要があります。
ここでは簡単に触れただけですが、重要な部分なので、もっと知りたいという方はぜひ本書をご一読ください。

人物像の下書き(キャラクター・スケッチ)
1:バックストーリーを作る

全体の下書き(ゼネラル・スケッチ)でプロットとストーリー・アークの大枠をつかみ、当座のプロット上の空白を埋めたら、次に行うのが「人物像の下書き」です。まずバックストーリーから始めます。

バックストーリーとは読んで字のごとく、本編の「裏にある」ストーリーです。本編が始まる前の物語であり、人物の決断や行動を生み出す源ですから、物語の進行や整合性作りに欠かせません。

ここまでの作業で、主なプロットライン、そして主人公が誰で、欲望やゴールが何なのかも決まっているはずです。

次にすべきは、「その人物は何者で、過去に何があったのか」を固めていく作業です。
バックストーリーを見れば、その人物の動機も自ずと見えてきます。

だからといって登場人物のバックストーリーを「最初から」、つまりどこで生まれ、両親が誰で、どんな出来事がその人物の人格を形成したか、と考えていく必要はありません。

本書が推奨するのは「インサイティング・イベント(=本編が本腰を入れて動き出すところ)」を起点に考えるという方法です。

インサイティング・イベントでは、人物を取り巻く世界が後戻りできないほど変わります。ドミノで言うなら最初のピースを倒す瞬間に当たります。そこからプロットがパタパタと進み、ノンストップの連鎖反応で人物をクライマックスまで運びます。物語で人物がどう存在するか、その鍵を握るのがインサイティング・イベントです。人物の過去を作る時、この鍵の部分から逆算していくといいアイデアが浮かびます

バックストーリー作りは、人物を掘り下げることから始めます。
登場人物全員のバックストーリーが必要です。それぞれが人生を歩み、それぞれの道がインサイティング・イベントで交差します。

人物の掘り下げの方法としてはいくつかの方法がありますが、まずは自由な発想を優先させ、ノートに思いつくことを書いていきます。例えばこんな感じで。

  • おおまかな背景を書く
  • 周囲の人物との関係を書く
  • 学歴、職歴、旅行歴を書く
  • 人物にとっての歴史的な出来事を書く

人物像の下書き(キャラクター・スケッチ)
2:人物インタビュー

思いつくままに人物を掘り下げていったものの、これではまだ不十分です。主人公の瞳は何色? 悪者が在籍していた大学は? ヒロインにとって一番恥ずかしい体験は? 主人公のしぐさや表情、口癖は? 恋愛経験は?
このような質問にすぐに答えられるでしょうか。

著者が必ず行うというのが「人物インタビュー」です。
本書には、「人物インタビュー」を行う際に使う、質問リストが紹介されています。

人物像をくまなく作り込む「人物インタビュー・質問リスト」

名前:

人物はその名前が好きか?
その名前は人物にとってどんな意味を持つ?

背景:

誕生日:
出身地:
両親:
 人物を育てた人々にとって大事なことは?
兄弟姉妹:
人物が育った環境、経済/社会的地位:
民族的な背景:
住んでいた場所:
 現住所と電話番号:
学歴:
 好きな科目:
 特技:
職歴:
 収入:
旅行:
友人:
 同居人:
 けんかした相手:
 一緒に時間を過ごす相手:
 この人と一緒に過ごせたらいいなと思う相手:
 人物を頼りにしている人は誰? なぜ頼りにしている?:
 人物が最も尊敬している人々は:
 他の人々は人物をどう見ているか:
敵:
恋人、結婚:
 子供:

人生観:

神との関係:
自分自身が好きか:
人生で何か変えたいとすればそれは何か:
個人的に恐れているものは何か:
何かについて、自分に嘘をついているか:
楽観的か/悲観的か:
ありのままか/真実を偽っているか:
倫理観のレベルは:
自信のレベルは:

普段の一日の生活:

外見的な特徴:

体格:
姿勢:
頭の形:
目:
鼻:
口:
髪:
肌:
 タトゥー/ピアス/傷跡:
声:
服装:
第一印象で人は何に気づくか:
自分で自分をどう見ているか:

健康状態/障害/ハンディキャップ:

人格の特徴:

性格のタイプ:
最大の長所/短所:
 人物の長所が短所になり得るとしたら:
どれぐらい自制心があるか:
何に怒りを感じるか:
泣くとしたら何に対して泣くか:
恐れていることは:
 避けている人々、場所、シチュエーション:
才能:
人々は人物の何を最も好いているか:
好みと関心:
 政治的な考え方:
 集めているもの:
 好きな食べ物/飲み物:
 好きな音楽:
 好きな本:
 好きな映画:
 好きなスポーツ/娯楽:
  学校でそのスポーツをしていたか:
 好きな色:
 子供時代に空想していたこと/今よく空想すること:
 週末のお気に入りの過ごし方:
 プレゼントをもらうとしたら何が一番うれしいか:
 ペット:
 乗り物:
よくする表現:
 うれしい時:
 怒った時:
 いらいらした時:
 悲しい時:
 不安な時:
  一番よくする表情、ジェスチャー(にやにや笑う、顔をしかめる、ぴくっと顔に出る、手を動かす、肩をすくめる、アイコンタクトなど):
 クセ、しぐさ:
 何を見て笑うか、嘲笑するか:
 どんなことをしたらいやがるか:
 どんなことをしたら元気になるか:
 希望や夢:
  その夢を達成しようとしている自分を、自分でどう見ているか:
 誰かに対して行なった最悪のことは:
 最も大きな成功体験は:
 最も大きなトラウマは:
 最も恥ずかしかったことは:
 最も気にかけていることは:
 秘密:
 もし一つだけ実行して成功するなら、それは何?:
 この人物はどういう種類の人かと言うと?:
 自分の中でどこが一番好きか:
 読者がすぐ共感できる点は:

人物はどういう点で一般的か、あるいは特殊か:

人物が置かれている状況はどのような点で一般的か、あるいは特殊か:

人物が最も必要としていること:

その人物らしい逸話:

個人史:

舞台設定でユニークな世界観を作る

時に舞台設定は軽視されがちです。人物やプロット作りに苦心するあまり、舞台設定の影響力を忘れる時もあるでしょう。一から世界を構築するオリジナル作品の創作では、この傾向は幾分まし。しかし、どんなジャンルを書く時も、ファンタジー作家のように細かく舞台設定をしたいものです。

舞台設定のポイント

  • その舞台設定はストーリーとぴったり合っていますか?
  • 登場人物はその舞台設定にどう反応しますか?
  • その舞台設定から心理的に影響を受けますか?
  • 舞台設定が多過ぎていませんか?

さきほど紹介した「人物インタビュー」と同様に、本書には舞台設定を強固なものにするための「世界観構築クエスチョン」という質問リストが収録されています。こちらは本書を買ってのお楽しみということで。

詳細アウトラインで物語を育てる

「詳細アウトライン」でプロット作りは本格的に始動します。一歩ずつ、できるだけ詳しく(セリフやナレーションはまだ書きません)ストーリーの要所を並べていきます。すんなり運ぶところもあれば、プロットや人物の動機が未定なために、てこずる箇所もあるでしょう。詳細アウトラインだけで何ヶ月もかかるかもしれませんが、ここが創作の正念場。最も充実し、やりがいのある作業です。

プロットを書き込む前に確認したいチェックポイントがあります

  • あなたが書こうとしているのはどんなストーリー?
  • あなたの読者は誰ですか?
    • 年齢層はどれぐらい?
    • 男女比は?
    • 民族性は?
    • 宗教的な価値観は?
  • 誰の主観で書きますか?

次に、ストーリー構成上のチェックポイントを確認します。

本書はアウトラインの書き方を中心に解説した本なので、ストーリー構成については多くの頁を割いてはいません。ストーリー構成については同じ著者の『ストラクチャーから書く小説再入門 個性は「型」にはめればより生きる』に詳しいので、こちらもぜひご一読ください(ためし読みはこちら)。

ストラクチャーから書く小説再入門
個性は「型」にはめればより生きる
K.M.ワイランド=著

映画の構成は小説に応用できる

本書では、傑作に欠かせない「構成」=ストラクチャーを映画の構成、脚本術をもとに指南します。単なる“ひらめき”を作品化し、独創性と個性を最大限に引き出すために大切なこととは何か。勘を頼りに書けても確かな技術は身に付きません。 物語にインパクトを持たせながらもバランスと整合性を生み、最後まで書ききることができる強い物語に必要なことを、それぞれストーリー(物語)の構成、シーン/シークエル(場面/つなぎ)の構成、文の構成から、丁寧に解説します。 とくに、ライトノベル、ゲームシナリオ、エンタメ小説のライティングには有益な一冊です。

ためし読み
イントロダクション:なぜ、構成は大切なのか?

関連記事
『ストラクチャーから書く小説再入門 個性は「型」にはめればより生きる』の3つの要点

三幕構成メソッドに従い、物語が序盤(ビギニング)、中盤(ミドル)、終盤(エンディング)の順に適切に配置されているかを確認します。

三幕構成については、上記の「基本図書」シド・フィールド著『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』でそのすべてを学ぶことができます(ためし読みはこちら)。

映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと
シド・フィールドの脚本術
シド・フィールド=著

「三幕構成」の完全解説 すべての脚本術はこの本からはじまった

世界で一番読まれているシド・フィールドの脚本術の邦訳です。良い映画は良い脚本から生まれます。世界で初めて映画の脚本を分析し、構成のパラダイムを考え出した著者が、映画の持つ力と本質を教える名指南書。あらゆる物語創作の基礎となる「三幕構成」について解説した必読の1冊です。現在存在するほとんどの脚本術・物語創作術は、本書を下敷きにしているといっても過言ではありません。物語創作の正典(カノン)ともいうべき必読書。

ためし読み
第1章 映画脚本とはなにか

三幕構成に従い、ビギニング、ミドル、エンディングがしっかり作れたら、人間関係やアクション、ユーモアで肉づけします。あらゆるストーリーに欠かせない3つの要素です。

清書版アウトラインでロードマップを描く

アウトラインを作り終えたら、内容を「清書版アウトライン」に清書します。前の「詳細アウトライン」は執筆時に読み返すのが大変なので、重要事項をさっと参照できるバージョンを新たに作るのです。詳細アウトラインを使って執筆してもかまいませんが、私は清書版をパソコンに入力しています。

清書版アウトラインを入力する時が、初めて素材を評価する時です。この時に、使えない部分は削除し、使う部分は磨きます。また各シーンの重要性や効果もこのときに考えます。削除候補、統合候補と、作りやパワーが弱いシーンに目星をつけます。

また、初稿を書き始める前のこの段階は、章やシーンの区切りを考える絶好の機会です。
シーンを強く締めくくる方法をアウトラインの清書時に探しましょう。

「『続きが知りたい!』と読者に言わせる11のシーンの区切り方」も本書には紹介されていますので、ぜひ参考にしてください。

アウトラインを活用しよう

本書の最後は「アウトラインを活用しよう」という章で締めくくられています。少し長くなりますが、この章の全文を紹介します。

おめでとうございます! アウトラインの最終段階に到達です。何ヶ月もの準備期間も終わり、長距離ドライブに出発です。行き先もルートも決まり、荷物も積みました。あとはデスクの前に座ってパソコンを起動させれば、わくわくするアドベンチャーの始まりです。この先たぶん、意外な事態に出くわすでしょう。エンジントラブルで停まることも、一度ならずあるでしょう。工事現場を迂回もするでしょう。面白そうな脇道へ行ってみたくなる日もあるでしょう。

これからは、完成したアウトラインを使う時。毎日原稿を書く前に見直し、ストーリーの続きを確認しましょう。辻褄が合っているかも再確認。アウトラインの魅力は、書くべきことがわかった状態でパソコンに向かえること。アウトラインのマップ上で次の行き先を確認すれば、自信を持ってその日の行程に出られます。

私たちの多くにとって、創作はいかに「自由」の感覚を生かせるかにかかっています。次の曲がり角の向こうで何が起きようと、望むところだ、と思える心。アウトラインどおりに書けば「自由」でなくなると恐れる人もいます。でも真実は逆。「自由」とは、何を書くべきかわからず呆然とすることではありません。行き先を決めて好きなだけ「自由」に書き、はめを外して道に迷ったら、ルートがわかる地点まで戻ればいいのです。地図を見ながら道中、サングラスをかけるもよし。音楽を流し、風に髪をなびかせるも「自由」です。

「好きなだけ変えていい」を念頭に、アウトラインを最大限に生かして下さい。中盤まで書いた時にヒロインが継母をやっつける方法を思いついたら、その場でアウトラインの修正を。アウトラインは流動的なガイドラインなのですから。

構成だけでもだめ、インスピレーションだけでもだめ。創作には両方が必要だと知る作家のツールがアウトラインです。発想を得て、形に落とし込む。また、形に落とし込んだ後で発想することも可能です。ひらめくことを初稿に書き、後で編集する方法もありますが、アウトラインでひらめきを読み解き、まとめ、ストーリーの方向を見つければ、時間も労力も節約できます。

書きたい物語がいっぱい。そんな時、ぜひこのツールを使って下さい。

楽しいアウトラインを!

いかがだったでしょうか。

『アウトラインから書く小説再入門 なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?』では、初稿を書き始める前の準備段階がいかに重要なのかを繰り返し説いています。

「アウトラインを作るのは面倒だな」などと思わないでください。冒頭にも書きましたが、面倒くさがりの人ほど、アウトラインを作るべきなのです。
最初から地図を描くことができれば、必ずゴールまでたどり着きます。

面倒くさがりな人、そしていままで小説を「書き終えたことがない」という人に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

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