『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』はハリウッド式脚本メソッドの最高峰として君臨し続け、いまでも世界中で読まれています。 邦訳から10年目となる日本でも、その売上は衰えるどころか年々増加している状況です。
本記事では、本書の特徴や内容をひとつづつ(簡単にではありますが)説明しています。
以下では「ビート・シート」や「ログライン」など、物語創作を志した方なら一度は目にしたことのある単語が登場してきます。これらの用語は一体どういう意味なのか、なぜ必要になるのか、本記事を最後まで読んでいただくとわかっていただけるはずです。
『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』とは?
ブレイク・スナイダーが著したハリウッド式脚本メソッドで、世界で最も読まれている脚本術のひとつ。
わかりやすく、「使える」ことが最大の特徴。
本書とよく比較されるハリウッド式の脚本術としてシド・フィールドの『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』やロバート・マッキーの『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』があり、ブレイク・スナイダーも本書の中で、シド・フィールドとロバート・マッキーについて言及しています。
書店には立派な脚本術の本がたくさん並んでいる。そのルーツは? シド・フィールドだ。脚本術なるものを提唱し、大勢の読者に教えたのは彼なのだ。
またロバート・マッキーのセミナーもいい。(中略)もし本気で脚本家になりたいと思うなら、少なくとも一回は彼のセミナーを受けたほうがいい。見逃すにはあまりにも惜しいセミナーである。
誰が読んでいるのか?
映画脚本家志望はもちろん、小説家、漫画家、アニメ、TPRG、ゲームなどあらゆるジャンルの物語創作者。
本書のメソッドを小説創作に応用した『SAVE THE CATの法則で売れる小説を書く』という書籍もあります。
GoogleやSNSで検索していただければすぐにお分かりいただけるように、いろいろなジャンルの創作者の方が本書を「読み」、そして実際に「使って」います。また本書のメソッドを使うことで、ラストまで「書き切る」ことができるようになったという方がたくさんいます。
ビジネスの分野でもプレゼンや広報における「ストーリーテリング」という観点から本書に注目が集まっています。
よい物語には人の心を動かす力があります。ではよい物語とは何なのでしょうか? その答えが本書の中にあります。
押さえておきたい6つのポイント
① ログライン
② 10のジャンル
③ 主人公は誰か?
④ ブレイク・スナイダー・ビート・シート
⑤ ボードをつくる
⑥ 黄金のルール
『SAVE THE CATの法則』という脚本術の名を世界中に知らしめたのは、④のブレイク・スナイダー・ビート・シートという物語構成テンプレートの確立であることは間違いありませんが、実は本書にはそれ以外にもとても重要なことが書かれています。以下で簡単に紹介していきます。
なお、本書の目次を見て分かるように、上記の6つのポイントがそれぞれの第1章から第6章までに該当しており、この本自体がとても明解な構成になっている点も読みやすいポイントです。
【本書の目次と6つのポイントの対応表】
序文
イントロダクション
1章 どんな映画なの? → ① ログライン
2章 同じものだけど、ちがった奴をくれ! → ② 10のジャンル
3章 ストーリーの主人公は… → ③ 主人公は誰か?
4章 さあ、分解だ! → ④ ブレイク・スナイダー・ビート・シート
5章 完璧なボードを作る → ⑤ ボードをつくる
6章 脚本を動かす黄金のルール → ⑥ 黄金のルール
7章 この映画のどこがまずいのか?
8章 最後のフェード・イン
用語解説
訳者あとがき
ログライン
脚本の内容を一行で説明したもの。「ワンライン」と呼ばれることもある。
物語を創作する人が「最初にすべき」仕事として、ブレイク・スナイダーは、ログラインの執筆を挙げています。
すべてはログラインから始まります。
「どんな映画なの?」の質問に、もしも一行ですばやく、簡潔に、独創的に答えられたら、相手は必ず関心を持つ。しかも脚本を書き始める前にその一行が書ければ、脚本のストーリー自体もよくなってくるのである。
私たちが選択できるエンターテイメントのジャンルや種類は膨大です(本書の表現を使えば「とにかく選択肢が多すぎる!」)。そんな中、他人の有限な時間を自分の作品(映画であれ小説であれ)に費やしてもらうためには「どんな作品なのか?」を簡潔に説明できる必要があります。
ただ、一行で説明できるだけでは、魅力的なログラインとはいえません。
「最高のログライン」を書くためには、4つの要素が必要であると本書は説明しています。
【良いログラインに必要な4つの要素】
・皮肉はあるか?
・イメージの広がり
・観客と製作費
・パンチの効いたタイトル
それぞれの詳細については、ぜひ本書を読んでいただきたいのですが「皮肉のある良いログライン」の例をひとつご紹介しましょう。
警官が別居中の妻に会いに来るが、妻の務める会社のビルがテロリストに乗っ取られる。
――『ダイ・ハード』(88)
ログラインができたら、自分の書いたログラインをどう思うか、他人に意見を聞いてみることもオススメしています。
10のジャンル
各ジャンルにはそれぞれに特有のルールがあり、創作者は自分の作品のジャンルを熟知したうえでひねりを加えなければならない。
ブレイク・スナイダー・ビート・シートと並ぶ本書の大きな特徴は、この「10のジャンル」の確立です。
ジャンルといっても、ロマンスやコメディ、サスペンスといったようなわれわれになじみのある典型的なジャンル分けではないところがポイントです。ブレイク・スナイダーが提唱するのは「ストーリーの本質」による分類です。
驚くべきことに、ブレイク・スナイダーはすべての映画はこの10種類のジャンルに分類できると述べています。
実は今までに作られた映画すべて、この10種類のジャンルに分類できると思っているのだ。もちろん君たちが独自のジャンルを作って足してくれてもいい。たぶんその必要はないと思うけどね。
自分の作品がどのジャンルに属するのかを知ることはとても重要です。自分のジャンルを意識することでストーリーを効果的に語ることができるようになるのです。
「ストーリーの本質」によるブレイク・スナイダー式の分類によれば、『ジョーズ』と『エクソシスト』と『エイリアン』が同じジャンルに属することになります。
では、その10のジャンルをご紹介しましょう。
【10のジャンル】
・家のなかのモンスター
・金の羊毛
・魔法のランプ
・難題に直面した平凡な奴
・人生の節目
・バディとの友情
・なぜやったのか?
・バカの勝利
・組織のなかで
・スーパーヒーロー
先述の『ジョーズ』『エクソシスト』『エイリアン』は「家のなかのモンスター」というジャンルに分類されます。
「家のなかのモンスター」は〈家〉と〈モンスター〉という2つの構成要素を持ちます。
〈家〉は逃げ場のない空間であること、そして人間のどん欲さ(金銭欲や物欲など)の結果から〈モンスター〉が生まれるという特徴があります。
それぞれのジャンルの特徴はぜひ本書を読んでいただくか、実在の映画50本をそれぞれのジャンルに分類し、詳細に解説した『10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術 SAVE THE CATの法則を使いたおす!』でご確認ください。
主人公は誰か?
観客は〈主人公〉に引き付けられる。観客が自分を投影して共感することのできる主人公を作ろう。
まず最初にログラインで「どんな映画なのか?」を明確にしたら、次のステップとして「誰についての映画か?」について考える必要があります。
見る側の人間は物語でもCMでも〈主人公〉に注目し、自分を投影します。この場合の主人公は必ずしも人間である必要はない、とブレイク・スナイダーは言います。
観客の代わりをし、観客を共感させ、しかもストーリーのテーマを伝える主人公を作り出そう。主人公は人間でも物でもいい。そして読者の心をつかむような言葉(形容詞)を使ってその主人公をうまく描写し、ログラインに組み込む。
本書によれば、あらゆる映画は主人公についてのストーリーです。つまりどんな映画にも必ず主人公は存在しています。
ただし、映画の構想を練るときに主人公が最初に浮かぶとは限らないので、アイデアが浮かんだあとで主人公を考えるという順番でも問題ありません。
観客の心をつかむためには、ストーリーの主人公は以下のような要件を満たしている必要があります。
共感できる人物
学ぶことのある人物
応援したくなる人物
最後に勝つ価値のある人物
原始的でシンプルな動機があり、その動機に納得がいく人物
つまり、最大の葛藤をし、感情面での変化が最も大きく、さらに誰もが応援したくなる動機を持っている人物こそが完璧な主人公ということになります。ただし、その場合でもログラインからズレているようではいけません。ログラインはストーリーの基本ルールなので常にそれに従っている必要があります。
主人公の変化の軌跡を「キャラクター・アーク」といいます。物語の構造とキャラクターは相互に関係し合っています。『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』は、そのキャラクター・アークについて徹底的に掘り下げて解説した貴重な書籍です。キャラクターと物語構造についての理解が一気に深まる一冊となっていますので、ぜひこちらも併せて読んでみてください。
ブレイク・スナイダー・ビート・シート
三幕構成理論を発展させた物語構成用のテンプレート。15のビートで構成される。
本書『SAVE THE CATの法則』の最大の読みどころがこのブレイク・スナイダー・ビート・シート(BS2)です。
ハリウッド式の物語構成メソッドとしては、上述のシド・フィールドが体系化した三幕構成が有名です。
三幕構成は、物語を第一幕(発端)、第二幕(中盤)、第三幕(結末)の三幕で構成するというメソッドです。それぞれの幕は「状況設定」「葛藤」「解決」に対応しており、幕の間は「物語の転換点(=プロットポイント)」で接続されます。
シド・フィールドの三幕構成については著書『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』のためし読みがありますので、こちらを参考してください。
ブレイク・スナイダーは三幕構成の有用性を認めたうえで、次のように語っています。
構成いかんによって、熟練した技、忍耐力のいる作業、魔法のようなストーリーテリングが本当に生きるかどうかが決まる。だから構成の仕方は、絶対に習得しなければならないテクニックなのである。
私が構成というものを知ったのは、かなり後になってからだった。しかもそうとう困った状況になってやっと、その存在を知ったのだ。まだ脚本家として駆けだしの頃、私は書いた脚本を売るために次から次へとミーティングに出かけていった。映画会社のお偉方相手に自分のアイデアを売り込むのだが、コンセプトや〈クールな〉シーンの説明がひと通り終わると、それ以上何を話せばいいのかいつも言葉に詰まった。今でも忘れないが、初めて脚本を依頼されたとき、映画会社の重役に〈ターニング・ポイント〉はどうなってる? と聞かれた。いったいこの優しげなおじさんは何のことを言っているんだろう? 正直、まったくわからなかった。まだシド・フィールドの名前すら知らなかった頃の話だ(もちろん今では、シド・フィールドが映画の構成分析の生みの親だと思っている)。それから彼の著作『映画を書くためにあなたがしなくてはならないことシド・フィールドの脚本術』(フィルムアート社刊)を読み、脚本家に本当に役に立つものはこれだ!と感じたのである。
それって、三幕構成のこと? そう、そのとおりだ。
でも、三幕構成だけじゃ充分じゃなかった。だだっ広い海で泳ぐのと同じで、幕と幕の間が広すぎて、途中で迷ってパニックに陥り溺れてしまうのだ。だから迷子にならないよう、途中で目印になるような島が必要だった。
「3」幕ではなく「15」のビートで物語の構成を考えるブレイク・スナイダー・ビート・シートは、三幕構成よりもより詳細で具体的なテンプレートであるため、創作者は道に迷うことなく物語を最後まで書き切ることができます。
ではブレイク・スナイダー・ビート・シートとはどんなものなのでしょうか。実際に見てみましょう。
【ブレイク・スナイダー・ビート・シート(BS2)】
脚本のタイトル:
ジャンル:
日付:
1 オープニング・イメージ (1):
2 テーマの提示 (5):
3 セットアップ (1~10):
4 きっかけ (12):
5 悩みのとき (12~25):
6 第一ターニング・ポイント (25):
7 サブプロット (30):
8 お楽しみ (30~55):
9 ミッド・ポイント (55):
10 迫り来る悪い奴ら (55~75):
11 すべてを失って (75):
12 心の暗闇 (75~85):
13 第二ターニング・ポイント (85):
14 フィナーレ (85~110):
15 ファイナル・イメージ (110):
※( )のなかの数字は、ビートの起こるページ数を示している
このテンプレートを穴埋めすることで、三幕理論にも当てはまる「よい物語」ができてしまうというのですから驚きです。
多くの観客の心を動かした多くの名作映画や小説の構成を分析すると実際にこのビート・シート通りになっています。
本書が最強の「使える」脚本術と称されている理由がお分かりになったでしょうか。
このブレイク・スナイダー・ビート・シートを説明している章は大変重要な部分なので、ぜひ実際のブレイク・スナイダーの文章で読んでみてください。こちらに本章の一部をためし読みとして公開しています。
→ためし読み
ボードをつくる
実際に書き始める前に自分の脚本を〈目で見てみる〉ための作業。適当なボードとインデックスカード、筆記具などを用いる。
ブレイク・スナイダー・ビート・シートを用いて物語の構成が決まったら、それを可視化します。
ボードというのは、下図のようにホワイトボード(のようなもの)にマスキングテープを水平に3本貼り、細長い4つの長方形に区切ったものを意味します。
この上にシーンを表すインデックスカードを並べていき、実際に目で確認しながら(時にはカードを入れ替えながら)物語の構成を調整していきます。
シーン、ストーリーの軌道、アイデア、セリフ、ストーリーのテンポなど、ボード上で動かしながら試行錯誤し、うまくいくかどうかを確認するのである。ただしこれは、あくまでも書く前の準備段階なので、ボード上でどんなに完璧な計画を立てたとしても、実際に書き始めてみたら計画が大きく変更になることもある。それは仕方がない。けれども、まずはボード上で試すことによって、脚本の問題点を発見したり修正したりすることはできる。頭のなかで練ったアイデアを視覚化し、完璧な脚本をつくる手助けをしてくれるのがボードなのだ。
インデックスカードには「シーン」を書きます。このカード(シーン)は最終的にぴったり40枚にならなければなりません。多すぎ(50枚)ても少なすぎ(20枚)てもいけません。たいていの場合カードは多くなるようで、その場合は複数のカードを1枚にまとめたり削除したりという作業が必要になります。
ボードにカードを適正枚数配置し終えることは、物語を最後まで構成し終えることを意味します。
ブレイク・スナイダーはこう述べています。
脚本を書く際の最悪の事態とは、最後まで書き終わらないことだ。当たり前のことだが、書きかけの脚本なんて売れるわけがない。でもあらかじめボードで準備をしておけば、書き終わらなかったなんてことは絶対にないのである。
ちなみに、ブレイク・スナイダー流にシーンを表現するとこのようになります。このようなカードをボード上に40枚並べていきます。
「+/-」や「><」という記号には、それぞれどのような意味や意図があるのでしょうか。それは本書を読んでご確認ください。
黄金のルール
「脚本を書くうえでものすごく役に立つ」不変かつ永遠のルール。
例:SAVE THE CAT!(危機一髪 猫を救え!)
ブレイク・スナイダーはこの「黄金のルール」をみんなに披露したくてたまらなかったようです。
この本をどうしても書きたいと思ったのは、実は単純な思いからだ。脚本を書くうえでものすごく役に立つルールを見つけたから、ぜひ発表してみんなに認めてもらいたい……。ああ! 言っちゃった。
では、そのルールとは何なのか? 本書には8つのルールが紹介されています。
【黄金のルール】
・SAVE THE CAT!
・プールで泳ぐローマ教皇
・魔法は一回だけ
・パイプの置きすぎ
・黒人の獣医(別名:マジパン多すぎ)
・氷山、遠すぎ!
・変化の軌道
・マスコミは立ち入り禁止!
これだけ読むとさっぱり意味不明ですが、ここでは本書のタイトルにもなっている〈SAVE THE CAT!〉の法則について簡単にご紹介いたします。
主人公が、危険な状態にある猫を危機一髪のところで救う(その結果、観客は主人公に好感をもつ)というのが、この〈SAVE THE CAT!〉の字面通りの意味ですが、実際には、もう少し奥深いルールです。
〈SAVE THE CAT!〉とは、主人公が置かれた状況に観客が最初から〈共感〉できるように気をつけること
例えば、『パルプ・フィクション』の冒頭に出てくるジョン・トラボルタとサミュエル・L・ジャクソンは、薬物中毒で殺し屋という設定なので、普通の人であれば彼らのことを好きになるのはなかなか難しいはずです。しかし映画の中で、彼らはフランスで売っているマクドナルドのハンバーガーについての愉快で無邪気な「爆笑もの」の会話を繰り広げます。これにより、観客は一気に彼らに好感を持つことができます。
主人公である限り、観客が好感を持ち、応援したくなるような人物でなければいけない。肝心なのは、観客が主人公を好きになるような配慮をするということなのだ! 危険の迫った猫を助けるミエミエなシーンとか、道路を渡る老人を助けるわざとらしいシーンなどを入れろと言っているのではない。
このような「脚本を書くうえでものすごく役に立つ」ルールが他にも7つあります。「プールで泳ぐローマ教皇」の解説を読むと、「なるほど」とひざを打つこと間違いありません。確かに映画の中でそういうシーンを見たことがあります。
以上『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』の押さえておくべきポイントについて簡単に説明してきました。
繰り返しになりますが、本書はおそらく世界で最も読まれており、最も「使える」物語創作術の本です。
本書には、もっと具体的な事例がもっとわかりやすい文章で説明・解説されています。ぜひ本書をご購入のうえ、ご一読ください!
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