『プレイ・マターズ』マターズ
遊びの大事さを理解するための21冊
(選・文/松永伸司)
遊び場からおもちゃ、スポーツ、ビデオゲーム、さらには遊びの美学や遊びの政治性まで。
どんなところにも発生する(してしまう/なぜならそれは人間であることに関わることだから)「遊び」について、トランスディシプリナリーに考えていく『プレイ・マターズ 遊び心の哲学』。この「21世紀の遊び論」である本書の理解がさらに深まる/もっと興味が広がる、「遊び」と「遊び心」についての21冊を、訳者の松永伸司さんにセレクトいただきました。
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1,ヨハン・ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』高橋英夫訳、中央公論新社、2019年
人間文化の根底には遊びがある!という大風呂敷を広げた20世紀遊戯論の第一の古典。遊びが持つルールと形式性を重視する。このホイジンガ的な遊び観に対するオルタナティブを目指したのが『プレイ・マターズ』である。
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2,ロジェ・カイヨワ『遊びと人間』多田道太郎・塚崎幹夫訳、講談社、1990年
ホイジンガによる遊びの定義を引き継ぎつつ、より具体的な事例に即した遊びの分類論を展開した20世紀遊戯論の第二の古典。遊びとゲームを考えるうえで、いまなお重要な洞察に満ちた本。
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3,バーナード・スーツ『キリギリスの哲学』川谷茂樹・山田貴裕訳、ナカニシヤ出版、2015年
夏に放蕩三昧だったキリギリスは、冬に飢えて死んでしまった。だが、キリギリスは不幸せだったのか? アリとキリギリスの寓話をネタに、ゲームを遊ぶことの定義と意義を問う哲学的な対話篇。
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4,イェスパー・ユール『ハーフリアル』松永伸司訳、ニューゲームズオーダー、2016年
従来の遊戯論を踏まえたゲームの定義を示し、ビデオゲームの虚実皮膜を明晰な理論に落とし込む、現代ゲームスタディーズの最重要書。遊びの「形式主義」の代表格であり、直接の言及はないものの、明らかに『プレイ・マターズ』の標的のひとつ。
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5,松永伸司『ビデオゲームの美学』慶應義塾大学出版会、2018年
『ハーフリアル』の論点を引き継ぎ、芸術哲学の観点からビデオゲームの虚実皮膜をうんたらする、日本発のゲームスタディーズ。『プレイ・マターズ』訳者の本だが、『プレイ・マターズ』では殴られる側(=形式主義)に属する(つらい)。
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6,イェスパー・ユール『しかめっ面にさせるゲームは成功する』Bスプラウト訳、ボーンデジタル、2015年
わたしたちは失敗を好まない。ゲームをすれば必ず何回かは失敗する。それなのに、なぜかわたしたちは好んでゲームをしたがる。これはいったいどういうことなのか? 『プレイ・マターズ』と同じく、手ごろなサイズ、軽めの内容、刺激的な論点を持った〈Playful Thinking〉シリーズの一冊。
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7,中沢新一・中川大地編『ゲーム学の新時代』NTT出版、2019年
国内ゲーム研究の成果がてんこ盛り。多彩な論者による多彩なトピックについての論考を集めたオムニバス。海外のゲーム研究の紹介も多数ある。
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8,松井広志・井口貴紀・大石真澄・秦美香子編『多元化するゲーム文化と社会』ニューゲームズオーダー、2019年
ゲームはいま社会のなかでどんなあり方をしているのか。ゲーム文化の内部ではどんな実践がなされているのか。主に社会学分野の研究者による、現代社会におけるゲームのいろいろな側面についての論考を集めたオムニバス。
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9,Raph Koster『「おもしろい」のゲームデザイン』酒井皇治訳、オライリージャパン、2005年
「楽しい」は作れる! ゲームの楽しさをある種の学習プロセスとして分析するゲームデザイン理論の好著。
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10,ドナルド・ノーマン『誰のためのデザイン?』(増補・改訂版)岡本明・安村通晃・伊賀聡一郎・野島久雄訳、新曜社、2015年
人の行動を、物のデザインを通じてどのようにデザインするか。アフォーダンス概念で知られるインタラクションデザイン理論の古典。「ゲームをデザインする」という考え方は、ユーザビリティを追求するノーマン的なデザイン観にかなり近い。そうした「ゲームデザイン」という発想それ自体にカウンターを仕掛けるのが『プレイ・マターズ』である。
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11,ドナルド・ノーマン『複雑さと共に暮らす』伊賀聡一郎・岡本明・安村通晃訳、新曜社、2011年
わたしたちは、なんでもかんでも「シンプル」で「わかりやすい」デザインを求める。だが、その「シンプルさ」とはいったい何なのか。むしろ、わたしたちが求めているのは複雑な機能ではないのか。プロダクトデザインにおける「シンプルさ」と「複雑さ」の複雑な関係をシンプルに解きほぐす、インタラクションデザイン理論の必読書。
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12,ナターシャ・ダウ・シュール『デザインされたギャンブル依存症』日暮雅通訳、青土社、2018年
スロットマシーンのうちに神を見る? わたしたちはどんな仕組みによってギャンブル中毒になってしまうのか。開発者やユーザーに対する多数のインタビューを通じて、「デザインされた遊び」の暗黒面を明らかにする快著。
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13,スティーブン・レビー『ハッカーズ』松田信子・古橋芳恵訳、工学社、1987年
1950年代にMITで生まれ、1960年代にヒッピー文化と隣り合わせで育ったハッカー文化は、自由と遊びの精神を尊ぶものだった。現代のインターネットカルチャーの根っこにある遊び心の源流を描く名著。
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14,ベリンダ・ウィートン『サーフィン・スケートボード・パルクール』市井吉興・松島剛史・杉浦愛監訳、ナカニシヤ出版、2019年
ライフスタイルの一部になったスポーツは、それをプレイする人自身や社会にとってどんな意味を持つのか。パルクール、スケーティング、サーフィンといった現代のライフスタイルスポーツが持つ自己表現としての側面とその政治性を論じる。『プレイ・マターズ』と同じく、カルチャーを政治的に考える研究書。
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15,高橋雄一郎・鈴木健編『パフォーマンス研究のキーワード』世界思想社、2011年
『プレイ・マターズ』が大きく依拠するパフォーマンス研究の入門書。
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16,松井広志『模型のメディア論』青弓社、2017年
具体的な「物」でありつつ何かを表象するものとしての模型は、わたしたちの社会のなかでどのような機能と役割を果たしてきたのか。「遊び道具」としてのおもちゃの性格を考えるうえで重要な示唆とケーススタディを提供してくれる良書。
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17,アレン・オブ・ハートウッド卿夫人『都市の遊び場』大村虔一・大村璋子訳、鹿島出版会、2009年
子どもの遊びのための空間は、どうあるべきであり、どうあるべきでないのか。『プレイ・マターズ』でも大きく取り上げられている「冒険遊び場」の実践者による、遊び場論の古典。
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18,クリストファー・アレグザンダー『パタン・ランゲージ』平田翰那訳、鹿島出版会、1984年
環境設計を言語になぞらえて多数の基本的な「パターン」(問題と解決方法のセット)に分解した建築理論の金字塔。目的に即して空間をデザインする方法だけでなく、インタラクションデザイン一般の問題とその解決方法を整理するための普遍的な考え方を示してくれるはず。
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19,クレア・ビショップ『人工地獄』大森俊克訳、フィルムアート社、2016年
関係性の美学や対話の美学について論じた現代の美術理論の基本書。『プレイ・マターズ』では、「遊びの美」に関連してこれらの理論が大きく取り上げられる。
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20,中川大地『現代ゲーム全史』早川書房、2016年
戦後社会の精神史という壮大な視点から、20世紀中盤から2010年代までの日米のビデオゲーム史の流れをそのときどきの時代状況と関連させて描いた野心作。
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21,増川宏一『遊戯の起源』平凡社、2017年
遊びと遊び道具はどのようなかたちで生まれたのか。遊戯史研究の第一人者が豊富な知識をもとに遊びの原初的な姿を探る逸品。
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