「母親の胎内で、あなたは足指を動かしたでしょう」。1966年から96年にかけて横浜の保土ヶ谷の稽古場で語られた未公開テープの肉声を、154編のアフォリスムにまとめた〈舞踏〉の聖典。
目次
Ⅰ わかりました、何がわかったのか
ほんの一粒の砂のようなものでも/魚が一匹入ってきた/舞台の場はお母さんのおなか/
一番心の奥底の魂/花がそこにある/どこから始めていいかわからない/あなたの顔が魂
の人格として立っている/くねくね動く/海を渡る蝶/海は常に動いている/日常の動き
とかけ離れる/人生を太く短く、細く短く/祭りは型にはまったものではない/沈黙を大
事にすること/俺はこんなに美しい/踊りながら考えない/心のなかに生き物が住んでい
る/滑ったり転んだり/生きている人と死んでいる人/花が美しいから
Ⅱ やってみてください、だからNOTHING
関節がはずれるくらいやる/でたらめの限り尽くして/どうにもならない自分/力を入れ
るとき/花に対するビューティフルという思い/魂が灰になって来る/重心が前にかかる
ように/膝を大切に/両手を空のほうに伸ばしてごらん/手をどう使うか/私の目は天
に向けられている/おまえが眠っているとき/少し体をねじるように/狐の獣の匂いが
たちこめる/山の斜面に立つ/あなたの背中だけが残った/あなたは胎児だろう/はら
わたのなかから音楽が聞こえる/無心にやることはたいへんだ
Ⅲ 愛があるけれども、わからないように
顔を見なければ/I LOVE YOU/何かいつも追い求めている/歩いていた、人間が生きて
いた/私とあなたがトーキング/宇宙意識/アルヘンチーナとTOGETHER/死者が私の中
に、共に住んでおる/母親の命はあなたとは一つでしょう/考えながら踊りができるか
/あなたの内部に銀河鉄道がかかっている/人間は海から来た/ぞろぞろあの人、この
人いっぱいくっついてきている/母親の胎内であなたは足指を動かしたでしょう/大き
な木を一本成長させるために/ひとりでいる佇まい/刀鍛冶がおる/死と生はひとつに
なる/夢を見ていればいい。ずっと無心に/踊りは抽象としてやらなければだめだ
Ⅳおまえの代わりはおまえだ
漂う勇気/イエスに花を手向けなくていい/さなぎから蝶に変わった/昆虫のダンス/
憎しみが高じてばらばらに解体してしまいたい/おまえの踊りがいま認められなくたっ
て/袋につめられた自由/時がきて風が運んできた/一筋に息が切れるところまでいっ
てしまえ/目の前に現れた魂/ほんのわずかな動きが重大な意味を/現実の世界に天国
と地獄があるのではないか/偶然ってやつは、一回こっきりだなんて信じられない/完
全なのか、不完全なのか/初心であっても未熟であっても/前衛とは
プロフィール
[著]
大野一雄(おおの・かずお)
1906年生まれ。舞踏家。女学校で教職をとるかたわらモダンダンスを学び、石井漠、江口隆哉に師事。その後、兵役によって活動を中断。戦後ニューギニアより復員し、1949年に第1回リサイタルをもつ。60年代には、暗黒舞踏の創始者・土方巽との共演を始めながら独自の表現を模索。青年時代に出会ったスペイン舞踏の舞姫・ラ・アルヘンチーナをたたえる独舞踏「ラ・アルヘンチーナ頌」を1977年に発表し高い評価を受ける。1980年、74歳にして第14回ナンシー国際演劇祭で公演し、世界の舞踏界に衝撃を与える。以後、欧米各地で公演を行い、圧倒的支持を受け、2010年、103歳で召天。代表作に「ラ・アルヘンチーナ頌」「わたしのお母さん」「死海」「睡蓮」などがある。