俺は自分の生きたいように生きているだけだ
――ブロンコ・ビリー/クリント・イーストウッド
『ローハイド』から『クライ・マッチョ』まで、
時に俳優として、時に監督として、あるいはその双方を担い、
半世紀を超えて〈アメリカ〉という荒野を歩み続けた巨匠を知る。
アカデミー賞を2度受賞し40本もの映画を監督してきた、映画界で最も尊敬される存在のひとり、クリント・イーストウッド。2024年に94歳の誕生日を迎えるも、ハリウッドの常識など意に介さず、三四半世紀に近しい時間を、ほとんど休むことなくこの業界で働きつづけている。
本書では監督としての〈イーストウッド〉のみならず、初期の代表作『ローハイド』、セルジオ・レオーネ「ドル箱三部作」(『荒野の用心棒』、『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン』)、師と仰ぐドン・シーゲルとタッグを組んだ『ダーティハリー』『アルカトラズからの脱出』以来の、自身の監督作でも継続している俳優〈クリント〉のあり方についてもジグザグに見つめていく。
初監督長編『恐怖のメロディ』、アカデミー賞(作品・監督)を受賞した『許されざる者』『ミリオンダラー・ベイビー』、硫黄島の戦いを日米双方の視点から描いた『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』、最新作『Juror #2』(原題)に至るまでの全キャリア――すなわち俳優や監督として、〈アメリカ〉の象徴になるまでの人生の軌跡を、豊富なスチール写真やオフショットとともにふりかえる。
本書で主に掘り下げるのはイーストウッドの監督としてのアイデンティティだ。とはいえ、その核心はひとりの芸術家を探求することにある。そういう意味で彼以上に素晴らしい題材はおそらく存在しないだろう。イーストウッドがたどってきた人生の旅路に同行するように地図を描くことができれば、戦後のハリウッドやアメリカ国家全体の雰囲気の推移をまざまざと目撃することができるはずだ。イーストウッドは映画がアメリカをどう定義したのかを、もしくは、アメリカが映画をどう定義したのかを、身をもって見せてくれている。(本書「イントロダクション」より)
目次
イントロダクション
華麗なる流れ者
初期 (1930–1971)
映画監督としての台頭
『恐怖のメロディ』(1971)
『ダーティハリー 』(シーン)(1971)
『荒野のストレンジャー』(1973)
『愛のそよ風』(1973)
『アイガー・サンクション』(1975)
奇抜な西部劇
『アウトロー』(1976)という不思議な物語
至高のミニマリズム
クリント・イーストウッドの名演10選
アメリカン・ストーリーテラー
『ガントレット』(1977)
『ブロンコ・ビリー』(1980)
『ファイヤーフォックス』(1982)
『センチメンタル・アドベンチャー』(1982)
『ダーティハリー4』(1983)
市長
『タイトロープ』(監督クレジットなし、1984)
『ペイルライダー』(1985)
『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986)
『バード』(1988)
『ホワイトハンター ブラックハート』(1990)
『ルーキー』(1990)
最後の大仕事
『許されざる者』(1992)の素晴らしさ
不敵の象徴
『パーフェクト・ワールド』(1993)
『マディソン郡の橋』(1995)
『目撃』(1997)
『真夜中のサバナ』(1997)
『トゥルー・クライム』(1999)
『スペース・カウボーイ』(2000)
『ブラッド・ワーク』(2002)
『ミスティック・リバー』(2003)
アメリカン・ソウル
『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)という感動の偉業
「クリント」の総てを網羅する
フィルムメイカーとしての50年のキャリアを語りつくすために
ハリウッドの巨匠
『父親たちの星条旗』(2006)
『硫黄島からの手紙』(2006)
『チェンジリング』(2008)
『グラン・トリノ』(2008)
『インビクタス/負けざる者たち』(2009)
『ヒア アフター』(2010)
不滅の名声
『J・エドガー』(2011)
『ジャージー・ボーイズ』(2014)
『アメリカン・スナイパー』(2014)
『ハドソン川の奇跡』(2016)
『15時17分、パリ行き』(2018)
『運び屋』 (2018)
『リチャード・ジュエル』(2019)
『クライ・マッチョ』(2021)
出典
献辞
プロフィール
イアン・ネイサン(Ian Nathan)
映画ライター。著書に『クエンティン・タランティーノ 映画に魂を売った男』『ウェス・アンダーソン 旅する優雅な空想家』『ギレルモ・デル・トロ モンスターと結ばれた男』『クリストファー・ノーラン 時間と映像の奇術師』(以上、フィルムアート社)『ティム・バートン 鬼才と呼ばれる映画監督の名作と奇妙な物語』(玄光社)などがある。映画雑誌『エンパイア』の編集者およびエグゼクティブ・エディターを務めた後、現在は『エンパイア』誌の他、『タイムズ』紙、『インディペンデント』紙、『メイル・オン・サンデー』紙、『カイエ・デュ・シネマ』誌などに寄稿を行なっている。
吉田俊太郎(よしだ・しゅんたろう)
英国と日本を頻繁に行き来しながら主に映画・映像とライフスタイルの両分野で翻訳活動をしている。主な訳書に『空想映画地図[シネマップ]』、『クエンティン・タランティーノ―映画に魂を売った男』、『ストーリーボードで学ぶ物語の組み立て方』(以上、フィルムアート社)、『映画もまた編集である―ウォルター・マーチとの対話』、『習得への情熱』(以上、みすず書房)、『死の仕事師たち』(白揚社)など多数。