女の子のための西洋哲学入門

思考する人生へ

メリッサ・M・シュー+キンバリー・K・ガーチャー=編
三木那由他+西條玲奈=監訳
青田麻未/安倍里美/飯塚理恵/鬼頭葉子/木下頌子/権瞳/酒井麻依子/清水晶子/筒井晴香/村上祐子/山森真衣子/横田祐美子=共訳
発売日
2024年11月26日
本体価格
3,300円+税
判型
四六判・並製
頁数
568頁
ISBN
978-4-8459-2107-2
Cコード
C0010
装丁
畑ユリエ
装画
渡辺明日香
原題
Philosophy for Girls: An Invitation to the Life of Thought

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これまでの「男性のための哲学」ではない、もうひとつの哲学へ。

「女の子」が成長し大人になっていく過程で考えるべき哲学の問いを解きほぐし、
「自由に思考を広げること」、そして「自分の力で考えながら生きること」の楽しさとかけがえのなさを説く。
女性哲学者たちがいざなう、かつてない哲学入門・画期的エンパワメントの書!

あなたは、哲学の歴史のなかで、女性の哲学者の名前を10人挙げられますか? 3人ならどうでしょう? ほとんどの人にとって、それはむずかしいことなのではないでしょうか。
女性は長い間、哲学の分野で疎外されてきました。なぜなら、彼女たちの貢献は歴史的に男性たちの業績として扱われたり、あたかも貢献など存在しないかのように葬り去られたりしてきたからです。

本書は、女性哲学者たちが「自分が18歳から20歳くらいだった頃を振り返り、自分自身の疑問を見つけ、知的に成長しつつあるその時期に、どんな本があったらよかったか、そしてその本にどんな章があったらよかったか」というテーマで執筆した、新しい「哲学への扉」とでもいうべき本です。
女の子や若い女性を哲学的な思考へと招き入れ、哲学的に物事を考えてみるよう勇気づけるものです。

哲学に触れ始めたばかりのひとにもおすすめできるこの本は、哲学的な問いとは何か、そしてそれが女の子や女性の生活や人生にどのように当てはまるのか、幅広い視点と思考を広げていくヒントを提供します。
本書では、哲学のおもな分野(形而上学、認識論、社会哲学・政治哲学、倫理学)が扱われます。どこからでも読める章立てなので、構える必要はありません。ジェンダーと哲学の交差点について興味のあるひとにとって必ず役立つ1冊となるでしょう。
例えば、アイデンティティや自律といった自己のあり方、科学や芸術や疑いといった知のあり方、人種やジェンダーといった社会構造や権力関係が私たちの現実をどのように形づくるのか、そして、怒りや共感や勇気などの感情と倫理の関わりを現実の問題の中でどのように考えていけるのか。
2020年代の今を生きる私たちにとっても切実で、好奇心を刺激する哲学的なテーマを、生き生きと魅力的な文体で、親しみやすく説いていきます。

いままさに女の子であるあなた、あの頃女の子だったあなた、これから女の子になっていくあなた、女の子と見なされたことのあるあなた、女の子のことをもっと理解したいあなたへ──すべてのひとを歓迎する、私たちのための哲学への招待です。

 

この世界で何ができるか確かめてみよう。結局、自分のほかに誰も知識を与えることはできず、この世界も向こうの世界も理解するのは自分次第なのだから。自分のために感じ取り、学び、生きなければなりません。
(中略)
要するに、彼女の行く道は哲学の道にたどり着くものです。思索に満ち、慎重を要する、そして好奇心を掻き立てる道です。
(中略)
あなたもこの輪に招かれているのです。

(「プロローグ」より)

西洋哲学の歴史はおおむねシスジェンダーの、ヘテロセクシュアルの、白人の男性たちの思考の歴史でした。もちろん実際には優れた女性哲学者は何人もいたのですが、西洋哲学の解説のなかで彼女たちが話題になることは、ごく最近の哲学者の場合を除くとあまりありません。日本で西洋哲学について解説するひとも、ほとんどはシスジェンダーで、ヘテロセクシュアルで、人種的・民族的マジョリティの男性たちでした。そしてそうした男性たちが、自分自身の経験を具体例として挙げたりしながら、過去の男性哲学者たちの思想を引用し、哲学への導入を用意してきました。
だから、これまでの西洋哲学の入門書は言ってみればずっと『男の子のための西洋哲学入門』ばかりになっていました。男性が、男性哲学者の話を、男性である自身の経験を例として使いながら解説していたのです。そんな入門だらけだと、どうしても女性や女の子にとってはどうにも入りづらい門ばかりになってしまいますよね。だからこそ、この本はあえて「女の子のための」と銘打っています。もともとどの性別向けでもなかったもののなかに「女の子用」をつくるためではなく、もともと「男の子用」だった世界に「男の子用」でない場所をつくるためです(本当は『ノンバイナリーの若者のための西洋哲学入門』もあってしかるべきなのですが、残念ながらいまのところ実現していません)。

(「監訳者まえがき」より)


目次

監訳者まえがき
謝辞
プロローグ ペルセポネー──あなたへの招待状 メリッサ・M・シュー/西條玲奈訳
はじめに メリッサ・M・シュー&キンバリー・K・ガーチャー/三木那由他訳

第Ⅰ部 自己
第1章 アイデンティティ(同一性)──世界内存在と生成 ミーナ・ダンダ/酒井麻依子訳
第2章 自律──自分に正直でいること セレン・J・カダー/筒井晴香訳
第3章 プライド──徳と悪徳の複雑さ クラウディア・ミルズ/飯塚理恵訳
第4章 問い──哲学の核心 メリッサ・M・シュー/横田祐美子訳
第5章 自己知──反省の重要性 カレン・ストール/安倍里美訳

第Ⅱ部 知ること
第6章 論理学──フェミニストアプローチ ジリアン・ラッセル/山森真衣子訳
第7章 疑い──認識と懐疑主義 ジュリアン・チャン/村上祐子訳
第8章 科学──客観性の正体を暴く サブリナ・E・スミス/村上祐子訳
第9章 技術──経験と媒介された現実 ロビン・L・ゼブロフスキー/西條玲奈訳
第10章 芸術──見ること、考えること、制作すること パトリシア・M・ロック/青田麻未訳

第Ⅲ部 社会構造と権力関係
第11章 信用性──疑いに抵抗し、知識を捉え直す モニカ・C・プール/木下頌子訳
第12章 言語──コミュニケーションでの集中攻撃パワープレイ エリザベス・キャンプ/三木那由他訳
第13章 人種──「人間」という概念に見られる存在論上の危険性 シャノン・ウィナブスト/権瞳訳
第14章 ジェンダー──二分法とその先に向けて シャーロット・ウィット/清水晶子訳
第15章 承認──クィア・エイリアン・ミックスの意識を生きる シャンティ・チュウ/清水晶子訳

第Ⅳ部 現実の中で考える
第16章 怒り──抵抗の身振りとしてメドゥーサ話法を利用する ミーシャ・チェリー/西條玲奈訳
第17章 コンシャスネス・レイジング(意識高揚)──社会集団と社会変革 タバサ・レゲット/木下頌子訳
第18章 ツェデク──なすべきことをする デヴォラ・シャピロ/鬼頭葉子訳
第19章 共感──人間と人間以外の動物との絡み合う関係性 ローリー・グルーエン/鬼頭葉子訳
第20章 勇気──作動する改善説 キンバリー・K・ガーチャー/酒井麻依子訳

監訳者あとがき
著者紹介
訳者紹介
索引

プロフィール

[編著]
メリッサ・M・シュー(Melissa M. Shew)
マーケット大学客員助教。専門、関心領域は古代ギリシャから現代哲学、文学と芸術の哲学、さらには教育学まで多岐にわたる。研究においては学生たちと同様に、真正性、対話、偶然、さらには人生を一変する出来事が持つ力の理解といった事柄に立ち戻るようにしている。大学で15年間教壇に立ち、さらに女子大付属高校で5年間にわたって教鞭をとり、教育を通じて若い女性や女の子をエンパワーすることへの強い信念を現実のものとしている。哲学には文学、音楽、神話、政治学、芸術を通じて触れるようになった。

キンバリー・K・ガーチャー(Kimberly K. Garchar)
ケント州立大学系列大学のノースイースト・オハイオ医科大学大学院哲学准教授。専門はアメリカプラグマティズム、倫理学、臨床倫理、特に死と終末期。現在の研究プロジェクトは、人間の苦しみについての洞察であり、苦しみとは何を意味するものでどのように人はそれに反応するのかを研究している。数学をきっかけに哲学に興味をもち、教育とキャリアを通じてジェンダー問題とジェンダー平等に目を向けてきた。夏になると自分のうちの庭にいたり、カヤックに漕いだりしているか、最高の水泳場所を探してふらふらしています。

[監訳]
三木那由他(みき・なゆた)
大阪大学大学院人文学研究科講師。専門は分析哲学。もともとはコミュニケーションの成立条件について考えていたが、最近はそれから発展して、コミュニケーションがときに不当なものや抑圧的なものになる仕組みに関心を持っている。著書に『話し手の意味の心理性と公共性』(勁草書房)、『グライス 理性の哲学』(勁草書房)、『会話を哲学する』(光文社新書)や、『言葉の展望台』、『言葉の風景、哲学のレンズ』、『言葉の道具箱』(いずれも講談社)がある。トランスジェンダー当事者として『反トランス差別ブックレット』(現代書館)などにも寄稿している。漫画やゲームが好きで、疲れているときには黙々とゲームをしがち。

西條玲奈(さいじょう・れいな)
東京電機大学工学部人間科学系列助教。専門は分析フェミニズムやロボット倫理学。技術者倫理学や研究倫理の授業にフェミニズムの観点を取り込んだり、学会でのハラスメント対策に従事したり、差別による排除を取り除く試みをおこなう。共著に『〈ひと〉から問うジェンダーの世界史[第3巻] 「世界」をどう問うか?』(大阪大学出版会)、『クリティカル・ワード ファッションスタディーズ──私と社会と衣服の関係』(フィルムアート社)がある。学会出張などではいつもぬいぐるみを連れていく。他にぬいぐるみ連れの参加者を見かけるとぬいぐるみ同士の写真を撮らせてもらうこともある。

[訳](50音順)
青田麻未(あおた・まみ)
群馬県立女子大学文学部専任講師。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。日本学術振興会特別研究員PD(成城大学)を経て、現職。専門は環境美学・日常美学で、私たちの暮らしのなかでの感性のはたらきについて哲学的な探究をおこなっている。主な著作に『環境を批評する──英米系環境美学の展開』(春風社)、『「ふつうの暮らし」を美学する──家から考える「日常美学」入門』(光文社新書)、主な論文に「生活のリズム──現代の日常美学とジョン・デューイ」(『美学』264号)、「都市のモビリティによる「セレンディピティ」の美的経験──ネットワークベースの都市的発見」(『Contemporary and Applied Philosophy』15巻)などがある。

安倍里美(あべ・さとみ)
神戸大学大学院人文学研究科の講師。専門はメタ倫理学。特に規範的理由と道徳性の関係に関しての議論を続けている。主な著作、論文に『3 STEPシリーズ 応用哲学』「第9章 予防医療──私たちが目指す「健康」とはどのようなものか」(昭和堂、分担執筆)、『3 STEPシリーズ 倫理学』「第13章 理由──「道徳性」ではなく「規範性」から出発する」(昭和堂、分担執筆)、「義務の規範性と理由の規範性──J・ラズの排除的理由と義務についての議論の検討」(『イギリス哲学研究』42号)などがある。

飯塚理恵(いいづか・りえ)
広島大学共創科学基盤センター特任助教。認識論と倫理学とフェミニスト哲学が交差する領域に興味を持ち、徳認識論や認識的不正義の研究をおこなってきた。近刊の「Jishin: Intellectual Confidence Has a Prominent Place in Understanding Epistemic Flourishing for Japanese Women」(Alternative Virtues, Edited by Koji Tachibana, Routledge所収)では、日本人女性にとっての認識徳(善く知るために必要な性格)として、自信の重要性を説いた。近年は、新規科学技術が社会にもたらす倫理的・法的・社会的課題(ELSI)の研究をおこなっているが、その際、自身ががん患者・遺伝病の当事者であることを生かし、当事者の視点を社会にどう反映させられるかという観点から取り組んでいる。

鬼頭葉子(きとう・ようこ)
同志社大学文学部哲学科准教授。専門は宗教哲学、キリスト教学、倫理学。著書に『動物という隣人──共感と宗教から考える動物倫理』(新教出版社)、『時間と空間の相克──後期ティリッヒ思想再考』(ナカニシヤ出版)他。宗教哲学者ティリッヒに倣い、哲学とキリスト教学とのあいだに立って思索することを目指している。近年、宗教哲学の観点から考える動物倫理や、ヒューム哲学における宗教と、(宗教なしに成立する)道徳の関係に関心を持っている。趣味は散歩に出かけ、素敵な野生の鳥たちに出会うこと。散歩の途中で野良暮らしの猫にも出会ってしまい、シニア猫を2匹引き取ることに。彼女らのケアや介護に明け暮れている。

木下頌子(きのした・しょうこ)
桐朋学園大学音楽学部ほか非常勤講師。専門は分析哲学。論文に「種名の指示の理論に基づく形而上学的方法論の評価」(『科学哲学』52巻1号)、「現実に立ち向かうための分析フェミニズム」(『現代思想』2020年3月臨時増刊号〈特集゠フェミニズムの現在〉)。翻訳に『分析フェミニズム基本論文集』(慶應義塾大学出版会、共編訳)、セオドア・グレイシック『音楽の哲学入門』(慶應義塾大学出版会、共訳)など。

権瞳(くぉん・ひとみ)
阪南大学国際学部国際コミュニケーション学科教授。大学では英語教育、多文化共生に関するゼミなどを担当。編著に『公立学校の外国籍教員──教員の生(ライヴズ)、「法理」という壁』(共編著、明石書店)がある。アメリカの黒人学校の成立や現状、日本においては在日コリアンらを含むマイノリティの教育に関心がある。ブラック・ミュージック好きで、アメリカ史や文化・社会についても音楽から多くを学んでおり、現在も継続中。

酒井麻依子(さかい・まいこ)
立命館大学衣笠総合研究機構、間文化現象学研究センター助教。専門は現象学と20世紀フランス思想。著書に『メルロ゠ポンティ 現れる他者/消える他者──「子どもの心理学・教育学」講義から』(晃洋書房)、共著に『フェミニスト現象学──経験が響きあう場所へ』(ナカニシヤ出版)、『メルロ゠ポンティ読本』(法政大学出版)、共訳にメルロ゠ポンティ『子どもの心理−社会学 ソルボンヌ講義2』(みすず書房)、ヘレン・ンゴ『人種差別の習慣──人種化された身体の現象学』(青土社)などがある。異なりつつも重なるところを持つ人間たちが共に生きているということについての関心を一貫して持っており、現在は批判的現象学の立場から研究を進めている。

清水晶子(しみず・あきこ)
東京大学大学院総合文化研究科教授。専門はフェミニズム/クィア理論。私たちがどのような言葉やイメージ、どのような枠組みで、自分の欲望や身体を理解し、生きているのかを、文化的な歴史や社会・経済的な背景、政治的諸力との関わりから考えている。主な著書に『フェミニズムってなんですか?』(文春新書)、『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』(共著、有斐閣)、『読むことのクィア──続 愛の技法)』(共著、中央大学出版部)など。政治よりも大事なのは飼い犬。

筒井晴香(つつい・はるか)
実践女子大学人間社会学部社会デザイン学科准教授。専門は哲学、応用倫理学、ジェンダー研究。「2.5次元」や「推し」文化といったポピュラーカルチャーに関する批評・研究もおこなっており、今日のメディア技術の中で生きる人々の自己や親密性のあり方に関心を持つ。共著に『入門 科学技術と社会』(ナカニシヤ出版)、『アイドルについて葛藤しながら考えてみた──ジェンダー/パーソナリティ/〈推し〉』(青弓社)など。自身もオタクであり、アニメやマンガのキャラクターの生き様に胸打たれる中でジェンダー・セクシュアリティや自律の問題を考えるようになった。ミュージカル『テニスの王子様』が大好き。

村上祐子(むらかみ・ゆうこ)
立教大学大学院人工知能科学研究科教授。専門は論理学だったはずが、気づくと論理学者の伝記の翻訳をはじめとして何でも屋になっており、なかでもずっと需給バランスが崩れている情報科学技術まわりの哲学・倫理周辺の受注が増える一方となっている。50歳で始めたバイオリンが全然練習していないピアノ(2歳から)のレベルにたどり着くことを願う。

山森真衣子(やまもり・まいこ)
東京大学大学院総合文化研究科・日本学術振興会特別研究員(PD)。関西大学非常勤講師。専門は自己言及のパラドクスを中心とする哲学的論理学。主な論文に「Critique of Previous Comprehensive Studies of Self-referential Paradoxes」(Tetsugaku (3) 2019)、「広義の自己言及のパラドクスの一般構造と解決方法」(『哲學研究』605号、2019年)など。国際学会での発表多数。おいしいものが大好き。2022年4月7日没。2024年1月その遺志を引き継ぐ山森真衣子基金が設立される。
*2022年4月当時のプロフィールをもとに監訳者が近親者の承諾を得て作成。

横田祐美子(よこた・ゆみこ)
横浜美術大学美術学部美術・デザイン学科教養科目研究室助教。立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員、同研究機構助教を経て現職。専門は現代フランス哲学で、ジョルジュ・バタイユの思想や脱構築思想、エクリチュール・フェミニンなどの研究をおこなっている。著書に『脱ぎ去りの思考──バタイユにおける思考のエロティシズム』(人文書院)、共訳書にカトリーヌ・マラブー『抹消された快楽──クリトリスと思考』(法政大学出版局)、『泥棒!──アナキズムと哲学』(青土社)など。