イメージやモノが氾濫し、群島化した世界にふさわしい「オルターモダニティ」とは?
翻訳の思考を通して現代の美術批評を素描する。
今日の旅する人(ホモ・ウィアートル)としてのアーティストたち──
時空間のなかを浮遊しながら根を伸ばし張りなおしていくような、その「ラディカント」的実践の分析から、文化や想像力の標準化に抗するしなやかな美学が浮かびあがる。
「関係性の美学」を提唱したキュレーター、ニコラ・ブリオーの著書、待望の初邦訳!
グローバル化され「大きな物語」「歴史」を失って久しい現代、さまざまな形態、イメージ、モノ、言説が氾濫し、差異が重要性をもつ世界を読み解くのにふさわしい美学とはどのようなものだろうか?
ブリオーは、起源としての唯一の「根」を讃えた「ラディカル」なモダニズムとも、多文化主義的なポストモダンや多様で同時的な組織網たるリゾーム(地下茎)とも異なる、前進するにつれて根を伸ばし張りなおしていく「ラディカント(radicant)」的あり方を備えたモダニティ=オルターモダンという視座を提示する。
そこで重要なのは、翻訳の身振りであり、イメージを他のコードに変換し、みずからの根を異質なフォーマットに移植することである。
アーティストたちは他の時代や場所の素材を使用・転用し、記号航海士として放浪しながら現代の文化的風景の中に道筋をつくりだしていく。
1998年、『関係性の美学(原題:Esthétique relationnelle)』で美術の新たなパラダイムを切り拓いたブリオーが、21世紀の今日的状況を考察するため、旅人としてのアーティストたちの実践を通して新しい時代のしなやかな美学を描き出した、文化や想像力の標準化に抗するための挑戦的一冊。
メディア掲載
-
『美術手帖』2022年4月号 評者:中島水緒
-
『週刊読書人』2022年3月26日号 評者:増田展大
-
『図書新聞』2022年4月16日号 評者:宗近真一郎
目次
まえがき
序論
第一部 オルターモダニティ
1 根――ポストモダン理性批判
2 ラディカルとラディカント
3 ヴィクトル・セガレンと二一世紀のクレオール
第二部 ラディカントの美学
1 美学的不安定性と放浪する形態
2 形態゠行程
3 移転
第三部 航海論
1 文化的な雨のなか(ルイ・アルチュセール、マルセル・デュシャン、芸術的形態の使用)
2 芸術的集産主義(コレクティヴィズム)と道筋の生産と道筋の生産
ポスト・ポスト、あるいはオルターモダンの時代
訳者あとがき
プロフィール
[著]
ニコラ・ブリオー(Nicolas Bourriaud)
1965年生。キュレーター、作家、美術批評家。パレ・ド・トーキョー、テート・ブリテン、エコール・デ・ボザールなどの要職を経て、現在モンペリエ・コンタンポラン・ディレクター。本書以外の主な著書に以下がある。Esthétique relationnelle, Dijon, Les Presses du réel, 1998 ; Formes de vie. L’art moderne et l’invention de soi,, Paris, Denoël, 1999 ; Postproduction. La culture comme scénario : comment l’art reprogramme le monde contemporain, Dijon, Les Presses du réel, 2002 ; L’Exforme. Art, idéologie et rejet, Paris, PUF, 2017 ; Inclusions. Esthétique du capitalocène, Paris, PUF, 2021.
[訳]
武田宙也(たけだ・ひろなり)
1980年生。京都大学大学院人間・環境学研究科准教授。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。博士(人間・環境学)。専門は哲学、美学。主な著書に、『フーコーの美学――生と芸術のあいだで』(人文書院、2014年)、『フーコー研究』(共著、岩波書店、2021年)、『ミシェル・フーコー『コレージュ・ド・フランス講義』を読む』(共著、水声社、2021年)、主な訳書に、ロベルト・エスポジト『三人称の哲学――生の政治と非人称の思想』(共訳、講談社、2011年)、ジャン・ウリ『コレクティフ――サン・タンヌ病院におけるセミネール』(共訳、月曜社、2017年)、マキシム・クロンブ『ゾンビの小哲学──ホラーを通していかに思考するか』(共訳、人文書院、2019年)などがある。