文芸翻訳の最前線で活躍する著名な翻訳家たちが、翻訳に関する疑問やテクニックについて執筆。
翻訳初心者、あるいは海外小説の読者にも最適な入門書がついに登場!
「下線部和訳には模範解答がありますが、翻訳には正解はありません。すべてを一から作っていくために、翻訳者は、気がついたこともなかった表現が自分のなかから出てくることに驚くことがよくありますし、いろんな本を読んだり人と話し合ったりするなかで、ふとヒントをもらうこともあります。その瞬間の、『あ、そうか』というひらめきに、翻訳の楽しみは凝縮されています。
そして、完成した作品を楽しみに待っている人がいることも、翻訳の大きな喜びです。言葉を紡ぎ直すことは、原作から手紙を受け取り、しばらく手元に置いて、どこに届くかわからない別の手紙にして投函するようなものです。ふとしたきっかけでそれを受け取った人のなかには、その言葉に勇気づけられて、自分でもなにかを書いてみよう、表現してみようという気持ちになる人も出てきます。こうして、言葉はつながり、また新しい世界を紡いでいきます。
文芸翻訳に足を踏み入れ、言葉を紡ぎ直すこと、それは終わることのない対話に参加することなのかもしれません。作品と対話して、自分のなかにある表現とも相談する。過去も現在も含めて、翻訳をめぐる人たちや言葉たちと向き合って、そこからヒントをもらう。そして、翻訳した言葉を待っている人たちのもとへ、つまりは未来に送り出していく。どこを向いても、言葉を愛し、表現することを愛する人たちがいます。
この本には、翻訳を心から愛する人たちが集まっています。どのページをめくっても、翻訳の言葉と向き合う、真剣な言葉が詰まっています。そうした言葉がみなさんのもとに届いて、自分も翻訳してみたいという気持ちを後押しするものになってくれたら、これほど嬉しいことはありません。」藤井光
(Introduction 「下線部和訳から卒業しよう」より)
メディア掲載
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『日本経済新聞』 2017年4月8日
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『京都新聞』2017年5月10日
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『週刊金曜日』評者:鈴木みのり
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『英語教育』2017年7月号
目次
Introduction:下線部和訳から卒業しよう ―― 藤井光
Basic Work1:「下線部を翻訳しなさい」に正解はありません それでも綴る傾向と対策(一五〇年分) ―― 藤井光
Basic Work2:なぜ古典新訳は次々に生まれるのか? ―― 沼野充義
Style:私にとっての名訳と訳者の工夫・こだわり ―― 谷崎由依・阿部公彦・管啓次郎
Actual Work1:小説翻訳入門 ―― 西崎憲
Actual Work2:翻訳授業の現場から ―― 藤井光
Actual Work3:翻訳の可能性と不可能性 蒸発する翻訳を目指して ―― 笠間直穂子
Expanded Work:映画字幕の冒険 翻訳以上、創作未満 ―― 渋谷哲也
Q&A:翻訳家への12の質問 ―― 阿部賢一・宮下遼・斎藤真理子
・訳したいと思う小説はどんな小説ですか?
・二人で訳す場合はどのような手順で翻訳しますか?
・訳注をつけることは必要だと思いますか?
・もし訳注をつけることになれば、 そのときに気をつけるべきポイントは何ですか?
・AI(人口知能)が翻訳をする日は近いのでしょうか?
・翻訳行為は楽譜の演奏や舞台俳優に喩えられることがありますが、何かに喩えるとすれば?
・著者に直接質問したりしますか?
・「この作家、あの作家に影響を受けているな」と気づいたりしますか?
・一つの国のなかに二つ以上の文化圏が存在していることを意識したりしますか?
・初めて読んだ翻訳小説と夢中になって読んだものは何ですか?
・原文にあるユーモアを活かすコツってありますか?
・良い翻訳ってどんな翻訳ですか?
・翻訳家に向いてる人ってどんな人でしょうか?
Favorite:私の好きな翻訳書と翻訳書の魅力 ―― 温又柔・小林エリカ・戌井昭人
Afterword:未来の翻訳者のみなさんへ ―― 藤井光
プロフィール
[著]
藤井光 (英文学者、同志社大学文学部英文学科准教授)
沼野充義 (スラヴ文学者、東京大学教授)
阿部公彦 (英文学者、東京大学准教授)
管啓次郎 (比較文学者、詩人)
谷崎由依 (小説家、翻訳家、近畿大学講師)
笠間直穂子 (フランス文学、國學院大學)
西崎憲 (小説家、翻訳家、作曲家)
渋谷哲也 (ドイツ映画、東京国際大学教授)
阿部賢一 (チェコ文学者、東京大学准教授)
宮下遼 (トルコ文学、大阪大学言語文化研究科助教)
斎藤真理子 (ライター、エディター、韓国語翻訳)
温又柔 (台湾籍の日本の小説家)
小林エリカ (女性漫画家、作家、エスペランティスト)
戌井昭人 (日本の俳優、劇作家、小説家)