いい映画は、いい脚本から生まれる!
「三幕構成」の完全解説。すべての脚本術はこの本からはじまった
世界で一番読まれているシド・フィールドの脚本術の邦訳です。世界で初めて映画の脚本を分析し、構成のパラダイムを考え出した著者が、映画の持つ力と本質を教える名指南書。あらゆる物語創作の基礎となる「三幕構成」について解説した必読の1冊です。現在存在するほとんどの脚本術・物語創作術は、本書を下敷きにしているといっても過言ではありません。物語創作の正典(カノン)ともいうべき必読書。
「拙いシナリオからは、どんな名監督の手にかかっても、良い作品は生まれない。徹底したディテールと構造の考察が、傑作をうむことを教えてくれる。」
――山田洋次「勉強になりました。クールに時に熱く書かれた脚本の名指南書。」
――犬童一心
脚本の本質は、映像を扱うという点にある。ストーリーを語る会話とト書きが、劇的な構造を持つ文脈の中に、映像によって配置されたものであると言えよう。これがもっとも重要な本質である。なぜなら、脚本は、映像で語られるストーリーだからだ。
そこで、新しい疑問が湧きあがる。すべてのストーリーが持っている共通点は何か? それは“発端”“中盤”そして“結末”があるということである。
「その通りの順番である必要はないが」とジャン=リュック・ゴダールは言ったが、脚本は、そのかたちを作り出す基本的で直線的な構造を持つ。それによって、個々の要素やいろいろなものが、一つのストーリーラインにまとめられるのである。
脚本の構造の原理を理解するために、言葉を分析してみよう。構造という言葉は、そもそも、それぞれ関連性のある二つの意味を指している。一つ目の意味は、「築く」や「何かを一つにする」である。二つ目は、「部分と全体との関係性」という意味である。
部分と全体。これは重要な特徴である。部分と全体との関係性とは何か? それぞれどのように分類されるのであろうか?
チェスを例にしてみよう。チェスは四つの部分からなる。
1.駒。
2.プレーヤー。
3.盤。
4.ルール。これらの四つの部分によってはじめて全体になる。部分と全体の関係によってゲームとして成り立っているのである。
この考えはストーリーにたいしても当てはめることができる。ストーリーを全体と仮定すると、ストーリーを構築するいくつかの要素があることに気づく。その要素とは、動き、キャラクター、葛藤、シーン、シークエンス、会話、アクション(行動)、第一幕、第二幕、第三幕、出来事、ェピソード、事件、音楽、場所などである。これらの要素が部分となって、ストーリーという全体を成立させている。これが関係性である。
よい構成は、氷と水のようなものだ。氷は結晶構造を持っている。水は分子構造である。氷が溶けてしまったら、どの分子が氷のものであるのかを示すことはできない。
構成とは、ストーリーを一つにしておく糊のようなものだ。構成は、ストーリーにとって基礎であり、土台であり、骨格である。構成という関係性によって、脚本は一本にまとめられているのである。これが物語構造のパラダイム(見取り図)である。
(本書「第1章 映画脚本とはなにか」より)
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目次
第1章 映画脚本とはなにか
フィッツジェラルドの悩み
映画脚本とは、映像で語られるストーリーである
脚本のパラダイム(見取り図)を知ろう
第一幕 状況設定
第二幕 葛藤
第三幕 解決
パラダイムと公式の違い
第2章 主題(テーマ)を作る
どんな脚本も主題(テーマ)を持っている
主題(テーマ)とは、アクション(行動)とキャラクターだ
何についての、誰についての脚本か?
主題(テーマ)を数行で表現してみよう
いい脚本は“素材の多さ”
リサーチの実践方法
キャラクターの欲求とそのアクション
第3章 登場人物(キャラクター)を創造する
事件がストーリーをゴールへ導く
人物像を創り上げるのはアクション
まずは、主役をはっきりさせよう
キャラクターの内面を構築しよう
キャラクターの外面を構築しよう
アクションが、登場人物像を物語る
第4章 登場人物(キャラクター)を構築する
サム・ペキンパーのキャラクター構築術
魅力的なよい登場人物を作るための四つの要素
その人独自の考え方、ものの見方をもっていること
あるものに対する態度を体現していること
何かしらの変化や変身を遂げること
キャラクターの最重要部分は、アクションである
第5章 ストーリーと人物設定
アイデアが先か、キャラクターが先か
あなたも一緒にキャラクターを作り、ストーリーを考えよう
出身は? 年齢は?
名前は?
家庭環境は?
人物像は?
キャラクターに影響を与える外面は?
キャラクターの次はアクションだ
キャラクターに影響を与える劇的な出来事とは?
さらに劇的な出来事は?
これまでのアイデアを組み立てよう
エンディングは?
考えたストーリーをまとめてみよう
第6章 エンディングとオープニングをつくる
脚本を「始める」ためには「終わり方」を知ろう
『チャイナタウン』は鳥肌もの!
エンディングに問題を感じたら、その答えは映画の始まりにある
冒頭10ページが、勝負を決める!
シェイクスピアはオープニングの達人だった
何かの終わりは、何かの始まりでもある
第7章 ストーリーの設定
無関係に見えるシーンがストーリーを構築する
『チャイナタウン』の最初の10ページ
ストーリーは最初の10ページで設定される
第8章 二つの事件(incident)は関連する
インサイティング・インシデント(誘引する事件)の役割は二つ
キイ・インシデントによって本当のストーリーが表に登場する
インサイティング・インシデントとキイ・インシデントの違いを理解する
第9章 プロットポイントを見つける
プロットポイントは主要人物によって引き起こされ、ストーリーを転がす
プロットポイントによって、ストーリーが前へ転がりだす
どんな映画にもプロットポイントはある
第10章 シーンを作る
よい映画を思い浮かべたときに、映画全体よりもシーンを思い出す
ストーリーに従いシーンの長さを決める 190 シーンには二つの種類がある
シーンを構成する要素を見つけ、その内容を決める
会話とアクションで緊張感を高めた『コラテラル』での名シーン
シーンも同様に“発端”“中盤”“結末”を持っている
第11章 シークエンスを考える
シークエンスは“発端”“中盤”“結末”を備えたシーンの集合体である
シークエンスは限界のない文脈である
アクションシークエンスを書くこと
よいアクションシークエンスのコツとは?
第12章 ストーリーラインを構築する
全体のパラダイム(見取り図)を作ろう
5×3情報カード(12・5×7・5cm)を活用しよう ― ポイントは14枚
リアクションだけではダメ。人物の本質はアクションだ
ストーリーラインのすべての重要な要素は、シンプルでダイレクト
カードは自由に並べ替えよう
カードシステムによって、最大限の自由を得ることができる
第13章 脚本の形式を知る
脚本家の仕事は、「どう撮ればよいのか」を伝えることではない
シーンはマスターショットか、特定ショットで書く
脚本の形式の基本的なルール
ショット内のねらいを見つけよう
第14章 さあ、脚本を書こう!
脚本を書くことは、とても面白く謎めいた旅である
まずは書くための時間を見つけなければいけない
まずは執筆スケジュールを作ろう
脚本を書き始めると必ず妨害衝動が起きる
よいドラマの根本が葛藤である
頭に最初によぎるアイデアが、正解であることが多い
必要なシーンは自然とわかってくる
ほとんどの脚本家が、必ず壁に直面する
壁にぶちあたり、行き詰まったらどうすればよいか?
第15章 脚色をする
俺たちがこのとんでもない馬を復活させたんじゃない
原作となるものは、素材であって、単なる出発点である
小説と脚本は別物である
原作の主人公の内的心情を、どのようにして映像化するか
演劇や誰かの人生を脚本化する場合
ジャーナリズムでは、細部から始めて全体に進んでいくが、脚本は逆
第16章 共同執筆(コラボレーション)
なぜ一緒に書くのか
共同作業をする場合の正しいスタイル
共同作業の鍵は、コミュニケーションと相手を敬う気持ちである
あるカップルが共同執筆から学んだこと
第17章 書き終えた後
書くことは、書き直すことである
自分の脚本の所有権を明白にさせる必要がある
ハリウッドでは誰もが脚本家を探している
まずは自分の脚本を書くことだ
あとがき 私のプライベートノート
日本におけるシナリオの書式
訳者あとがき
索引
プロフィール
[著]
シド・フィールド(Syd Field)
国際的評価を得る脚本家。ジャン・ルノワール、サム・ペキンパーらに師事。プロデューサー、教師、ベストセラー作家。本書は22ヵ国語に翻訳され、全米400以上の学校でテキストとして使用。彼の関係した映画は『ゴッドファーザー』『アリスの恋』『アメリカン・グラフィティ』など。門下生には、ジェームズ・キャメロン、テッド・タリー、キュアロン兄弟など、ハリウッドを代表する錚々たる映画人が名を連ねる。20世紀フォックス、ディズニー・スタジオ、ユニヴァーサル・ピクチャーズ、トリスター・ピクチャーズほかの脚本コンサルタントを歴任。全米脚本家協会で初の名誉の殿堂入りを果たした。ビバリーヒルズ(カリフォルニア)在住。
[訳]
安藤紘平
映画監督・早稲田大学教授
繊細で独創的な表現力で知られる映像作家。ハイビジョンを使っての作品制作では世界的な先駆者。ハワイ国際映画祭銀賞、モントルー国際映画祭グランプリなど数多く受賞。パリ、ニューヨーク、LA、東京、などの美術館に作品収蔵。2001年、2005年パリにて安藤紘平回顧展開催。
日本映画監督協会理事。
加藤正人
脚本家・早稲田大学客員准教授
人の想いの細やかな描写に定評がある脚本家。1999年『水の中の八月』モンス国際映画祭最優秀脚本賞、2001年『女学生の友』第4回菊島隆三賞、2007年『雪に願うこと』毎日映画コンクール最優秀脚本賞、2009年『クライマーズ・ハイ』日本アカデミー賞優秀脚本賞ほか。社団法人シナリオ作家協会会長。
小林美也子
早稲田大学客員研究員・ゲスト講師、(株)LEC講師
立命館大学法学部在学中にN.Y.へダンス留学、ショービジネスの世界にハマる。帰国後一転して、資格試験予備校で,企業法務・自治体法務研修、就職試験講座ほかを担当する人気講師に。オリジナル漫画を利用した法律書が評判。日中合作映画『禅武合一 少林功夫』制作。
山本俊亮
早稲田大学大学院国際情報通信研究科修士
1984年奈良県生まれ。大阪大学在学中、ウェストミンスター大学(ロンドン)に留学、映画について学ぶ。この頃、シド・フィールドの名を知る。映画『阿房ウィスキー』プロデュース、日中合作『禅武合一 少林功夫』制作スタッフ。