“映画的”をきわめる執念と技巧。
巨匠没して早くも10年――リメイク映画が次々と製作される中、“映画の世界遺産”クロサワ映画の面白さを劇的発想の根源から明かす!
脚本家クロサワの
劇的発想力!
本書の目的は、演出家よりも脚本家・黒澤明に比重を置いて、彼とその共作者たちが、どのような発想から構想を膨らませ、どのような技巧を駆使してストーリーを展開させたか、創作の秘密、ストーリー・テラーとしての黒澤を分析することにある。面白い脚本を書くうえで、黒澤映画の脚本は最良の教材であり、娯楽映画のエッセンスが詰まった宝庫なのだから。
—— 本書まえがきより
目次
まえがき
第一章 黒澤映画のドラマツルギー
幻に終わった三本目の『三十郎』/脚本と小説は、どう違うか/黒澤明が好む題材/感情を視覚化する才能/交響曲形式の脚本構成/ ジョン・フォードに挑戦した男
第二章 いかにして作風を確立したか
監督デビュー作『姿三四郎』/助監督時代の脚本/構想だけで終わった戦意高揚映画『荒姫』/戦後第一作『わが青春に悔なし』/脚本共作システムの発見/『素晴らしき日曜日』とセミ・ドキュメンタリー手法/ラスト・シーンを改変した理由
第三章 三船敏郎との出会いと別れ
『酔いどれ天使』とドストエフスキー/ニュー・フェイス三船敏郎の登場/〈事実より伝説〉の世界/映画会社との〈静かなる決闘〉/『赤ひげ』の主役は赤ひげではない/三船敏郎の海外進出
第四章 脚本共作システムの成立と消滅
『静かなる決闘』/原作戯曲『堕胎医』/脚本を複数で共作する意味/晩年の単独脚本執筆作品/『夢』/『八月の狂詩曲』/
共同作業における年齢差の問題
第五章 痛快娯楽派の共作者・菊島隆三
『野良犬』/『天国と地獄』/『隠し砦の三悪人』は本当に面白いか?/『悪い奴ほどよく眠る』 /『用心棒』/三十郎の創作者は菊島隆三か?/脚本『日々平安』から『椿三十郎』へ
第六章 重厚社会派の共作者・橋本忍
昭和を代表する名脚本家/橋本忍のシナリオ作法/『藪の中』から『羅生門』へ/芥川龍之介の小説『偸盗』/ラショーモン・アプローチ/加藤泰たち助監督からの疑問/橋本忍原案の『生きる』/構成によって飛躍した主題/癌の告知をめぐって/前代未聞の回想形式/『七人の侍』と製作者・本木荘二郎/敗残の侍たち/時代設定の嘘/野武士や農民の描き方/名優が認めた名台詞/『生きものの記録』は共鳴できるか?
第七章 発想の源泉にあるもの
実兄・須田貞明の影響/強者と弱者―『デルス・ウザーラ』/分身の主題―『影武者』/飛ぶ夢
第八章 黒澤明のDNAを継ぐものたち
『トラ・トラ・トラ!』/『暴走機関車』/『荒野の七人』/サム・ペキンパーと『ワイルドバンチ』/『ラストマン・スタンディング』/セルジオ・レオーネ、『荒野の用心棒』と『大鴉が飛ぶとき』/クリント・イーストウッド/コッポラ、ルーカス、スピルバーグ/チャン・イーモウと黒澤明の共通点
あとがき
プロフィール
[著]
古山敏幸(ふるやま・としゆき)
1954年、神戸市生まれ。同志社大学文学部卒業。1981年、オリジナル脚本『雷鳴のきざし』で新人脚本家の登竜門・城戸賞を受賞(「キネマ旬報」828号に掲載)。同賞審査員の野村芳太郎監督の下で脚本を学ぶ。前田勝弘代表の幻燈社で劇映画の企画開発に関わる。広報誌編集者、古書店員、コピーライターとして生計を立てながら脚本を書き続け、『弁士須田貞明とその弟』(映画研究誌「FB」18号に掲載)、『田中一村 わが奄美』『罪と罰』などの作品があるが、いずれも映画化には至らず。現在、ビリー・ワイルダー論を準備中。