ためし読み

『ヒッチコックとストーリーボード 9つの傑作から解き明かす画面づくりの秘密』

Chapter4 めまい[1958]より

オープニング・チェイス・シーン
他の多くのヒッチコック映画と同様、『めまい』のオープニングも記憶に残るものだ。制服姿の警察官と私服の刑事スコティ・ファガーソンが夕暮れのサンフランシスコの屋根の上で犯罪者を追うという、刺激的な追走劇でこの映画は幕を開ける。やがて、彼は足を滑らせて雨どいにぶら下がることになるが、めまいに襲われて自力で体を引き上げることができない。警察官が手を差し伸べるが、彼は足を滑らせ、転落死してしまう。ヒッチコックは『めまい』のために、悪夢のような追跡であり、映画の残りのシーンを決定づける刺激的なオープニング・チェイス・シーンを求めていた。
「たしかに、オープニングのシーンは『めまい』の中でとても重要だった」とバムステッドは回想する。「すべての作品において、ヒッチには本当に譲れないものがひとつあって、『めまい』においてそれは、彼らが屋根の上を走り回るオープニングだった」。
(中略)
ジェームズ・ステュアートのクロースアップは主要撮影の最終日前日にパラマウント・スタジオのステージ5で撮影された。だがそれだけではなく、彼らはめまいの効果、そしてスコティが足を滑らせて差し迫る奈落を見下ろした時や、後にマデリンを追って鐘塔を上るものの彼女の自殺を防げなかった時の彼のPOVを視覚化しなくてはならなかった。スコティが滑り落ち、通りを見下ろす彼のPOVでは、強制遠近法を用いてその苦痛が表現された。そのためにヒッチコックは自分のドイツ表現主義の経験を深く掘り下げたのだった。彼は主観的な感情を伝えることに非常に意欲的で、登場人物が経験していることを観客がただ見るだけでなく感じられるよう、あらゆる映画文法を駆使したのである。

②12 スコティが叫び声を聞く。セット+スクリーンプロセス。警察官がスコティの後ろを落ちていく。
③13 警察官が宙を落ちていく。セット+深度。
④14 スコティは恐怖で下を見つめる。セット+スクリーンプロセス。
⑤15 地面に倒れた警察官。人々が死体を見つめ、スコティを見上げる。セット+深度。

※続きは本編でお楽しみください
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ヒッチコックとストーリーボード

9つの傑作から解き明かす画面づくりの秘密

トニー・リー・モラル=著
上條葉月= 訳
発売日 : 2024年8月21日
3,600円+税
A4判変型・並製 | 144頁 | 978-4-8459-2323-6
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