「彼は悲しんだ」と書いても、読者は悲しまない――
感情は「語る」ものでも「見せる」ものでもなく、「引き出す」ものだ!
年間150冊以上の小説を売り込む敏腕文芸エージェントが、読者の心を揺さぶるテクニックを徹底伝授。
感情を「見せるか、語るか」。
小説指南書でたびたび取り上げられるトピックです。
ハリウッドの脚本の世界に「語るな、見せろ」という格言があるように、一般的には感情を登場人物に語らせるのではなく、アクションで見せるほうがよいとされています。
しかし本書は「見せること」も「語ること」も、読者の感情には直接的にはほとんど影響を及ぼさないと説きます。
読者は、登場人物とともにストーリーの世界を生きているのだと思われがちですが、実際にはそうではありません。
読者は、小説を読みながら自分自身の経験を重ねているのであって、ストーリーはそのきっかけにすぎません。
同じ小説でも、読む人によって受け止め方や感想がまったく異なるのは、読者の経験やそれによって引き出される感情が異なるからなのです。
必要なのは、感情を向ける対象となるものを作り出すことではなく、読者の感情を引き出すこと。
読者は小説を読むというより、むしろ反応しています。
めざすべきは、「体験」と評されるほど強烈で印象深い感情を引き起こすことです。
本書では、年間150冊以上の小説を売り込むベテラン文芸エージェントの著者が、数多くの小説作品を引用しながら、感情面での鮮烈な経験を読者にもたらすための効果的な見せ方、語り方、その他数多くのテクニックを徹底解説しています。
豊富な経験と知識に裏打ちされたきわめて実践的な一冊です。
「感情を引き出す技巧」が身につく34の演習問題も収録。
この本に書いた方法は、プロットを書くための公式や、創作術の本によくあるシーンのチェックリストに頼るものではありません。偶然の発見や運で片づけることもありません。天賦の才などというあてにならない資質は役には立ちません。感情を引き出す技巧を習得するためには、まず感情面への衝撃がどのように生まれるかを理解してから、実際に応用していきましょう。
魔法のような方法ではありませんが、成果は魔法のように感じられるはずです。この技法を習得しても、ストーリーのタイプやスタイル、意図は変わりません。大衆小説か純文学か、執筆前にプロットを考えるか考えないか、ひとつのジャンルにこだわるか、複数のジャンルを融合させるか、新しく切り開くか、それは問いません。繰り返しますが、あらゆる原稿は、もっと読者の感情を引き出す必要があります。その方法をこの本では紹介していきます。
――「第1章 感情を引き出す技巧」より
目次
第1章 感情を引き出す技巧
第2章 内側から書くか、外側から書くか
第3章 感情の世界
第4章 感情、意味、キャラクターアーク
第5章 感情のプロット
第6章 読者の心の旅
第7章 作家の心の旅
最後に
付録 感情を引き出すためのチェックリスト
訳者あとがき
出典
プロフィール
[著]
ドナルド・マース(Donald Maass)
文芸エージェント。1980年、ニューヨークにドナルド・マース・リテラリー・エージェンシーを設立。毎年150冊を超える小説を米国内外の大手出版社に売りこんでいる。著書に『職業としての小説家』『ベストセラー小説を書く』『ベストセラー小説を書くためのワークブック』『小説のきらめき』『ベストセラー小説家になる』『二一世紀の小説を書く』(すべて未邦訳)がある。著作者代理人協会の元会長。
[訳]
佐藤弥生(さとう・やよい)
翻訳家。幼少期を返還前の香港で暮らす。商社などの勤務を経て、国内メーカー、在日米海軍などで20年以上技術翻訳に携わる。訳書に『スター・ウォーズ スーパーグラフィック』『映像編集の技法』『「書き出し」で釣りあげろ』(フィルムアート社/共訳)などがある。本書では、1章、2章、4章、6章、最後にの翻訳を担当。
茂木靖枝(もぎ・やすえ)
翻訳家。ロンドンで英語とコンピューターを学ぶ。金融系システム会社などの勤務を経て、現在は翻訳業と会社員を兼務。訳書に『アテンション』(飛鳥新社/共訳)、『スター・ウォーズ スーパーグラフィック』『映像編集の技法』『「書き出し」で釣りあげろ』(フィルムアート社/共訳)などがある。本書では、3章、5章、7章の翻訳を担当。