世界から注目される人類学者、
ティム・インゴルドのライフワーク
「ライン学(=linealogy)」の到達点。
結ぶこと、天候、歩くこと、成長すること、人間になること……
見たことのない自由な発想で、この世界にさまざまなラインを見いだす。
哲学、生態学、気象学、人類学の境界を踏み超えて自在に歩き回る、
人類学者インゴルドの驚くべき「線」の探求の旅。
線を作りだすことは、人間になること──
「たとえ意識されることがなかったとしても、道を歩いたことがある者、布を縫ったことがある者、動物を追いかけたことがある者、詩を朗読したことがある者、図を描いたり手紙を書いたりしたことがある者、──つまるところ、実際に生きている者であれば誰もがそれ〔「ライン学」〕に携わってきた。」(本書より)
つまり、わたしたち人間は誰もが、「ライン学」の研究者といえるのだ。
そのように説くインゴルドは、本書において、歩くこと、織ること、観察すること、歌うこと、物語ること、描くこと、書くことといった、人間が紡ぎ出す文化の中にあるラインを見出しながら、「結び目をつくること」「天候にさらされること」「人間になること」という3つの枠組みを手がかりに、「ライン学(=linealogy)」をさらに広い視点から考察していく。
本書では、インゴルド自身が提唱する社会的生命論から、ベルクソン、ジェイムズ・ギブソンやメルロ゠ポンティ、ドゥルーズ゠ガタリ、そしてオルテガ・イ・ガセットの人間論やハンナ・アレントのリーダーシップ論、教育哲学者ヤン・マッシェラインを引き合いに出しながら、バクテリアの細胞と鞭毛、画家マティスの《ダンス》、タコとイソギンチャク、小説家イタロ・カルヴィーノの書く「結び目」、グレアム・ハーマンのオブジェクト指向存在論(OOO)、ロープの結び目と木の継ぎ目、さらには壁、山と摩天楼の差異、地面、知識へと関心を遷移させ、次いで風、つむじ風、渦巻き、風と歩行、足跡、天候を知覚することと世界、大気と雰囲気、空気、空、太陽の光、色、音とメロディにまで考察を広げ、さらには人間化することについて、人間形成、成長することと作ること、行なうことと経験すること、服従することと熟練すること、あいだにあるもの、中動態、調和といった思考に深化させていく。
哲学、社会学、生態心理学、芸術学、考古学、建築学など多様な領域をクロスオーバーする人類学研究を精力的に展開するインゴルドによる、「ライン(線)の生態人類学」の決定的一冊。
「人間は、どこで生きているのであれ、そしてどのようにして生きているのであれ、常に人間になりつつあるのであり、つまりその進展とともに自らを創造しているのである。人間は、この意味で、自分自身の生の脚本家あるいは小説家なのだ。」(本書より)
メディア掲載
目次
序文
第1部 結び目をつくること
1 ラインとブロブ(小さな塊)
2 タコとイソギンチャク
3 対象のない世界
4 物質、身振り、感覚、感情
5 結び目と接ぎ目について
6 壁
7 山と摩天楼
8 地面
9 表面
10 知識
第2部 天候にさらされること
11 つむじ風
12 道に沿った足跡
13 風‐歩行
14 天候‐世界
15 大気゠雰囲気(アトモスフィア)
16 滑らかな空間の中で膨らむこと
17 巻きつくこと
18 空の下で
19 太陽の光の筋とともに見ること
20 ラインと色
21 ラインと音
第3部 人間になること
22 人間であるとは一つの動詞である
23 人間発生論
24 行なうこと、経験すること
25 迷路と迷宮
26 教育と注意
27 服従が先導し、熟練が追従する
28 一つの生
29 あいだのもの
30 ラインの調和
訳者あとがき
参考文献
索引
プロフィール
[著]
ティム・インゴルド(Tim Ingold)
1948年生まれのイギリスの人類学者。1976年、ケンブリッジ大学で社会人類学の博士号を取得、1995年よりアバディーン大学にて教鞭を取る。哲学、社会学、生態心理学、芸術学、考古学、建築学など多様な領域をクロスオーバーする人類学研究を精力的に展開している。著書にThe Perception of the Environment: Essays in Livelihood, Dwelling and Skill, 2000、Lines: Brief History, 2007(邦訳『ラインズ──線の文化史』)、Being Alive: Essays on movement, knowledge and description, 2011、Making: Anthropology, Archaeology, Art and Architecture, 2013(邦訳『メイキング──人類学・考古学・芸術・建築』)、Anthropology and/as Education, 2017、Anthropology: Why It Matters, 2018など多数。
[訳]
筧菜奈子(かけい・ななこ)
美術史研究者。2017年京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。著書に『めくるめく現代アート——イラストで楽しむ世界の作家とキーワード』(フィルムアート社、2016年)。翻訳にトマ・ゴルセンヌ「装いの系譜学——記号学的モデルとしての紋章から、有機的モデルとしての生地まで」(『現代思想』〈特集=人類学の時代〉青土社、2017年3月臨時増刊号)。岡山大学、関西大学、関西学院大学、京都精華大学など非常勤講師。
島村幸忠(しまむら・ゆきただ)
煎茶家。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程在籍。日本学術振興会特別研究員(DC)。専門は美学・芸術学。翻訳にベルトラン・プレヴォー「コスミック・コスメティック——装いのコスモロジーのために」(『現代思想』〈特集=現代思想の新展開2015「思弁的実在論と新しい唯物論」〉青土社、2015年1月号)がある。京都造形芸術大学通信教育部及び岡山大学非常勤講師。
宇佐美達朗(うさみ・たつろう)
京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程。日本学術振興会特別研究員(DC2)。現代哲学専攻。2017年にUniversité Paris NanterreでMaster 2 (Philosophie) を取得。