「社会を動かすアート」は可能か?
対話、参加、協働、コミュニティの芸術実践としてのソーシャリー・エンゲイジド・アート──
その系譜、〈社会的転回〉をめぐる理論と実践の諸問題、そして可能性を探る。
社会そして特定の人々に深く関わりながら、何らかの変革を生み出すことを志向するさまざまな芸術行為であるソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)。
それは一朝一夕に出現したものではない。SEAをかたちづくってきた歴史的背景や、近年ますます活発となった批評と議論、アーティストが独自のアプローチで取り組む実践を概観できる先駆的アンソロジー。
社会に深く関わる=エンゲイジする芸術は、アートによる現実社会の変革可能性を模索するムーブメントとして、間違いなく、かつてないほど多くのアーティストを引きつけ、美術業界にとどまらない多くの参加者・協働者を得て、世界的に大きなうねりとなっています。
その表現は、「対話」「参加」「協働」に重点を置き、「コミュニティ」と深く関わり、社会変革を目指すものです。
世界に山積する現在進行形の政治的・社会的な諸問題に取り組んでいくために、創造的アプローチによる多様なプロジェクトが行われ、アーティストの実践も刷新されています。それを評する理論的なフレームも常にアップデートされ、ニコラ・ブリオーの「関係性の美学」への批評も加わり、ますます活性化しています。
本書は、社会秩序の大きな変化にチャレンジするアートを、その系譜・理論・実践と多角的な側面から紐解き議論を喚起する、先駆的な論集です。
私たちが今まさに直面しているアートと社会の諸問題に対して真に向き合うことで、多様な価値観を包含する、文化的実践・これからの社会の姿を考えるための多くのヒントを与えてくれるでしょう。
アーティスト、アートプロジェクトのスタッフ、美術教育関係者必携の、ソーシャリー・エンゲイジド・アートの潮流をとらえ、理解を深めることができる一冊です。
「現代の美術批評において、芸術と生活、純粋なものと純粋でないもの、理論と実践という、関係性が二分されてきたやり方を再検討する必要がある」──グラント・ケスター[美術史家] (本書より)
メディア掲載
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「CINRA」<今週のおすすめ>
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「月刊美術」(2018年10月号)
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「美術手帖」(2018年12月号)
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「図書新聞」 評者:宮田徹也(嵯峨美術大学客員教授)
<社会と美術は一体なのである>
目次
はじめに
────工藤安代
1.社会的協同(Social Cooperation)というアート──アメリカにおけるフレームワーク
────トム・フィンケルパール
2.ソーシャル・プラクティスへの大きなうねり──1970年代の米国におけるフェミニスト・アート
────カリィ・コンテ
3.ソーシャリー・エンゲイジド・アートにおける理論と実践の関係について
────グラント・ケスター
4.ソーシャル・プラクティスをめぐる理論の現状──社会的転回、パフォーマンス的転回
────星野太
◆ソーシャル・チェンジをもたらすアーティストたち
ペドロ・レイエス
ママリアン・ダイビング・リフレックス/ダレン・オドネル
西尾美也
ミリメーター
明日少女隊
5.演劇と社会
────高山明
6.爆撃の記録
────藤井光
7.社会的転回の論争
────ジャスティン・ジェスティ
8.社会的転回はアーティストではなく、アートワールド?
────秋葉美知子
◆〈年表〉ソーシャリー・エンゲイジド・アートに関連する戦後の美術と社会の動向
おわりに──実践を見つめる新たな視点の可能性
────清水裕子
謝辞
プロフィール
[編者]
特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター
都市や地域の文化的環境の向上と市民の芸術参加に寄与することを目的として2002年に設立(2009年にNPO法人化)。国内外の新たな芸術活動を発信する『Public Art Magazine』の発行や資料収集・公開する「P+ARCHIVE」事業を展開。都市の公共空間で、若手アーティストが発表する機会をつくり、実践活動を支援している。2013年よりSEAの調査・研究を進め、展覧会など普及活動を行う。
http://www.art-society.com
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工藤安代 Yasuyo Kudo
特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター代表理事。東京都生まれ。多摩美術大学卒業、南カリフォルニア大学大学院、埼玉大学大学院博士後期課程を修了。民間企業にてパブリックアート事業のディレクションに携わった後、2009年当法人を設立。以後、社会・地域における芸術文化活動の情報発信・調査研究・実践活動に取り組む。
清水裕子 Hiroko Shimizu
特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター副代表理事。大阪市立大学都市研究プラザ特別研究員。南カリフォルニア大学大学院芸術建築科修士課程修了。パブリックアートのディレクションや展覧会の企画運営に携わり、2009年当法人の設立、その後の活動に取り組む。アートと環境、社会との関係を研究。
秋葉美知子 Michiko Akiba
特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター主席リサーチャー。一橋大学経済学部卒、パルコの販売促進、FM雑誌編集、マーケティング情報誌『アクロス』編集長などを経た後、近畿大学大学院でパブリックアート、コミュニティ・アートを研究。長崎市の活水女子大学特別選任教授を務めた後、2013年からアート&ソサイエティ研究センターにリサーチャーとして参加。
[執筆者]
トム・フィンケルパール Tom Finkelpearl
ニューヨーク市文化局長。五つの区のアートNPOに対して市が支給する補助金を管轄するとともに、ニューヨーク市の文化政策を指揮する。クイーンズ美術館の館長を2002年から12年間務めたほか、ニューヨーク市文化局のパーセント・フォー・アート事業のディレクター、P.S.1現代美術センターのプログラム・ディレクターを歴任。
カリィ・コンテ Kari Conte
キュレーター、著述家。2010年よりニューヨークのアーティスト・イン・レジデンス施設International Studio & Curatorial Program(ISCP)の企画・展示ディレクターを務めている。主なキュレーションに、藤井光、ジェニファー・ティー、エヴァ・コッタコヴァ、リチャード・イフギー&メリールー・レメンスの個展など40以上の展覧会がある。
グラント・ケスター Grant Kester
カリフォルニア大学サン・ディエゴ校視覚芸術科美術史教授、ウェブジャーナル『FIELD: A Journal of Socially Engaged Art Criticism』の創立編集者。著書に『Conversation Pieces: Community and Communication in Modern Art』(University of California Press, 2004)など多数。
星野太 Futoshi Hoshino
1983年生まれ。美学、表象文化論。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。現在、金沢美術工芸大学講師。著書に『崇高の修辞学』(月曜社、2017年)、訳書にカンタン・メイヤスー『有限性の後で』(千葉雅也・大橋完太郎との共訳、人文書院、2016年)など。
高山明 Akira Takayama
演出家。1969年生まれ。演劇ユニットPort B(ポルト・ビー)主宰。東京藝術大学大学院映像研究科准教授。既存の演劇の枠組を超え、実際の都市を使ったインスタレーション、ツアー・パフォーマンス、社会実験プロジェクトなど、現実の都市や社会に介入する活動を世界各地で展開している。
藤井光 Hikaru Fujii
1976年東京都生まれ。美術家、映像作家。芸術は社会と歴史と密接に関わりを持って生成されているという考え方のもと、既存の制度や枠組みに対する問いを、綿密なリサーチやフィールドワークを通じて実証的に検証し、実在する空間や同時代の社会問題に応答する作品を映像インスタレーションとして制作している。
ジャスティン・ジェスティ Justin Jesty
米国ワシントン大学アジア言語・文学学科准教授。戦後日本の視覚芸術と社会運動の関係性を研究している。2018年9月にコーネル大学出版より著書『Art and Engagement in Early Postwar Japan』を刊行予定。