「N女」=「NPOで働く女子」たちとは一体何者なのか?
開高健ノンフィクション賞作家が切り取るNPO業界の新しい動きと「N女」たちの生き様。
近年、有力企業に就職する実力がありながら、雇用条件が厳しいと言われるNPO業界を就職先に選ぶ女性が現れ始めています。NPOで働く女性、略称「N女」です。
N女とは何者なのか。N女の出現の背景には何があるのか、また彼女たちの出現によって今、NPO業界では何が起きつつあるのかを探るべく、中村安希さんはインタビューを続けてきました。
そこから浮かび上がってきたのは、職場や家庭、地域社会など、かつての共同体が力を失い、分断が進む社会の中で、失業、病気、災害などをきっかけに、あるいは障害や差別によって、人や社会の「つながり」からはじき出される人々が増えつつあるという現実と、そうした人々を社会につなぎとめようと試行錯誤するN女たちが奮闘する姿でした。
さらにN女たちの出現は、結婚や育児によってキャリア人生が大きく左右される女性特有の問題や、男性型縦社会ではなく横のつながりを求める女性性の潜在力など、働く女性の在り方を問いかけています。
・N女の出現は、現代社会に蔓延する「居場所のない不安」を解消する手立てとなりうるのか?
・行政、民間、NPOの間を自由に行き来するN女の存在は、異セクターのつなぎ役として、経営難を抱えたNPOの運営を立て直すことができるのか?
・NPOというフロンティアは、働く女性たちの新たな活力の受け皿となりえるのか?
N女たちの苦悩と模索、生き様を通して、NPOの存在意義と未来の行方について考察したノンフィクションです。
2014年の春、私は新しいプロジェクトをスタートさせた。取材ターゲットは、高学歴や高職歴などのいわゆるハイスペックなキャリアウーマンで、有名企業などへ就職できる実力を持ちながら、あえてNPO法人や社会的企業などのソーシャルセクターを職場に選んだ女性たち。この女性たちにじっくりと時間をかけてインタビューし、一職業人としてのみならず、一人の働く女性としての「人となり」に近づくことを目的としたプロジェクト、『N女の研究』である。高い社会的地位や安定的な昇給を捨ててまで、なぜ彼女たちはソーシャルセクターを選んだのか? 志が高かったから? 大企業に疲れたから? あるいはただマゾなだけなのか?
彼女たちの視点を通して、現代の職業選択の在り方や女性の働き方を見つめ直し、背景にある社会の実情について考察していくことにした。
(中略)
もしかはしたら『N女』は、と考えた。――崩れゆく日本に現れた最後の切り札になり得るかもしれない、と。
(本書「まえがき」より)
メディア掲載
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東洋経済オンライン
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週刊東洋経済 [新春合併特大号]
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Chiik! - 3分で読める知育マガジン -
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東洋経済オンライン
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ウートピ
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日本経済新聞 2017年1月14日社説
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毎日新聞 2017年1月17日夕刊
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週刊文春 2017年1月19日号 酒井順子さん 私の読書日記「脱出する女性たち」
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工場管理 2017年2月号
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沖縄タイムス 2017年1月23日
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朝日新聞 2017年1月29日 評者:星野智幸さん(作家)
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日刊ゲンダイDIGITAL 2017年2月8日
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Next Talk 2017年2月14日
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greenz
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港区立男女共同参画センター情報誌 『OASIS オアシス』第52号
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川崎市男女共同参画センター広報誌 『すくらむ』第56号
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朝日新聞 2017年3月21日 折々のことば 鷲田清一
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PARAFT
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週刊朝日 4月4日号 評者:相原透
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ふぇみん
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北九州市立男女共同参画センター・ムーブ
目次
はじめに
N女とは一体何なのか?/「N女の研究」プロジェクト、始動/ソーシャルセクターとは何か?/高まるソーシャルセクターの必要性/ N女を選ぶ4つの目安/代表者ではなく、あくまで職員を取材したい
第1章 やりがいのある仕事と半分の給料 ――新しいNPOのかたちとN女のキャリア
NPO法人「難民支援協会」
広報部チームリーダー 田中志穂さん(38)
居場所のなかった留学生活/未練もなく、スパッと会社を辞める/新しいNPOと出会う/「支援したいから」ではない関わり方/やりがいのある仕事なら低賃金でもいいのか?/目に見えない成果、数値化できない価値/究極の目標は「失業すること」
来るN女もいれば、去るN女もいる
NPO法人「難民支援協会」
渉外部・政策アドボカシー担当 小川昴子さん(32)
バレエ、学校……頑張りたくても頑張れない苦しさ/キャリアを持つ女性に憧れて/まずは身近なところから関わりたい/迷走する女のキャリア、最後は寺にこもる/本人の主体性を生かしたい/ダンス・セラピーで難民と向き合う/自分の人生も大切にしたい
同一労働・給料半分のやるせなさ/ N女は階級社会の単なる便利な下請けさん?
第2章 正論で人は動かない ――N女の奮闘とキャリア戦略
NPO法人「NPOサポートセンター」
事業部プロデューサー 杉原志保さん(39)
ジェンダーというテーマに出会う/正論を言うだけでは人を動かすことはできない/金を出す側の手の内を探る/助成金は麻薬である/社会福祉系NPOが抱える三重苦をどうするか/権力闘争は面倒くさい/キャリアパス第三の道となり得るか?
N女が雇えない! という悩み/元祖N女と現代N女の共通点/元祖N女と現代N女の相違点
NPO法人「クロスフィールズ」
アカウントマネージャー 三ツ井稔恵さん(36)
内定をもらった瞬間の「本当にこれでいいんだろうか?」/自分はデキると勘違いしていたらダメになる/それは本当に、お客さんのためになっているのか?/ SFCとバングラデシュでソーシャルビジネスと出会う/力のある名刺を生かす/結婚で可能性が広がった/営利企業と対等に戦う/出産を経て、さらにキャリアに貪欲になる/自分のスタイルで働き方をつくる
NPO法人「ティーチ・フォー・ジャパン(TFJ)」
採用・広報担当 森山円香さん(26)
気のおもむくままに生きていきたい/『流学日記』に突き動かされる/期待してくれる大人がいたら……/ネームバリューにこだわらず挑戦している人/逆ばりの就職、新卒のカードをいかに使うか/20代でも自分の意向で動く/民間と行政の「つなぎ役」として/自分が変えてやろう、ではなく自分を変えていこう、とする人/自分の手の届く範囲、顔の見える範囲を良くする
曖昧な成果基準に翻弄される/成果を出して、目の前の景色を変えたい
第3章 居場所をつくり社会の隙間を埋めていく ――N女的な発想から生まれるコミュニティ
有限会社「ビッグイシュー日本」
販売サポート担当 長崎友絵さん(35)
慶應義塾大学に通い、美容師の免許を取得する/一律に同じものを求められる苦しさ/ありのままの自分、自然体でいられる職場/お互いを守る「仕事」を通じての付き合い/一人の「人」として付き合ってくれるお客さんの存在/若者ホームレスという新しい課題/エントリーシートだけでは伝わらない価値
NPO法人「コモンビート」
事務局員 花宮香織さん(27)
都立国立高校へ、いわゆる青春をしに/何とかなるとしたら、人の縁しかないだろう/大事なのは面白い人と一緒に働くこと/ミッションやビジョンよりも「楽しいから、勝手に広がってきた」/人が変われば、社会は変わる
NPO法人「育て上げネット」
若年支援事業部担当課長 古賀和香子さん(37)
親の敷いてくれたレールの上をそのまま来ただけ/ハローワークに通うも、ことごとく落ちる/家族の反対を押し切って、NPOに転職する/育児と仕事、半立という割り切り感も必要/「若者がかわいそうだから」ではなく「納税者を増やしたいから」/親が子の仕事を選り好みしてしまうのは……/日本の構造的問題と、一人で取り残される孤独感
私たちに「居場所」はあるのか?/人とつながり、社会に包摂されること/小さな居場所を作り出し、ちょっとずつ社会の隙間を埋める
第4章 女の人生は変化していくもの ――N女のライフイベントと柔軟な働き方
NPO法人「ビッグイシュー基金」
チーフコーディネーター 瀬名波雅子さん(33)
慶應になじめず海外へ/何のために働いているのか? という大きな問い/明日死ぬかもしれないなら、やりたいことをやって死にたい/孤立する若者に「つながり」を提供する/家(住所)をなくす前にやるべきこと/ NPOに求められる人材は?/人生の中における大事なこと・優先順位は変わる/出産を経て、キャリアに対する考え方は変化した/「ブランク」ではなく「積極的なリセット」と捉える
なぜ団体を辞めることになったのか?/社会貢献は、N女でなくてもできる
NPO法人「ノーベル」
広報部マネージャー 吉田綾さん(36)
すぐその気になっちゃう吉田さん、広告の世界へ/それは女の逃げなのか、男は逃げちゃいけないの?/まさか育児との両立がこんなにも大変だとは/私たちは、欲張りな女、なのか?/女性が職場をデザインするとこうなる/人々のマインドセットを変えていくのがNPOの仕事N女の転職と経済的リスク/女の敵はやっぱり女?/最も根深い問題は、女性社会が「一枚岩でない」ということ/自己犠牲しない、比較もしない
おわりに
N女の特徴/行政を当てにしない、しかし協働はする/打ち出の小槌がない時代の処世術/きれいごとを言わない、だから響くN女の言葉/〝沈みゆく中産階級の気分〞への取り組み方の違い/腫れ物に触るように目を逸らすこと/圧倒的な当事者性
プロフィール
[著]
中村安希(なかむら・あき)
ノンフィクション作家。1979年京都府生まれ、三重県育ち。カリフォルニア大学アーバイン校芸術学部演劇科卒。日米での3年間の社会人生活を経て、684日(47カ国)に及ぶ取材旅行を敢行する。2009年その旅をもとに書いた『インパラの朝』(集英社)で開高健ノンフィクション賞を受賞。その後も世界各地の生活を取材し、現在までに訪れた国は約90カ国。 著書に、若き政治家たちへのインタビューを試みた『Beフラット』(亜紀書房)、世界の食と文化を取材した『食べる。』『愛と憎しみの豚』(共に集英社)、またLGBTをテーマに執筆した『リオとタケル』(集英社インターナショナル)がある。