イントロダクション
「本の書き方」の本なんて山ほどあるから、もう要らない―僕はそう思った。「how to write a book(本の書き方)」とグーグルで検索すると1億2800万件もヒットする(僕の名前だと138万件。小説の著書が5冊あっても大したものじゃない)。
新しい記事が一つ増えたって、何も変わらないだろう。
独自性があってわかりやすく、本当に役立つ情報でないと意味がない。新しい角度から、小説だけでなくシナリオ、回顧録や記事、エッセイにも使えそうなノウハウが望ましい。
ハウツー本なら超大御所のディーン・クーンツやデイヴィッド・マレル、スティーヴン・キングも出している。ただ、僕は「出版社が儲けるための企画だろう」と冷めた目で見てしまう。作家向けのセミナーを含め、技術の核心を突いたものはない(ストーリー作りは抽象的で、教えられないのかもしれない)。モデル(型、様式)と過程がはっきり説明されるのを、僕は聞いたことがない。
つまり、ストーリーのどこに何を書いて、なぜそれを書くべきかを説いた本がない。
ただそれだけが知りたいのに。
ハウツー本の大半は美的感覚重視だ
ストーリー創作には芸術的な面と同時に、工学的な面もある。その理論を教えてくれる場がない。「心を込めなさい」「人生の旅を描け」「テンポと文体を磨こう」などという助言はあっても、具体的な方法や手順は教えてもらえない。僕が尊敬するスティーヴン・キングでさえ「アイデアが浮かんだらとにかく書け」と著書『書くことについて』(小学館文庫、田村義進訳)で述べている。初稿は自分用で、後の稿は人に読ませるために書き直せ、と。
試しにやってみるといい。人が読んでわかるように書くことの難しさを度外視し、作家気分に浸ってみるといい。
物語は完成できず、また振り出しに戻るはずだ。
その方法はスティーヴン・キングのようにストーリーの型や機能、基準を熟知してこそ可能で、実は非常に効率が悪い。そんな苦労を選ぶかは自分次第だ。ストーリーを売るとなったら話は別で、いつも苦労がつきまとうけれど。
キングの方法は「パンツィング(seat-of-the-pants =経験と勘を頼りにする、即興で行う)」と呼ばれ、次の三つの条件を満たす人だけがうまくいく。(a) ストーリーの計画を練らなくても内容がつかめている(b) 理想的な構成が自然にわかっており、何が必要か勘でわかる(c)即興で書いた原稿を直して仕上げる意志がある。大多数の新人がこの方法で苦労しているのだ。驚くことに、ベテランも多数いる。「続きが思いつかなくて」と原稿用紙を何度も破り捨てるのが自慢な人もいる。
プロのゴルフ選手がそんな方法を勧めるだろうか。「とにかくクラブを持って振れ。いつかわかるさ。フォームを知らなくたって三百ヤード飛ばせたらプロになれるぜ」と。
実践重視のアプローチと言えるだろう。
僕らは今、「プロ」の選手になる方法を考えているはずだ。プロの書き手になって著書を出版する方法だ。
フォームを知らずに頑張り続けてきた人は、もう悲しい現実に気づいているかもしれない。それでも「これが自分の書き方だから、他の方法は無理」と言い続ける。
道を選び、運命を選ぶのは自分だ。
その書き方がなぜクレイジーか説明しよう
スティーヴン・キングのように思いつきで書ける作家は物語の構成に通じている。熟練した外科医のように、身についた感覚がある。ストーリーの流れをうまく作り、よいタイミングで転換させながら初稿を書き、推敲して完成だ。彼らは原則に沿うものが即興で書ける。
構成の知識がない人にはできない書き方だ。書いているうちに混乱する。
ぐちゃぐちゃになる。
それでも書き上げて出版社に送る人がいる。構成を知らないから、自分の原稿がぐちゃぐちゃだと気づかない。
僕は「即興で書かず、まずアウトラインを作れ」と決めつけてはいない。ただ、構成の原則を知ればアウトラインの有効性に気づくだろう。物語の大筋を決めておけば、後で何度も原稿を書き直さなくて済む。
書き方は自由だ
だが、ストーリーの「6つのコア要素」は自由に選べない。ゴルフのスウィングや外科手術の方法が決まっているのと同じだ。売れるストーリーには原則がある。早く知るほどいい。
大多数の人たちは、原則をまとめて習うチャンスがなくて夢が叶わずにいる。草稿前の計画が浅いほど深い墓穴を掘るのだが、みんなその墓穴さえ自覚できない。なぜ作品が却下されるかがわからないのはそのためだ。
僕がその理由を言おう。6つのコア要素のどれかが、先方が求めるレベルに達していなかったからだ。機能不全、あるいは凡庸なレベルだったからだ。飛行機だって一つの部品の整備が甘いと墜ちる。
だが安心してほしい。ストーリーの「6つのコア要素」を知って活用すればいい。今からこの本で紹介しよう。
映画のシナリオ作家が知っていて、小説家が知らないことがある
どんなシナリオ術の本にも書かれていることが、小説術の本にない。何を書いてどこに入れ、どういう順序でつなげるか、ということだ。シナリオ術では表現の評価基準もはっきりしており、完成させるためのノウハウがわかる。自由で臨機応変な印象がある業界なのに、設計の仕方とプロセスがしっかり説かれている。
作家は自分の小説が映画化される時、シナリオライターの作業手順が自分のものと違うことに気づくはずだ。だが、結局、考えるプロセス自体は同じだと認めざるを得なくなる。構成が固まるまで原稿をリライトするか、カードや付箋を使ってシミュレーションするかが違うだけだ。
この本ではシナリオ術と同じ原理に従い、用語に配慮しながら進めていく。シナリオの書き手はルールを不自由なものと考えない。彼らは効率的な創作の中で自由を感じる。小説家はあてもなくさまよいたがる。どうりで小説作法が漠然としているわけだ。
もう迷わなくて済む。
僕がこの本を書く理由
いくらアイデアや文体がよくても、物語にドラマ性をもたらす6つのコア要素が揃わなければ出版は難しい。
僕が誰に向けてこの本を書くかというと、あらゆるワークショップやハウツー本を試してもなお、自分の書き方の何が悪くて、なぜ売れないのかわからない人たちだ(物語を書き始めたばかりの人も歓迎だ)。
この本で紹介するモデルに従っても物語を書く難しさは変わらない。型が勝手に小説を作ってくれるわけでもない。プロゴルファーも技術を習い、ずっと戦い続ける。
どんな世界でも同じだ。
僕が小説やシナリオのワークショップを主宰してきた20年間の集大成がここにある。紹介するモデル(作家として成功するための6つのコア要素)は僕がまとめたが、基本は誰もが知っていることだ。いわば真理で、僕の発明ではない。だが、この本のような「まとめ」は他になかったはずだ。
だから僕はこの本を書いた。のべ何千人ものワークショップ参加者の中には強く抵抗した人もいた。半信半疑の人もいた。だが、大多数がストーリー設計の方法と効果に驚き、納得し、取り入れてくれた。部分的に使ってあとは我流でも効率アップできる。「これまでに参加したワークショップの中で一番わかりやすくて役に立った」という感想が僕には一番嬉しい。中には苦節30年に至る人々もいて、僕の背中を押してくれた。
僕自身も6つのコア要素を使っている。ストーリーの要素を知って設計図を描く方法は、伝える価値があると思い始めた。設計図と言っても、僕が提唱するのはクリエイティブな面やストーリー作りの楽しみを少しも損なわない方法だ。
僕も形式ばった書き方は大嫌いだ
だからこの本は堅苦しい内容ではない。「いや、やっぱり形式の押し付けだ」と思うなら、昔からあるミステリーやスリラー、恋愛、アドベンチャー小説の構造を見直してみてほしい。建物の設計や飛行機の操縦、外科手術にも形式がある。それが効果的だと実証されているからだ。僕もその考えに従い、ストーリーを出版可能なレベルに高める方法を説いている。
人間の顔を作る主要なパーツは10個ある。目が2つと眉が2つ。鼻と口。頰骨が2つ、耳も2つで、卵型や丸型の枠に収まる。それが顔の設計で、だいたい皆に当てはまる。ストーリーを作るパーツもほぼ同数だから面白い。
合計11個しかないパーツを組み合わせるだけなのに、全く同じ顔の人は二人といない。一万人の顔を並べてみたら、双子以外はみな個性が違う。
個性は創造主の手から生まれる。11個のパーツに工学的な過程を施し、芸術的な結果を生み出す。
そこに学ぶべきだ。
ストーリーを作る時、僕らは神の役割をしなくてはならない
僕らも神のように、道具や型を使って組み立てる。何十億もの個性的な顔が11個のパーツで自然にできるなら、僕らもストーリーの設計を「形式的」と毛嫌いするべきではないだろう。
形式的と思うからそう見える。ストーリー作りの原則や要素を意識することは違う。
原則や要素を知らないから長年苦しむ。今からこの本を読めばわかる。
僕は出版に至らない人々の原稿をたくさん読んできた。その中で、いくつかのパターンに気づいた。
却下や落選の原因は、必ず6つのコア要素の中にある。
さあ、旅を始めよう
「好きに書いて何が悪い」という思いは忘れて、ストーリー作りの技術を学ぶ旅を始めよう。構成を練らずに書く方法がいかに非効率的で大変かも述べていく。
即興で書く時にも使えるチェックリストも掲載する。
過程はどうでも、完成度の高いストーリーはみな同じ着地点に到達する。6つのコア要素がすべて揃って満たされた状態だ。コア要素が揃わないストーリーは日の目を見ない。
6つのコア要素でストーリーを考える方法は、設計基準と構造から始めていく。即興で自由に書く方法は物語やアイデアから始まり、原稿を書きながら基準と構造を探る。偶然に頼る部分も大きい。
どちらの方法でも、六つのコア要素が働くまでストーリーは完成しない。
コア要素という呼び方をしなくても、本質的にそうだ。
本題に入る前に、もう一つ言っておく
僕が最初に出版した小説はニューヨークの出版社に原稿を持ち込み、一社目で契約が決まった。手直しや変更はほぼ求められず、USAトゥデイ紙でベストセラー入りした。僕にスティーヴン・キングのような知名度などあるわけがない。ただ、僕は6つのコア要素に従ってこの小説を書いた。わずか8週間で仕上げることができた。
後の4冊はやや自由に書いた。推敲して仕上げた初稿を送ったところ、編集者の意見を反映しての手直しは1時間以内で済んだ。1冊は業界誌パブリッシャーズ・ウィークリーで2004年の大衆向け市場のベスト本の中にランクイン。編集者推薦の1冊として、好意的なレビューも頂いた。
これから紹介するのは堅苦しい書き方ではない。自力で頑張らなくてはならない部分も多い。だが、原則とツールが揃えば実際にできる。
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