第2章 キャラクターに一貫性と矛盾を与える
あなたが大好きな人は誰ですか? 友人や配偶者、先生や親戚などを思い浮かべてみてください。その人のことで最初に思いつく性質は、その人の人格として一貫性がある面ではないでしょうか。いつも気持ちをわかってくれる友人もいれば、一緒に遊ぶと楽しい友人もいるでしょう。論理に強くて分析力がある先生や、スポーツや人生に前向きに臨む親戚もいるでしょう。
もう少し考え続けてみてください。すると、その人の意外なディテールも思い出すのではないでしょうか。あの人がなぜ、と不思議に思うような、矛盾した部分です。合理的な考え方の友人が変な帽子を被っていたり、身体を動かすことが大好きな友人が静かに天文学の本を読んでいたり、やさしいはずの友人が家の中で虫を見た瞬間にハエ叩きや殺虫剤で駆除しようとしたりする、といった意外な一面があるでしょう。
キャラクターの定義は行ったり来たりのプロセスをたどります。この人物はどういう人かと問い、観察する。自分の体験を思い出して活かし、実体験がないものは想像で作る。これらをキャラクターの一貫性と照らし合わせ、ユニークで意外性のあるディテールを考える。
このプロセスには場当たり的でまとまりがないように感じるところもあるでしょう。しかし、キャラクターのあらゆる面を見回せば、いろいろと、はっきりとした特徴があるはずです。創作過程でいまひとつリアルな魅力が出せない時は、何かの特徴を加えてキャラクターの幅を広げ、豊かさや深みを出すといいでしょう。
どのように始めるか?
身近な人をモデルにするか、誰かを観察するか、自分の特徴を当てはめるか、多くのディテールを組み合わせて描くか。いずれにしても、まず、キャラクターの最もはっきりした特徴を1つ選びましょう。第一印象として目に飛び込んでくる特徴です。
れは外見でもOKです。どのような外見か? 動き方は? 迷ったら、キャラクターが危険に遭遇した時を想像してみてください。どんな行動をして、どんな反応をするでしょうか? あるいは、キャラクターが大事にしているものを思い浮かべてもいいでしょう。
キャラクターの創作は段階を追って進みます。順番は前後したとしても、たいてい、次のような流れになります。
⒈ 観察か実体験に基づき、最初のアイデアを得る
⒉ 最初の大枠を作る
⒊ 一貫性を生む、コアとなる特徴を特定する
⒋ 複雑性を生む、矛盾した特徴を加える
⒌ 感情、態度、価値観を与えて肉づけする
⒍ 具体的でユニークなディテールを加える
観察
キャラクター創作の材料は、こまかいディテールの観察から得るものが大半です。
脚本家のカール・ソーターは飲食店で変わった客を見かけました。その客を観察し、自分のイマジネーションと組み合わせたことを次のように話してくれました。
「ワシントンD.C.でのセミナー受講生にいろいろなキャラクターを考えてもらったら、やさしい娼婦や、劣等感を隠して陽気にふるまう太った人といった例が出た。どこかで聞いたことがあるパターンがほとんどさ。昼休みに僕は外に出て、コーヒーショップである男を見かけた。ナイフを持って、スープを見ている。何をしてるんだろう、と思って眺めていると、パンのお皿に乗っている四角いバターが、冷たくてカチカチに硬そうだ。男はゆっくりとバターの銀紙をはがしてナイフを突き刺すと、スープに浸してからパンに塗った。確かに合理的だよね。バターを熱いスープに入れれば溶けて、パンに塗りやすくなる。そして、僕は考えた。この男はどういう性格なんだろう? この行動は何を表しているのか? 僕は授業に戻ると受講生にこの男の話をして、シナリオに当てはめて質問をした。この男は何者で、なぜそこにいて、何歳か。すると、受講生たちが発想したキャラクター像はびっくりするほど面白くなった」
広告のキャラクターの創作には、観察が特に大切になります。一世を風靡したCMクリエイター、ジョー・セデルマイヤーは会う人すべてをつぶさに観察すると言っています。人柄がにじみ出る癖に注目して俳優を選ぶことも多く、面白さとリアルさを求めて素人も起用しました。彼はまず人々を観察し、気づいたことをキャラクターに変換します。ハンバーガーチェーンのウェンディーズのCM「Where’s the beef? (ビーフはどこ?)」編にクララ・ペラーを起用した時のいきさつを彼はこう語っています。「あるコマーシャルの撮影でネイルアーティストを探していてクララに出会った。彼女は通りの向かい側で働いていたんだ。セリフのない役で出てもらったが、シーンの撮影が終わるとクララは振り向いて僕に気づき、『あらまあ、元気?』と言った。あの深みのある声でね。それがとてもいい感じだったから、いろいろな広告に出てもらった。ウェンディーズのCMの最初の案は、大きなバンズにちっちゃなビーフしかないハンバーガーを見て『ビーフは?』と若いカップルが言うというものだったが、いいとはまったく思えなかった。若者じゃなくて、お婆さんたちが言えば面白いのに、と考えた時に、ふと、クララを思い出した。彼女を出せば破壊的な面白さが出るぞ、と。『ねえ、お肉が入ってないんだけど?』という声が聞こえるような気がした。そこでクララに出演してもらったが、彼女は肺気腫を患っていて呼吸が浅い。だから『ビーフはどこ?』という短いセリフにした」
自分の体験を融合させる
最終的に頼れるのはあなたの実体験です。キャラクターの出来を確かめるのは自分の感性以外にありません。説得力があって、リアルで、一貫性があるかどうかの判断はあなたにしかできません。自分の感覚に従いましょう。
この点を力説するクリエイターは後を絶ちません。「自分が知っていることは必ず、実体験を伴っている」と映画監督で脚本家のジェームズ・ディアデンも言っています。「最後は自分の中から引き出すしかないんだ。僕の中にアレックスがいて、ダン〔共にディアデンが脚本を担当した『危険な情事』の登場人物〕がいる。実体験がなければ外に出て体験すべきだ。僕が書くキャラクターはみな僕の中から生まれている。内面から引っぱり出すんだ。この状況なら僕はどう反応するだろうか、といつも考えているよ」
カール・ソーターも同意します。「これは自分だな、と思える要素をキャラクターに入れるべきだと思う。どのキャラクターも自伝のようにするという意味じゃなくて、『ここで堂々と表現したい自分の一面とは何だろう』と尋ねることだ。自分にしか書けない物語を書き始められたら、書き手として新たなレベルに到達するよ。だから、僕は脇役の中にも、僕を映している部分をいつも探すんだ」
映画『レインマン』(1988年)のオリジナルの脚本を書いたバリー・モローは「自分が興味を持てるものか、書いていて楽しいと思えるものでないとね。『レインマン』のレイモンドの好物は僕の好物と同じ、野球とパンケーキだ。チャーリーの好物も僕と同じ──カネとクルマと女性だね」と打ち明けています。
『レインマン』の脚本のリライトを担当したロナルド(ロン)・バスはこう付け加えています。「チャーリーとレイモンドは僕の中にもいる。2人の欠点も長所も僕の中にある。人づきあいを恐れる反動で、やり過ぎてしまう部分もあるし、心に壁を作るのも、実はもろくて愛されたい願望があるのも僕と同じだ。脚本を書くのは自分の心と深くつながることでもあるから、人物が自分の中にいるか、いないかがよくわかる」
複数の脚本家が集まって書くテレビドラマシリーズでは、キャラクターの基礎を固める脚本家がチームの中に1人いることが多いです。その脚本家を基準にして、キャラクターの表現の振れ幅が適正かどうかを判断します。
『ザ・シークレット・ハンター』シリーズで多くの脚本を書き、番組のエグゼクティブ・プロデューサーにも名を連ねるコールマン・ラックは、自らをマッコールという登場人物に重ねています。彼は番組のほぼ最初から4年間にわたり、多くのキャラクター決定に関与しました。
「脚本家チームの誰かが、あるキャラクターになりきるんだ」と彼は言います。「書き手とキャラクターの間に共感が必要だからね。そうする以外にないと思う。僕の中にもマッコールに似た部分がある。僕はマッコールではないし、CIA諜報員でもないが、人生経験なら少しはある。従軍してベトナムに行き、22歳で戦闘もして、本当にいろいろあったからね。マッコールの考え方や罪悪感、寛容さや免罪を求める気持ちもわかる。内省して、自己をある程度知らなければ、キャラクターのこともわからない。まったく不可能だろうね」
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