CHAPTER 1 脚本家の素顔
001 努めて創造的・独創的になる
発見の旅というのは、まだ見ぬ景色を探すということではない。
見る目を養う、ということなのだ。
──マルセル・プルースト[作家]
クリエイティブであること。つまり独創的な創造性に溢れているということは、執筆稼業には欠かせない。映画の脚本であればなおさらだ。ほとんどの脚本家の卵が、これを理解していない。映画産業では“アイデア”が王様なのだ。何百本という脚本を読み、何千という企画会議に参加した業界人は「他の映画のバリエーション、前にも見たようなキャラクター、面白くもないアイデア、苔の生えた捻りとオチ」にウンザリしている。初心者が犯す間違いは、最初に頭に浮かんだアイデアだけで脚本を書こうとすることだろう。唯一無二の、つまりオリジナルなアイデアを捻り出す労力を費やす者は少ない。
トニー・ギルロイ: 類稀なる想像力を持つこと。それが脚本稼業の98%だね。“想像力”が仕事なんだよ。技巧も大事だよ。でも発見されるのは“想像力”の方だ。共同作業をするなら、経験豊かだが想像力が貧困という脚本家よりも、右も左もわからないけど想像力だけは誰にも負けないという人を選ぶね。
デレク・ハーズ: “クリエイティブでオリジナル”じゃなかったら、次の仕事は来ないよ。続編だろうがリメイクだろうが、請負い仕事であっても“他にはない”というのを出せないと。読んだ人の想像力がパッと閃く脚本をね。頼まれ仕事でも、自分の想像力で染め直すんだ。
マイケル・ブラント: デレクと僕は、いつもダメ出し会議をやるんだ。葉巻を咥えて、マネジャーも交えて、書いた脚本の場面やキャラクターのことを言い合うのさ。「それ、フツー過ぎ!」とか「ダメ、見たことある」とか言ってお互いを責め合って、もっとイケてる方法がないか、誰もやったことのない方法がないか探すんだ。「これだ」というのが出たら、一発でわかる。
特にハリウッドという業界でうまくやりたいならビッグアイデア仕掛けを中心に据えて脚本を書いていくことが重要になる。言っておくけどビッグアイデアといっても大掛かりな金のかかるものである必要はないよ。「3人のドキュメンタリー映画の撮影隊がブレアの魔女伝説の真偽を確かめに森に入る」というのも最高にビッグなアイデアだろう? しかも安上がりだったしね。
リータ・キャログリーダス: “類を見ないアイデア”と“独創的なアプローチ”こそが、いい脚本だけでなくて、映画制作そのものに最も必要なことですね。例えそれが何本目かの続編であっても、それが人気シリーズであっても、“あなたしか持っていないもの”を持ち込まなければこの業界では生き残れませんよ。自分のアイデアがあって、しかも人とうまく共同作業ができない人は駄目。
ビル・マーシリイ: ハリウッドのヘンなところはね「今大ヒットしているあの映画みたいで、しかも誰も見たことがないような映画を書いてくれ」とか言うことなんだよ。何度同じことを言われたか! 「誰も見たことのないような、シャープで、そうだな、ティム・バートンみたいなのが欲しいんだ」とかね。その度に「フーン、でもティム・バートンみたいなのはティム・バートンがやってるし」って思うのさ。でもこの業界で仕事をもらえるようになったら、避けては通れない道なんだ。
まあ、その前に脚本を書く時に気をつけなければならないことと言えば“初稿展覧会”にならないことかな。“思いつき”だけで書かれたことが見え見えの原稿を人に読ませるのは感心しない。そういう原稿から何がわかるかというと、書いた人は自分が書いたものを読み返しもせず、推敲もせず、よりよい表現を探しもせず、ただ思いつきを書いただけの怠け者だ、ということだよ。
僕の場合は“よくある表現”になっていないかチェックすることを自分に課すんだ。“20本ノック”と呼んでるんだけど、要するに執筆途中に手を止めて、自分に「同じことを20通りの方法で表現してみろ!」と迫る。この2人の登場人物が出会う最高の方法を20通り。追跡の方法を20通り。アイデアを出せば出すほど場面は生きてくる。素晴らしくなくてもいいから、ともかく20 通りのアイデアを捻り出していくと、9番目か10番目に光るヤツが出る。「最初の思いつきでいいや」って言わないことが大切なんだ。
トム・シュルマン: 脚本家としての君にすべての人が求めるのは“独創性”と“想像力”だね。何故なら、君が書いた場面がすでに何度も見たようなものだったら、たぶん読む人は飽きるよね。君がストーリーを編み出す時、キャラクターを作る時、プロットを練る時、自分に訊ねるんだ。「これは、どこかで見たことはないか?」。もし答えが「ある」だったら、独創的なアイデアを探さなければ。
002 語り上手になる
「よく聞け、バート。他のことはどうでもいいんだ。お前は話上手か?
皆を笑わせて、泣かせられるか? 感極まって声高らかに歌わせられるか?」
──『バートン・フィンク』イーサン・コーエンとジョエル・コーエン[映画監督・脚本家]
誰でも“お話”は好きなものだ。それが映画であっても、テレビや文学、短編小説、演劇やCM、冗談の類であっても。でも、もしあなたが“話上手”なら、つまり相手を笑わせ、泣かせ、同情させ、緊張させ、好奇心を抱かせ、驚かせ、安堵の溜息をつかせ、もしかしたら「オレもやらなきゃ!」なんて思わせることができるなら……もしあなたが、“お客さん”の心を掴むことに至上の喜びを覚えるような人で、お客さんの気持ちを鷲掴みにすることが“物語”の一番重要な要素だと理解しているのなら、あなたは生まれついての“ストーリーテラー”なのかもしれない。
ロビン・スワイコード: 物書きは、何を見ても起承転結を当てはめる習慣があるものです。何があったから何が起きた、という原因と結果を理解しているのですね。物事をそのように見る習慣がドラマを作り出すわけです。そのことが理解できない人は、物書きが何をしているかすら理解できないでしょうね。「作家になるのが夢なんです」と言う人は誰でも、現実世界を自分の中で再構築してその物語世界の“神”になることの大変さを理解した時、自分の存在の小ささに気づいて謙虚な気持ちになるんですよ。
003 孤独も楽しむ
執筆の人生は孤独な人生だ。しかし最高の人生でもある。
──ギュスターヴ・フロベール[小説家]
執筆というのは孤独な稼業だ。ある作家がこう言った。「独房入りを志願するようなもんだよ。しかもいつ刑期が終わるかは誰にもわからない」。物書きが独りで執筆するのは当然だが、物書きの多くは元々内向的な人が多いのも確かだ。読書や執筆の方が社交的な人間関係よりシックリくるという人たちだ。
誤解しないでほしいのは、孤独が好きではないからといって物書きに向いていないというわけではない、ということだ。皆さんの“師匠”たちとの対話からは興味深い事実が浮かび上がる。彼らの多くはとても社交的で、書くために無理やり自身に孤独を強いているということだ。
ロン・バス: 私は書く時は独りきりになるのを好みます。会議の時は皆でストーリーについて討議したり批評をしますが、書く時に隣に誰かが座っているのは嫌ですね。何故かと言うと、私は書きながら大声で独り言を言いますし、ウロウロ歩き回りますからね。書く時は活発になります。大抵は座って書きますが、いつでも立ったまま書けるように“立ち机”を何台か置いてますよ。そうすれば動きながら書けるし、身振りを加えたりできますから。書くという行為は頭脳だけのものではなくて、身体的なものなのです。書いている場面の感情に合わせて大きな文字で書いたり、太く書いたり、バツをつけて消したりします。公園にいれば公園の中でウロウロしますよ。さぞかし変人だと映るでしょうね。だからなるべく独りになれる場所を選びます。他の人の声が聞こえない場所をね。
レスリー・ディクソン: いい仕事をするためには、かなりの長時間を完全に独りきりで過ごさなければなりません。脚本を書き始めて最初の何年かは完全な孤独の中で作業できてよかったですね。誰にも「ああしろ、こうしろ」と指図されなかったから。今でも引きこもりにならない程度に脚本のクオリティを上げるために缶詰になるというバランスは難しいですね。
トム・シュルマン: 外界から無理やりにでも隔離されないと“声”が聞こえてこないんだ。自分が創造している物語の世界に喜んで没入して、登場人物たちが本当にそこにいると信じられなければいけない。脚本家の家族の多くは、僕たちが浮世離れしていると文句を言うが、無理もないよね。
ロビン・スワイコード: ある友達が、私と私の同業の知り合いを相手に性格診断をしたことがありました。結果は、全員内向的。もちろん偶然ではないですよね。全人口の2割程度は内向的だって聞いたけど、物書きはほとんどそうなんじゃないかしら。孤独と相性がいいんですね。大勢を相手にするよりは一対一のやりとりを好む人たち。だから私も部屋一杯の人がいる時は、一歩下がって観察に徹します。
※掲載しているすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。