メロドラマ映画を学ぶ

ジャンル・スタイル・感性

ジョン・マーサー/マーティン・シングラー=著
中村秀之/河野真理江=訳
発売日
2013年12月6日
本体価格
2,800円+税
判型
四六判・上製
頁数
280頁
ISBN
978-4-8459-1300-8
Cコード
C0074
備考
品切

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メロドラマ映画とフィルム・スタディーズの決定的入門書!

人間の道徳と感情の関係を中心的問題とする「メロドラマ映画」は、価値観が揺らいでいる現代において重要性を増しています。実際、欧米では映画研究の特権的な主題として様々なアプローチが企てられ、これまで多くの成果が生み出されてきました。しかし、日本では十分に議論が発展させられたとは言えず、欧米の成果もごく断片的な形でしか紹介されていません。

本書では、「メロドラマ映画とは何か?」という問いに対して、〈ジャンル・スタイル・感性〉の3つの本質から読み解いていきます。さらには、ダグラス・サークを中心に、D・W・グリフィス、R・W・ファスビンダー、トッド・ヘインズ、ペドロ・アルモドバル、ジョン・ウォーターズ等、メロドラマ映画の多様なスタイル事例研究も所収。作家性、ジャンル、イデオロギー、映画的ミザンセーヌ、フェミニズム、精神分析、受容と情動といったメロドラマ映画に関する主要な論争点を明解に整理する決定版です。

「メロドラマ的なもの」とは社会が世俗化し、超越的な価値によって人生や世界を意味づけることが困難になった近代に、端的に言えば神なき時代に、この世の悲惨や辛苦、抑圧と搾取などをどのように理解できるのか、そのような経験にどのような意味を与えることができるのか、こうした深刻な課題に独特な劇的形式で応えたものです。この場合、とくに道徳と感情の関係が中心的な問題として浮上してきます。もちろん、現代のわたしたちにとっても他人事ではありません。被害や差別に涙し、正義の成就に感動して泣くといった経験の意味を追求するということです。
(訳者まえがきより)

目次

訳者まえがき 中村秀之

謝辞 マーティン・シングラー
ジョン・マーサー

イントロダクション

ⅰ ジャンルとしてのメロドラマ映画
ジャンルの確立/メロドラマ映画史の構築/フィルム・スタディーズにおけるメロドラマの標準的な解釈/メロドラマの基礎モデル/ケース・スタディ──『散り行く花』『ステラ・ダラス』『理由なき反抗』/支配的イデオロギーにさからって読む/イデオロギー的矛盾として「過剰」を読む/メロドラマ映画に対するフェミニズムの批判/メロドラマと女性映画はひとつ屋根の下に入る/フィルム・スタディーズ版メロドラマの再定義/メロドラマの歴史を再構築する/フィルム・スタディーズ版メロドラマを擁護する/メロドラマと女性映画のジャンル化/そしてメロドラマの再定義はつづく

ⅱ ダグラス・サークのスタイルとその影響
ダグラス・サークの経歴/サークとフィルム・スタディーズ/進歩的なサーク/サーク的スタイル/物語の主題/ケース・スタディ──『天の許し給うものすべて』/サークの影響/『不安は魂を食いつくす』/トッド・ヘインズ──『エデンより彼方に』

ⅲ 〈メロドラマ的なもの〉の方へ──モードと感性
ジャンルを超えて/モードとしてのメロドラマ/メロドラマとペーソス/メロドラマの領域の劇的な拡張/メロドラマと道徳性/メロドラマとリアリズム/フィルム・スタディーズ版メロドラマを修正する/涙を直視する/ペーソスとアクション/メロドラマ映画の修正モデル/メロドラマ的な感性/男性メロドラマ/メロドラマ的な感性とアクション映画/メロドラマとゲイの感性/キャンプ/ゲイ・シネマとゲイの映画作家

結論──最後はいつも涙

メロドラマ映画作品リスト
重要文献リスト

訳者解説──メロドラマ映画研究の現在 河野真理江

索引[人名/映画作品名/その他作品名/用語]

プロフィール

[著]
ジョン・マーサー(John Mercer)
バーミンガム市立大学メディア学部上級講師。専攻はジェンダー&セクシュアリティ研究、映画・テレビ研究。ゲイとメディアとの関係を扱った論文を多数発表している。最新の論文に“Coming of Age: Problematizing Gay Porn and the Eroticized Older Man” (Journal of Gender Studies, Volume 21, Issue 3, 2012)、“Power Bottom: Performativity and Gay Pornographic Video” (Claire Hines & Darren Kerr eds., Hard to Swallow: Reading Pornography on Screen, 2011) などがある。

マーティン・シングラー(Martin Shingler)
サンダーランド大学メディア&カルチュラル・スタディーズ研究センター上級講師。専攻は、フィルム・スタディーズ及びラジオ研究。とくにベティ・デイヴィスの研究で知られる。著書に、Star Studies: A Critical Guide (BFI / Palgrave Macmillan, 2012)、共著に、On Air: Methods and Meanings of Radio (London and New York: Arnold, 1998)、論文に、“Making an Entrance: Bette Davis in Jezebel” (Film Moments: Critical Methods & Approaches, 2010)などがある。

[訳]
中村秀之(なかむら・ひでゆき)
立教大学現代心理学部映像身体学科教授。専攻は、映画研究、文化社会学、表象文化論。著書に、『映像/言説の文化社会学──フィルム・ノワールとモダニティ』(岩波書店、2003年)、『瓦礫の天使──ベンヤミンから〈映画〉の見果てぬ夢へ』(せりか書房、2010年)、共編著に『映画の政治学』(青弓社、2003年)、『甦る相米慎二』(インスクリプト、2011年)、論文に「『裏窓』再訪──その再帰的な観客性の批判に向けて」(『立教映像身体学研究』1号、2013年)など。

河野真理江(こうの・まりえ)
立教大学大学院現代心理学研究科映像身体学専攻博士課程後期課程。専攻は、映画研究(日本映画)。論文に「上原謙と女性映画──1930年代後半の松竹大船映画における女性観客性の構築」(『映像学』87号、2011年)、「文芸メロドラマの映画史的位置──「よろめき」の系譜、商品化、批評的受容」(『立教映像身体学研究』1号、2013年)、「『猟銃』論──文芸メロドラマの範例的作品として」(『映像学』90号、2013年)など。